第5話 私(瑞希)のスキルってそんなにヤバいの…?
次の階層へと下りて行くことになったが、景色に代わり映えするところは特になかった。2人は先程のように罠があるかもしれないと警戒をしながら慎重に探索を進めていた。
2人が探索をしている通路を進んでいくと大抵は少し広くなっている場所に出る。そこは、来た道を含めて3つか4つの道に分かれていることが多く、毎回どの道を選ぶか、そして、自分たちが来た道と行った道をどれにしたか地図を書きながら迷子にならないように気を付けていた。
地図を書いているのは瑞希の方だった。1回層からそうしていたというのが理由だが、凛華はこういった作業が苦手で、道を選ぶときも直感を頼りに選んでいるので、どうにも道を記憶できそうになかったのだ。
そうしていくつかの通路を超えて行くと、当たりの通路を選んだときは次に進む通路が1つしかない代わりにゴブリンがいることが多かった。このダンジョンでは基本的にゴブリンが出現するモンスターのようだった。
「瑞希、ここは私が…」
「ううん、わ、私にも戦わせて」
凛華は瑞希を守るために自分が戦おうとしたのだが、瑞希はそれを遮って自分も戦うと彼女に宣言をした。瑞希もただ守られるのではなく、凛華を守れるようになりたいので2人で協力して倒そうと話を持ち掛けたのだ。
凛華は瑞希のその気持ちがうれしくもあり、成長しているんだなと寂しくも思ったが、一緒に肩を並べて戦えることを喜んで受け入れた。
「それじゃあちょうどゴブリンも2体だし、2対2で戦おうか!」
「う、うん!」
凛華は荷物を降ろして刀を抜き、瑞希もそれにならって荷物を降ろしてから1階層で手に入れた『名無しの剣』を構えた。
名無しの剣は大人であれば片手で持てるような剣ではあったが、彼女の手には大きすぎて両手で持って構えることとなった。また、この剣は不思議と見た目ほど重くはないのか、それとも何かの効果を持っているのか、瑞希1人の手でしっかりと重さに振り回されることなく構えられた。
「それじゃあ、行くよ!」
凛華の掛け声とともに先手必勝、ゴブリンに向かって2人は斬りかかった。ゴブリンたちは2人の接近に気が付くと、すぐさま持っていた武器(一方は剣で、もう一方は槍)を構えて2人を迎え撃った。
最初にぶつかり合ったのは凛華とゴブリンの剣だった。ゴブリンとは言えど、多少は剣を扱えているので凛華の刀の軌道を捉えて剣で首を防いだのだ。
「あちゃ~、やっぱり普通の刀じゃダンジョン産のものには敵わないかぁ~」
凛華は防がれるとは思ってはいなかったものの、普通の刀とダンジョン産の武器ではやはりダンジョンで採れた武器の方が有効であることは予測をしていたようで、ショックはそこまで大きくなかった。
「凛ちゃん!」
瑞希はそう声をかけると、凛華は直ぐに後方を確認して瑞希と目線を交わすと、そのまま流れるように左に体をスライドさせ、その背後からスッと瑞希が現れ上段から剣を持ったゴブリンを斜めに斬り裂いた。
「瑞希!」
瑞希は凛華が声をかけるとこちらに向かって走ってきているので、(もぅ、無茶をしようとするんだから) と内心でも思いながらしゃがみこんで、身体を丸くして背中をしっかりと安定させると凛華はそれを跳び箱のように飛び越えてゴブリンの首を刎ねた。
「瑞希、ナイス!」
「ナイスじゃないよ、槍で向かってきているんだし突き刺さっていたらどうするつもりだったの!」
「それはちゃんと片手で跳んだし、片手は防御できるようにあけておいたから」
凛華は自分のやろうとしていることをアイコンタクトだけで察してくれた瑞希に笑いかけ、ちゃんと自分の身を犠牲にするつもりではなかったと弁明した。
瑞希はそんな凛華の様子に注意をしても無駄なのはわかっているが何度も言い続けることで少しは無茶が減ってくれることを期待するしかなかった。
『レベルが上がりました』
2人はゴブリンの死体が魔石に変わるのを見届けるとそのようなアナウンスが自分の頭に響いてきて、身体をビクッとさせた。
「レベルが上がったみたいだね」
「確認してみる?」
「あ、ちょっと待って」
鑑定の眼鏡を取り出そうとする瑞希を凛華が制止すると、凛華は自分の腕時計を確認した。
「あと30分かな?」
「30分?」
「そ。今は23:30分だからあと30分経たないとと鑑定が使えないんじゃないかなって」
凛華にそう言われて鑑定の眼鏡をかけて使用を試みたが、凛華が指摘をした通り使うことはできなかった。
鑑定の眼鏡の使用可能回数は3回で、瑞希のステータス、宝箱の中身、凛華のステータスでこの日の分は3回もう使用済みなのだ。
そして、鑑定の眼鏡が指すスクールタイムの1日というのは所有者がいる地域で日付が変更をするタイミングを1日としているらしい。
2人はそれなら鑑定をするのは後にしてこのまま探索を続けるか、区切りもよく、時間も遅いので一先ず2人で交代をしつつ仮眠をとるのがいいか話し合った。
結論としては時間が遅いということを意識してから急に眠気が襲ってきたということで3時間ずつ睡眠をとることにした。
「本当に私が先でいいの?」
「うん。凛ちゃんは私が穴に落ちてから急いで準備をしたり、ずっと私をダンジョンで探してくれたりしたでしょう? 私も眠いけど、まだすぐには寝れそうにはないから先に休んでほしいの」
「う~ん…」
「それに、私が起こさないと凛ちゃんが起きないんだから、少しでも私が寝る時間を確保するために早く寝て欲しいな」
「う、そう言われると言い返せなんだけど…。はぁ、分かったよ~、先に寝るけど、何かあったら起こしてよね」
凛華は自分が寝たらなかなか起きず、瑞希か妹に起こされなければ寝起きが悪いということも自覚はしているので、言いくるめられたのは仕方ないと思い持ってきたバッグを枕にして仮眠を取り始めた。
(凛ちゃんは寝つきもいいなぁ…。…っと、それよりも…)
瑞希は自分のギフトで気になるところがあったので、それを凛華に隠れて試そうとしていたのだ。
(もしかしたら凛ちゃんに相談をした方がいいのかもしれないけど、違ったら申し訳ないし…)
瑞希はまだ0時になっていないことを確かめるとマジックバッグと鑑定の眼鏡を手に取ってギフトを使おうと意識をした。すると、
『マジックバッグのスキルを引き継ぎますか?』
『鑑定の眼鏡からスキルを引き継ぎますか?』
再びあの無機質なアナウンスが頭に響いてきた。瑞希はとりあえずこの2つのアイテムからスキルを引き継ごうと試みたのだ。瑞希はそのアナウンスに、(はい) と頭の中で念じると、
『マジックバッグから〈無限収納(極)〉を承継しました』
『鑑定の眼鏡から〈鑑定〉を承継しました』
というアナウンスが立て続けに頭の中に響いてきた。瑞希はもしかしたら実験はうまくいったかもしれないけれど、何かとんでもないことをしてしまったのではないかと思い、自身に鑑定を使ってみた。
(えっと、目に意識を集中させて…、自分自身を…、視る…!)
――――――――――
名前:黛 瑞希
性別:女
年齢:15歳
状態:良好
Lv.2
Runk.1
体力 44/44 6UP
魔力 33/35 2UP
気力 21/21 4UP
物理攻撃力 14 3UP
魔法攻撃力 26 6UP
物理防御力 15 4UP
魔法防御力 19 5UP
器用さ 11 2UP
素早さ 8 2UP
幸運 78
ギフト:『思い出』
スキル
〈武術〉Lv.1 〈逃げ足〉Lv.1 〈根性〉Lv.1 〈剣術〉Lv.3 〈予測〉Lv.2 〈地図作成〉Lv.1 〈無限収納(極)〉Lv.1 〈鑑定〉Lv.5
称号
――――――――――
〈地図作成〉…地図を作成するときに補正がかかる
〈無限収納(極)〉…収納魔法の最終形態。容量に制限はなく、自身の創り出したい空間に道具を収納できる。また、内部では任意に時間を停止、加速、減速させることができる。
〈鑑定〉…対象の情報を詳細に視ることができる。
(うわぁ…)
瑞希は自身が新しく取得したスキルを見て思わずそんな声が漏れそうになった。凛華はマジックバッグも鑑定の眼鏡も稀少だと言っていたのにもかかわらず、自身でそれらのスキルを獲得してしまったので、これはバレたら本当に自分の身が危ないのではないかと感じたのだ。
また、〈地図作成〉も確かにダンジョン内を歩きながら細かく地図を作っていた時に少しずつだが書くのが楽になったと感じていた。それがスキルを獲得したタイミングなんだと彼女は思った。
さらに、彼女がもしかしたらまずいのではないかと思っているのは〈鑑定〉のスキルである。鑑定の眼鏡では1日に3回という使用制限があったにもかかわらず、瑞希ならば何度でもしようができるからである。
(あれ、そういえば私の魔力が減っているかも…?)
瑞希はそう思い、改めて確認をしてみるとそう魔力量から確かに4ポイント魔力が減っていた。そのことから鑑定を使用するのには魔力が2ポイント必要だということがわかった。
そのため現在の魔力量では最大でも17回まで使用可能ということである。
また、〈無限収納(極)〉は試しに持っていたマジックバッグを収納してみると、しまう際に1ポイント、取り出す際に1ポイントの魔力を消費した。さらに時間の経過が今はデフォルトで止まっているが、これを現在と同じ速度にするのに1ポイント、加速させるのにも1ポイント、減速させるのでも1ポイント必要ということで、時間の経過速度を弄るのにも1ポイント必要だということが分かった。
今回はお試しでしまったり入れていたりしただけなので、時間経過は弄ることなく確認を終了させた。
(う~ん、このスキルはかなりまずいよね…。とりあえず起きたら凛ちゃんに報告かなぁ…)
瑞希はそんなことを考えながら通路からゴブリンがやってきませんように、と祈りつつ凛華の寝顔を見ながら見張りをしていた。
3時間後、すぐに起きることはなかったが、瑞希に起こされたことにより凛華は目を覚ました。
「ふぁ~あ…、おふぁよう、みずき…」
「うん、おはよう、凛ちゃん」
凛華は寝ぼけていたが、瑞希の恰好と周囲を見渡して現在ダンジョンにいるということを思い出すと、自分で両頬をペチッと叩き意識をしっかりとさせた。
「うん、起きた! それじゃあ、次は3時間後に瑞希を起こすね」
「うん、お願いね」
瑞希はそう言って凛華と同じように通学カバンを枕にして、上着を毛布のように扱い眠りについた。
(瑞希は何も言わなかったし、特にゴブリンが襲ってきたりしたとかはないんだろうな)
凛華はそのように判断をすると、物音を立てないように刀を持って瑞希から離れると、そこで型の稽古を1人で始めた。
(瑞希を守れるようにしっかりと鍛えないと…!)
凛華は自分の隣に立って戦おうとする親友の顔を思い出しながら、その瞳を涙で曇らせることがないようにするために、必死に自分を鍛え上げるのだった。
それから凛華が眠ったのと同じ3時間が経過すると、凛華は瑞希を起こした。瑞希も寝起きが悪いというわけではないが、さすがに3時間の睡眠ではしっかりとした睡眠が取れなかったのか少し体がふらふらとしてしまった。
「おはよう、瑞希」
「おはよう、凛ちゃん…。寝ている間は、特に変わりなかった…?」
瑞希はもしかしたら自分に迷惑をかけないようにしていたのではないかと思い、そう尋ねたが凛華は本当に何も襲ってこなかったと話し、荷物をまとめていると、
「あ、瑞希。起きたところで悪いんだけど、タオルで私の背中の汗拭いてくれない?」
そう頼んできた。彼女は瑞希が起きるまでほとんどずっと稽古をしていたので汗でぐっしょりだったのだ。一応替えの服は瑞希のためにと思い何枚かあるのだが、まさか自分で消費するとは思ってもいなかった。
いつもの癖でしっかりと稽古をしていたので汗だくで、シャワーなんてものはないから汗を流すこともできずそろそろ寒くもなっていた。
「もぅ、ここがダンジョンってことを忘れないでよ…」
瑞希はそんな親友の変わらないところに呆れつつ、目の前で服を脱ぐだした親友の背中や手の届かないところをしっかりと拭いてあげるのだった。
「ありがとうね」
「うん」
「よし、それじゃあ早速…」
汗も拭き直り、多少の朝食をとると荷物もって移動を開始しようとすると瑞希がそれを制止した。
「あ、待って、ごめん。その前に話さないといけないことが…」
瑞希は昨晩の出来事を凛華に話した。確かにゴブリンなどの敵性のモンスターには襲われなかったかと、質問をしたが新しくスキルを得て、それが飛び切りの爆弾だったと瑞希から話されるとは思ってもいなかった凛華だったが、試してしまったなら仕方ないと、こちらも呆れつつ、
「私が昨日あれだけ言ったし、分かってると思うけど、本当にそのスキルのことは誰にも話さないように!」
「う、うん…」
「今だけでも瑞希のスキルはかなりヤバイよ? 今後も同じようにスキルを手に入れて行ったら世界のパワーバランスが瑞希1人でひっくり返るほどだから」
「そ、そんなに、かな…?」
瑞希はまさかそこまでのことではないだろうと思っていたが、凛華は真剣な顔でそれを否定して説明をした。
「まず、スキル持ちはいっぱいいるけど、ギフト持ちは少ない。これはいいね? だから結局のところめちゃくちゃ強いギフトを持った人がいれば確かに強い国になるけど、それでも戦力の大半はスキル持ちの人であることには変わりないの。それでね、大体の人は最初のダンジョン探索で1~5個のスキルが手に入って、それを鍛えつつ、新しくスキルを獲得しているけど、スキルを鍛えるのってすごい時間がかかることなの。でも、瑞希は強いスキルを一瞬で手に入れることができて、しかも記憶と一緒に承継しているから使い方もバッチリ。それに今はまだ判断できないけど、上限がないでしょう? だから瑞希を洗脳して、強いスキルを入れて適当に戦争吹っ掛けて、倒して相手からスキルを取って、また戦争を仕掛けて…、って繰り返していくと瑞希は最強クラスのヤバい人になるんだよ」
凛華は自分が考えられる最悪の展開を瑞希に説明した。過去に〈洗脳〉スキル持ちがいたことは確認をされているし、〈模倣〉というその場合は1つだけだが、相手のスキルをそのまま自分のスキルにできるという特殊なスキルの報告は上げられている。
今現在も彼らの死亡は報告されていないのでおそらく世界のダンジョンのどこかにいるはずである。そんな彼らがもしも手を組んだり、世界に反旗を翻したりすれば、今の地球を簡単に手中に収めることができてしまう。そんな凶悪なスキルの組み合わせも存在しているのだ。
瑞希は凛華の説明で涙目になり、どうしてそんな力を自分なんかが得てしまったのかと嘆いていたが、凛華は自分が守るから安心して、と慰めて瑞希が落ち着くまでその場で休み、ようやくダンジョンの探索を再開するのだった。
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