第3話 落とし穴に落ちたけど、救いの手がやってきました…!

「きゃああああああっ!」



 瑞希はまたもや悲鳴とともに落下をしたが、それと同時にこんな悪辣な罠であるからこれでもう本当に助からないけどゴブリンには一矢報いられたかと思っていた。



(凛ちゃん…、凛ちゃん…、ごめんね。また会いたかったよ)



 彼女は今までの彼女との思い出を振り返りながら落ちているとゴブリンが空中にもかかわらずそのまま斬りかかって来たので、



「せめて、あなたが下になりなさい…っ!」



 瑞希は宙で剣を持つ手首を掴み自分の下に投げるとそのまま地面に落下した。



「これが最期か…」


 瑞希がそう思っていると、



『レベルが上がりました』『ランクが上がりました』『ギフトの選定を行います』『スキルを獲得しました』


 そう言ったアナウンスが聞こえてきた。そして、いったい何事かと思ったところで地面と衝突をした衝撃が彼女を襲った。



「痛った~…、って、あれ? 何で私この高さから落ちて平気なんだろう…」



 瑞希は自分のお尻の下を確認してみると紫色のゴブリンがちょうど光とともに消滅をしているところだった。しかし、それを差し置いても凡そ30mは落下をしていたと考えられるような感じだったのでそれだけが原因ではない気がしていた。


「あ、そういえば、さっきのアナウンス」



 どうして無事だったのか考えていると、瑞希は先程のアナウンスを思い出した。



「えっと、ステータス!」


 彼女はそう唱えてみるが、ステータスを確認するには専用の機械か道具が必要とされているのでステータスの確認はできなかった。


 しかし、先程までの追われていた時とは違って何か不思議な力は得られたような気がしていた。



 瑞希は一人でステータスと叫んで確認しようとしたことが恥ずかしくなり顔を赤くしたが、そんなことよりもここからどうすれば脱出できるのかと次に待ち受けている問題について考えこんでいた。




 そして、それから30分ほど考えてはみたが、今の自分の状況は詰んでいるのではないかという結論に達し、瑞希は泣きそうになり膝を抱え込んでいた。


(いくらステータスやスキル、もしかしたらギフトもだけど、手に入れていたとしても30mも手でこの壁を上るなんて無理だよぉ…)



 一応は自分のステータスがどのくらい手に入ったのか希望をもって壁を叩いてみたのだが全くびくともしなかった。それなら魔法はどうかと思って、「水よ、出ろ!」「火よ、燃え上れ~!」「風よ、切り裂け~!」と声高に叫んでみたが魔力か何かわからない不思議な力は感じても全く変化はなかった。


 彼女は自分が何のスキルを手に入れたのか手がかりを掴むこともできずに30分を過ごした。そして、ついには諦めたのだ。



(そういえば、あそこに落ちているあの紫のゴブリンが持っていた剣と魔石だけでも回収しておこうかな)



 瑞希は一緒に落ちてきたゴブリンの戦利品として剣と魔石を回収しようとすると、再び頭にアナウンスが響いて来るのだった。



『名無しの剣のスキルを引き継ぎますか?』

『ゴブリンの魔石からスキルを引き継ぎますか?』



 連続して問いかけられたアナウンスに瑞希は驚いて変な声を上げてしまったが、スキルを引き継ぐというのはなんだか怖い気がしたので、とりあえずゴブリンよりは剣の方がましだろうと思い、名無しの剣のスキルを引き継ぐ、と思うと握っていた剣から記憶が流れ込んでくるのだった。




 その剣は中身のない鎧の騎士が持っていた剣だった。その鎧の騎士は宝箱の守護者だった。ダンジョンに挑んでくる者がいなかったので彼は時折迷い込んでくるモンスターや挑んでくるモンスターを切り続けていた。



 そして、彼は宝箱の前で挑戦者を待ち受けていると棍棒を持った緑色のゴブリンが現れた。彼はそのゴブリンが無謀にも挑んでくるので特に気に留めることなく、いつも通りゴブリンを切り裂いた、はずだった。



 ゴブリンはその剣を躱すとケタケタと笑い、鎧の騎士を殴打し続けた。騎士は剣を当てようとするがゴブリンにはなぜか当てることはできなかった。



 そして、ついに一発当てたかと思うとゴブリンの体色は黒く変化し、先程よりも激しい攻撃を仕掛けてきた。その後、鎧の騎士は強化されたゴブリンに為す術も無くやられた。


 そして、主を失った剣はそのゴブリンに拾われたかと思うと、そのゴブリンは紫色に変化をし、今度は目の前に現れた女の子を狩りの標的としていた。



「こ、これは…」



 瑞希は自分の見たものがこの剣が記憶している出来事だということを認識した。そして、


『名無しの剣からスキル〈剣術〉〈予測〉を承継しました』


そんなアナウンスが流れた。



「スキルを承継?」



 瑞希には何が何だかわからなかったが、とりあえず自分のスキルに〈剣術〉と〈予測〉が加わったことはわかった。


「…でも、この状況じゃ役に立たないよなぁ……」



 瑞希は自分の置かれている状況を鑑みても何かを斬りたいわけでもなければ、予測することもないのだ。ただ落とし穴から脱出するために壁を上りたいのだ。



 瑞希はとりあえず剣を自分のものにできると思い大事そうに握り、魔石は記憶を読み取ることはせずに持っていたカバンの中にしまった。



 そして、どのくらい時間が経ったのかはわからないが、お腹が空いてきたので先程朝食用に買ったパンを半分食べて空腹を紛らわせていた。



(私はいつまでこうしていればいいんだろう…)



 瑞希は一人で膝を抱えて丸くなりながらそうしていると、



「あ、いた! 瑞希!」



 聞こえるはずのない親友の声が聞こえた気がした。ああ、自分にはもう生きる気力もなく、とうとう幻聴でも聞こえたのかと思い、顔を上げるとこちらを覗き込んでいる凛華の顔がそこにはあった。


「瑞希!」


「え…、凛、ちゃん…? どうして、ここに…?」


「そんなの瑞希が落ちて行ったのを助けられなかったからに決まっているじゃん」



 凛華はそう言うとロープを垂らしてくれた。



「とりあえず事情は瑞希が登ったら話すね。ほら、これ掴んで」


 凛華はロープをしっかりと握るように言うと力いっぱい引っ張ってくれた。瑞希もただ引っ張られるだけでは彼女の負担も大きいのでロープを頼りに自力で登ろうと壁に足をつけて上った。



 2人で協力して頑張った甲斐もあって瑞希は落とし穴から脱出できた。



「ふぅ~、やっと上ってこれたね。重いと思ったらそんなものまで持ってたのか」


「あ、ごめん…。せっかく手に入れたからあのまま置いて行くわけにはいかなくて…」



「あ、ううん、それは別にいいよ。でも、瑞希の雨に借りてきた木刀は無駄になっちゃったな」


 凛華はそう言うと持っていた荷物を見せてくれた。どうやらロープはしっかりと杭でダンジョンの壁に固定してくれていたようでそう簡単には抜けないようにしていてくれたらしい。


 そして杭を打ち付けるためのハンマーや、怪我をしていた時のための救急道具まで持ってきてくれていた。さらに、極めつけは刀を一本鞘には入っているが彼女は持ってきていた。



「そ、それどうしたの?」


「ああ、これはお爺ちゃんに無理言って借りてきたんだよ。モンスターには効き目が薄いかもしれないけど、殺すための物を持って行かないと守り切れないと思って」



 凛華の目はとても真っすぐに瑞希を見つめていた。



「約束したでしょ? 私が凛華助けて、瑞希が私を助けるって」


「うん…っ!」



 瑞希は凛華の真っすぐな気持ちにまた泣き出してしまった。凛華はそんな瑞希を小さい子をあやすかのように大事そうに優しく抱きしめていた。



 それから瑞希が泣き止むとどうしてここに来ることができたのか彼女は説明をしてくれた。



地震が起きたとき既に彼女は高校を出ており、コンビニの近くまではやってきていたそうだ。そして、瑞希の姿を見つけて後ろから声をかけて驚かそうと思っていると穴が急に開いて瑞希が落ちて行ったのだ。



慌てて瑞希を追いかけようとしたが周りの人に制止されて、その場では追いかけることができず、警察が来て立ち入りが禁止されてしまった。


急いで家に帰ると、瑞希が突然発生型のダンジョンに落ちたことを家族に知らせ、瑞希の家にも伝えるように言った。そして、凛華はどうするのか、と親に聞かれ、


「そんなの助けに行くに決まってるじゃん!」


 両親はその答えはわかりきっており、また、止めても無駄だということはわかっていたので母親は瑞希の家に連絡を入れに行き、父親は祖父と相談をして刀を一本、瑞希の護身用に木刀を一本貸与してくれたのだ。そして、瑞希が怪我をしていた時のためにと救急道具、それとロープや杭、ハンマー、非常食や水、ライトをカバンに入れて凛華を送ってくれたのだ。




「その時はちゃんと2人で無事に帰ってくることを約束させられたけどね」


 凛華は笑ってそう話してくれた。



「で、でも、警察の人が穴を見張ってたんだよね…?」



 瑞希がそう尋ねると、



「うん、確かに見張ってたけど、私が全速力で突っ込んだら抜けられたよ?」


 凛華はあっけらかんとしたような口調でそう答えた。その答えに瑞希は呆れつつも、そこまでして駆けつけてくれた凛華に感謝の気持ちを伝えた。



「さて、それじゃあ、このダンジョンを早く脱出しないとね」


「あ、うん、そのことなんだけど」



 瑞希はこれまでの探索のことを伝えた。そして、宝箱を守護するモンスターがいてそれを運よく倒していることを伝えると、彼女は驚いていた。



「虫を殺せそうにもない瑞希がモンスターを討伐しているなんて…!」


「もう、私だって好きでやったんじゃないもん…」



 瑞希は拗ねたようにそう答えるが、これが凛華なりの気遣いであることはわかっていた。モンスターを殺めたということで心に何かしらの傷を負うかと思ったが、そこまで特に影響を受けていないことに瑞希自身も驚いているが、問題はなかったので軽い調子で返せたのだ。


 凛華も瑞希にそこまで悪い影響が今は出ていないということが確認をできたので、せっかくだから宝箱を確認してこようということになった。



宝箱のあった広間に行くとそこにはほかにモンスターがいるということもなく安全そうだった。



「これが瑞希の言っていた宝箱なんだよね?」


「うん」


 凛華は宝箱を開けようとするが、宝箱は開かなかった。



「開かないよ、これ?」


「そんなはずないと思うけど…」



 瑞希が明けようとするとすんなりと宝箱は開いた。



「うん、守っていたモンスターを倒した人しか開けられないみたいだね」


「なるほど…、それで中には何が入ってるの!?」



 凛華は興味津々な様子で宝箱の中身をのぞき込むと、そこには眼鏡と緑色の液体が入った瓶が3つ、更に瑞希が使っていたカバンとそっくりなカバンが入っていた。


「何これ?」


「う~ん、分からないけど、とりあえず出してみるね?」



 瑞希は宝箱から眼鏡を出してかけてみると、視力はそこまで悪くなかった瑞希だったが、より一層よく見えるようになった。そして、これは何だろうと思うと、



――――――――――

鑑定の眼鏡


所有者の視力を1.5までに調整してくれる。また〈鑑定〉スキルが使用できるようになる。

本日の残り使用可能回数 2/3


――――――――――


「わわっ!」


「そうしたの!? 大丈夫!?」


「う、うん、平気。この眼鏡は鑑定の眼鏡だって」



 瑞希はあと2回までなら鑑定スキルが使えることを伝えると凛華は興奮したようにそのすごさを瑞希に伝え始めた。


「鑑定スキルが使えるの!? 鑑定スキルってファンタジーで定番のものだけど、なかなか手に入らない上位スキルだよ! それに、鑑定できる魔道具が世界で3つだけしかなくてダンジョン委員会が管理しているんだよ。だからみんなスキルを鑑定するためにはすごい時間がかかるって」


「へぇ~…」


 瑞希はその勢いに押されて曖昧な返事しかできなかったが、かなりすごい魔道具を入手することができたのだということは理解した。


 そして、その眼鏡をかけたまま2つのものを纏めて鑑定した。



――――――――――

マジックバッグ(大)


見かけによらず、かなりの量の物をしまうことができる。中には時間停止の魔法もかかっており、生きている物以外ならしまうことができる。


所有者:


――――――――――


――――――――――

回復ポーション(小)×3


体力を10~50回復させる


――――――――――



 どうやらマジックバッグとやらはかなり有用なものだということが分かった。また、所有者固定の機能もあるみたいで他の人に盗られても心配はないという防犯機能もしっかりとしているようだった。


 また緑色の液体は体力を回復させる効果があるようで、瑞希は落下をした影響もあるからダメージがあると思い、1本だけ飲んでみた。味は酷渋みの凄いお茶という感じで、少なくとも積極的に飲みたい味ではなかった。



 また、そのことを凛華に伝えると回復ポーションは割と三種されることから驚きは少なかったが、マジックバッグはまたもやかなり驚かれた。マジックバッグ(大)ともなると国が数億円払ってでも買い取りたい品物だそうだ。それよりグレードの低い(小)や(中)も取れなくはないが、その数は極めて少なく、また手に入れた者も手放そうとしないのでとても高価なのだ。それが(大)ともなると、奪い合いが起こる可能性もあることから秘匿した方がいいとも言っていた。



 2人は今手に入れたものだけでも一生遊んでいられると思うと恐ろしくもなり、顔を見合わせて乾いた笑みを浮かべるのだった。

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