地球にダンジョンができました!?

プロローグ

 それは突然のことだった。12月の初めの頃、ちょうど正午を告げる鐘が鳴り始めたときは急に落ちてきた。



 世界中で宇宙の観測をしている機関があるにもかかわらず、どこからともなく突如としては現れ地球の大気圏内に突入してきたのだ。



 が落ちてきたのは日本からも離れた海洋の上だったにもかかわらず日本を含めた世界中の国々に大きな影響をもたらした。


 落ちてきたものは隕石だというのが最初の見解だったが、今でもそれが本当に隕石だったのかは謎のままとされている。



 何故ならその飛来してきたものは一見すると隕石のようだったが、その構造が今までに飛来してきた隕石とは異なっていたからだ。



 飛来してきたものの大きさ、被害の状況からいくつかの国から調査団が派遣されてその隕石の回収及び調査が進められた。その時に海中で見つけられた隕石の大きさは、縦に4メートル、横に6メートル、高さが5メートルというサイズだった。



 隕石を研究機関に持ち込んで解析を進めたところ、隕石からは微弱な未知のエネルギー反応があり、さらには内部が空洞になっていることが分かり、宇宙人が乗っているのではないかと話題にもなった。



 それからしばらく世間では隕石の話題は数日続き、とうとう内部を確認するために隕石は真っ二つに切断をされた。



 しかし、内部には生物の存在は確認できず、宇宙人が乗っているのではないかという話題はただの噂、妄想と処理されるようになっていた。



 それから事態が急変したのは隕石の飛来からちょうど2週間後のことだった。



 それは、複数の場所で観測をされたことであり、隕石の研究機関で数人の研究員が隕石の解析を再度行っていた時に発生した。



 研究員が隕石を解析していると、以前感じたエネルギー反応が無くなっていることに気が付いた。そんなバカな話はないだろうと再度解析をするとやはりなくなっていた。



 そのことを上司に報告しようとしたとき、大きなエネルギー反応が観測され、隕石が突如として発光し、研究員を巻き込んで大きな爆発が引き起こされた。このことは、当時の状況をたまたま記録していたビデオが奇跡的に残っていたからわかったことだった。



 そして、その爆発から数分後、世界中のあちこちで地震が発生し、突如として不思議な洞窟や穴が発生したのだ。世界中のあちこちで地球最後の日が迎えられようとしているのではないかと噂されるようになり、世界中は騒然とした。



 あちこちで起こり続ける地震は3日ほど断続的に続いた。



 地震がおさまると各国で調査団が形成され、時刻に突如として発生した洞窟や穴についての調査が始まった。そして、調査団の報告によると穴や洞窟の先は見たこともないような不思議な空間が広がっていたそうだ。



 不思議な空間が広がるそこには未知の鉱物や植物、今まで見たことがないもので溢れていた。さらには燃料の代替品にもできる石が落ちていたということもあって、世界中がこぞってその不思議な空間の調査に乗り出した。



 最初の頃はその空間は何なのか、どんな物が採れるのかと調査に夢中になっていたのだが、1週間が過ぎたころから帰ってくる人が急激に減った。そのことを怪しんで新たに武装をした調査員を派遣すると、翌日血まみれになった調査員と調査団のメンバー数人が帰還をした。



 そして、彼らは戻るとほぼ同時に入院をすることになったのだが、その中でも最も軽症だった者から「緊急に会見を開きたい。このことは直ちに世界中に伝えねばならない」と告げられ緊急で記者会見が開かれた。



「お集まりいただきありがとうございます。今回はあの洞窟について我々が体験してきたことを伝えます。あの空間はまるで異世界です。あそこでとれた鉱石ですが、地球上で今まで見たことがないような硬度を持っております。そして、この宝石のような石、我々調査団はこれを魔石と名付けました。」



 そのように報告をすると場内は一層騒めきだした。洞窟の内部を異世界のようだと呼称し、加えて取れた宝石を魔石だと告げる、まるでファンタジーの話じゃないか、現実と空想の区別もつかないのではないかという声すら聞こえた。



「お静かに。我々が空想の話をしていると思われる方も多いでしょう。それではこの写真をご覧ください」



 彼がそう話すと彼は近くの者にスマホで撮影したと思われる写真を見せた。



 そこには、緑色の体色をした子供のような身長で少しお腹の膨らんでいる醜い顔をした化け物が写っていた。さらには、これが合成ではないことを示すかのように動画が流された。



 動画内では帰還した調査団のメンバーが持っていたハンマーで殴ったり、化け物の持っていた棍棒のようなもので頭を殴られて血を流したり、そして、1人の男性が持っていたサバイバルナイフで頭を刎ねて紫色の血を噴射したところまで撮影されていた。



 その光景を見せられた人たちは気分が悪くなったのか口元を手で覆うものや、急いで会場から抜け出してトイレへ向かうもので溢れた。



 そして、そんな光景を気にすることもなく調査員は次の動画を再生した。



 次の動画は化け物を倒した直後に撮られているようだが、そこには化け物が光とともに消滅をして、倒した調査員の人たちが光り輝いている光景が移されていた。



「化物が光とともに消滅をして残ったものがこの宝石―――魔石です。この魔石からは微弱ながらも調査をされていたエネルギーと同様の物を感じられます。さらに、我々は化物を倒した直後に『ランクが上がりました』『レベルが上がりました』『ギフトの選定を行います』『スキルを取得しました』そういったアナウンスが直接頭の中に響いてきました。我々はこれを確認すると、まるでゲームのようなステータスを取得しておりました」



 彼はそう告げると手元から光を放った。



「私が獲得したのは〈光魔法〉というスキルでした。ナイフで倒した彼には〈短剣〉というスキルが与えられたそうです。ギフトについては我々が発現することがなかったことから他にも何か条件があることでしょう。以上のように我々は摩訶不思議な体験をしてきました。そのことからあの空間内を我々がゲームのようだと言ったことから多くの者が認識しやすいように〈ダンジョン〉と、そう名付けさせていただきます。我々から伝えたかったことは迂闊にあの中に入ってはいけない。帰らないものが多いのは既に亡くなっているからだ、そう認識をしていただきたいからです」



 彼はそう告げると立ち上がり一礼をしてそのまま会場の袖に控えていた医者に声をかけ、そのまま運ばれて病院へと向かった。



 多くの報道陣は今話されたことは本当だったのか、あの動画は本物だったのか、本当に死んでしまったのか、様々な疑問で頭の中はいっぱいだったのだが、調査員の人が静かに消えていったことでその質問をすることはできなかった。



 しかし、彼がもたらした情報は世界中に一瞬にして広まった。そして、それを確かめるように軍隊が派遣され、確認をしてみると重傷で血まみれの軍人が数人しか帰還できなかったことから、彼が伝えたことは真実であったと裏付けることになった。



 そこから各国の対応は迅速にとられた。内部のモンスターが外の地上に出てくる可能性はあるのか、どの程度の武器があればモンスターを倒せるのか、魔石の使い道は何があるのか、ギフトとは、スキルとは何か? 多くの疑問に対応するために〈ダンジョン委員会〉が世界中に作られ情報を秘匿することなく交換されることとなった。



 そして、年が明けるころには多くの協力者による情報提供、ダンジョンによる犠牲によって、判明したことがいくつかあった。



・内部からモンスターが出て来るのは、規模の違いもあるがダンジョンができてから凡そ1週間ほど誰もモンスターを討伐しなかったときである


 これはとあるアフリカの国で判明したことだが、人知れずにひっそりとダンジョンができていたようで、そこからモンスターが溢れ出して多くの死傷者を出した後に軍隊によって鎮圧をされたことで判明したのだ。そして、何故1週間か判明したのかは生き残った近隣住民の声があったからである。


 ダンジョンができて子供たちが勝手に内部に入り込むことがあったようだが、大人たちは危ないからやめるように告げたようだ。そして、勝手に入らないように子供も入れないように板で塞いでしまったそうだ。



本来ならダンジョンを発見した時点で国に報告をする必要はあったのだが、国に報告をしたところで何か報奨があるわけでもなく、寧ろ軍隊が出入りするということから誰も国に報告をしなかったのである。


 それが約1週間前のことだったということから凡そ1週間誰も入らなければモンスターが地上に出て来るのではないかというのが結論で、この国で起こった悲劇の経験から発見による報告についても一律の金額が支払われることも決まった。



・武器はダンジョンの内部で採れたものを使用して作成した武器、若しくはダンジョン内部で手に入れた武器、これが最も有効である。銃火器の類も効果を示すが、コスパが合わないというのも結論である



 ダンジョン内はやはり異空間なのか地上とは効果の程度が違ったのである。ダンジョン産の鉄で作ったナイフとただのサバイバルナイフでは通りに差があり、調査員の人がナイフで首を刎ねられたのは奇跡だったか、余程ナイフの扱いがうまかったのだろう、そう言われるほどだった。



 銃に関しても確かに当てることができればダメージは入るようだが、ヘッドショットを決めても吹き飛ばすことができるということもなく、数発当てなければ倒すこともできないのだ。



 そのことからダンジョン内で手に入れたものの方が有効打になるということが結論付けられた。



・〈スキル〉・〈ギフト〉とは個人が持つことができる技である。〈スキル〉は自己の経験から、〈ギフト〉はダンジョンの製作者か神様か、何者かによって1つだけ与えられる願望を形にしたもの



〈スキル〉については最低でも1つはステータスを得た瞬間に獲得できるものだった。これは数多のダンジョン内での探索者の話から明確になったことだ。どんなに小さな子供であっても、1つは〈スキル〉を獲得できたことから最初に手に入るものについては何らかの法則性があることが判明もした。


 それは、最初のモンスターを討伐した時に何をしていたか、これに尽きるのだ。一回でも蹴りを入れていれば〈蹴り〉スキルが、一回でも殴っていれば〈拳〉スキルが、まったく戦闘をしていなくてもどのようにしていたかによって〈観察〉、〈隠密〉、〈逃げ足〉といったスキルが獲得できていたことから最初の戦闘を終えるまでの経験からスキルが獲得できるというのが結論だった。


 しかし、〈ギフト〉は全くこれとは性質を異にしていた。〈ギフト〉の所有者は世界中を見てもダンジョンを探索している人の1割いるかいないかという程度である。あくまでこれは自身が取得をしたという報告者に限るがそれでも、増えても2割には遠く及ばないというのが見解だ。



 〈ギフト〉のもたらす恩恵は絶大なもので持っているかいないかでその実力には大きな開きが出るとも言われている。例えば〈剣豪〉のギフトの持つ〈剣術〉スキルと普通の人が持つ〈剣術〉スキルでは威力や速度、キレがまるっきり違うのである。


 そこまでの差をもたらす〈ギフト〉の取得方法は未だに正確には判明していない。しかし、判明していることは『その者が強く願った力』『その者が生まれながらにして持っている絶対的な性質』『その者の最も強気想い』そう言ったものが反映されているということだ。



 〈剣豪〉のギフトを持つ者は、剣の道に憧れ、たった一本の木刀でモンスターに挑み、負けそうになった際に強く願ったのだ。「このままでは終われない。現代に生きる侍のように俺はなるんだ!」そう強く願い、想い、モンスターを倒しきると、そのギフトが与えられたと言っていた。


 また、〈魔眼〉のギフトを得た者もいた。彼女はダンジョンに無理やり連れられた盲目の者だった。そして案の定ダンジョンでモンスターに襲われ、負けそうになると生贄として推し飛ばされた。そして、彼女はボロボロになりながら地に付していた。「あぁ、自分の人生は何だったのか、一度でもいいからこの世界を観たかった」彼女はそう強く思いながら意識を手放そうとしたときに偶々駆けつけてくれた人たちによってモンスターは討伐された。その際にギフトを獲得したと言っていた。



 このことから死を間近に感じたときに抱いた強い感情が必要なのではないかと思われたが、意識的に死の危険性を作り出しても得られなかったことからも何らかの要素が欠如しているのだと考えられた。



また、それならなぜ最初の会見で報告をした者たちにギフトを持った者が現れなかったのかという疑問も投げ出され、必ずしも死の淵に立つ必要がないのかもしれないという説すらも存在する。



 以上のように様々な検証や推測がたった2か月の間で行われた。それだけ世界中で早急に取り組まなくてはならない出来事だったのだ。そして、3月からは各国でダンジョン委員会が本格的に始動することになり、一般人でも探索をすることが可能になった。



 これが今の地球における現状だった。

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