第6話
彼女。
海岸を歩いている。
声をかけようとして、やめた。彼女の姿を、眺める。偽物の煙草。口にくわえる。ライターは、持っていない。
彼女が、こちらに気付く。ゆっくりと、歩いてきた。
「よお。元気?」
「なにそれ」
彼女。にこっと笑う。
「仕事がさ。終わったんだ。だから逢いに来た」
「わたしに?」
「行き止まりから、出してあげようと思ってな」
彼女。表情に、一瞬だけ、迷いが出る。
「わたし。ここに身体が沈んでるの。だから、ここからは。出れない」
「処理の段取りがついた。街と国が共同で、爆発物を処理する」
「海底の爆発物を?」
「ああ。今は、昔と違って、大規模な施設がある。どこかの山奥にある大学に収容して、兵器開発に利用するんだってさ」
「兵器」
「理論上は、地球すら爆破できる兵器ができるかもしれないって言ってたぞ」
「そんな」
「構うなよ。どうせ上手く行きやしない。何十年も海に沈んでいた自然物質なんて」
「でも。わたし」
「洗脳されてるよ。あなたは。ここにいる。海に身体が沈んでいたりはしない」
「わたし。わかってる。わかってるの。でも。他に、方法がなくて。ここに、ずっといないと、いけないと。思って」
彼女。
普通の人間なら泣くところだが、彼女は、にこっとほほえむ。自分で自分を押し込めすぎて、感情のコントロールがうまくできないのか。
「無理しなくていい。ちょっとずつでいいよ」
「わたし。どうすれば」
「行こう。俺もここに住むよ。一緒に、いよう」
夕陽。
少しずつ、ゆっくりと。
海岸線に、沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます