「何を書いてるんだ?」


「手紙」


「ボトルメールか」


「うん。もう、ここには何もないから。ボトルメールは、遠くまで届くの」


「うまく海流に乗せないと、ここに戻ってくるぞ」


「それならそれで、いいわ。わたしも、たぶんまた、ここに戻ってきてしまうのだから」


「そのときは、俺も一緒だ」


「うん。一緒」


「どうした?」


「ごめんなさい。泣くところじゃないのに。涙が。止まらなくて」


「感情を無理にコントロールしなくていい。泣きたかったら泣いて、笑いたかったら笑えばいい。ちょっとずつ。普通を塗り換えていこう。ふたりで」


「うん。ありがとう。ボトル取って」


「もう、できたのか」


「一言だけだから。わたしが伝えたいのは、これだけなの。わたしを行き止まりから救ってくれた、唯一無二のもの」


 手紙を読んだ彼が。にこっと、笑う。


「いいボトルメールだ。長々と伝えるよりも、はるかにいい」


 彼女が、手紙をボトルにしまって。彼が、栓をする。


「さあ。投げな」


「うん」


 彼女。


「えいっ」


 勢いよく、ボトルメールを投げた。かなり遠くまで飛んで、見えなくなる。


「強肩だなあ」


「行こっか」


「そうだな。行くか。どこに行きたい?」


「駅前。わたしの指輪と、あなたのライターを買うの」


「それはいいな。行こうか」


 海岸。


 きれいな朝陽が、揺らめいていた。

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