第4話

 彼女と、はじめて会ったとき。

 美しいと、思った。

 海岸線を歩く、その姿が。ボトルメールを拾って読む、その姿が。

 彼女は、ボトルメールを読むと、近くの漂流物で薪を組もうとしていて。

 その理由を聞くと、ほほえみながら言っていた。


「ここは、行き止まりだから。やさしいボトルメールは、燃やして出してあげるの。ここではない、どこかへ」


 彼女は。

 海底の爆発物をひとりで監視している。国も街も、その存在を関知していない。沖合いにある漂流物をブロックする網は、管区の無人空母が回収していた。


 彼女は。


 ここにひとり。


 ずっと留まって。


 はらの底に押し込んでいた黒い感情が、また、顔を出してきた。


 彼女は。


「わたしの身体もね。この海底にあるの」


 そう言った。


「爆発物と一緒に、わたしの身体も沈んじゃって。ここにいるのはわたしの精神だけ。だから、ここから出れないの」


 彼女は、実際に存在している。身体だけが沈んで精神が離脱するなんてことは、ドラマや漫画でしかありえない。

 彼女は。

 洗脳されている。おそらく、ここに爆発物を捨てた、何かに。ここを監視するためだけに。きっと、彼女の親だろう。既に死んでいる。


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