第68話『春一番お化け』 


やくもあやかし物語・68


『春一番お化け』    






 春はライオンのようにやってきて羊のように去っていく。


 イギリスの格言なんだけど、これって、春の風のことなんだよね。


 日本では『春一番』というんだよ。


 今週、その何番目かの『春一番』が吹き荒れている。


 日本海の低気圧が影響しているって天気予報で言ってた。去年は、この日本海低気圧だかが発達し損ねたのか春一番は無かったらしい。


 それを挽回しているのか、今週に入ってからの『春一番』は元気と言うか質が悪い。


 ボッ ボオオオオオオオオ!


 まるで、オートバイの急発進みたいな音をさせて、突然襲ってくる。


 キャアアアア キャ ウワアアアアア


 通学路のあちこちで、女の子の悲鳴が上がる。


 吹きっぱなしの風なら対応の仕様もあるんだけど、突然、暴走族の急発進みたく襲われるのは対処の仕様が無い。


「昔は、スリップとか下に着てたからねえ」


 お婆ちゃんが昔を懐かしむ。


「そうそう、あれはタイトだったから、スカートみたいに翻らないのよ」


 お母さんが同意する。


「あれはあれで色っぽかったぞ(n*´ω`*n)」


 お爺ちゃんがまぜっかえす。


「そうそう、清水みえこって言い回しがありましたよ」


「なに、それ?」


 わたしの知らない世界だ。


「むかしのむかしは、スリップをシミーズって、言ってね……」


「ああ、スカートの裾から出ちゃう子がいたんですよね」


「そうそう、そういうのを後ろから注意してあげるのに『清水みえこさん』なんて言ったげたものよ」


「ああ、あれはあれで、色っぽかったなあ(#ω#)」


「昭介さん、孫娘の前ですよ!」


「ああ、すまんすまん」


 思い当たった。


 アニメとかで、スカートの下にフリフリの付いた白のアンダースカートみたいなのがあるんだけど、きっと、それの反映なんだ。




 そういう一家だんらんの会話があったから、あくる日は注意して学校に向かった。


 途中、何度か突風が吹いてきて、何人かの女の子は犠牲になったけど、わたしは大丈夫だった。


 安心したところを、ボッっとガスが点いたみたいに突風。


「キャ」


 かろうじて、手で庇う。


「あ、おは……」


 すぐ横を杉野君が足早に追い越していく。怒ったように赤い顔して返事もしないで行ってしまう。


 見られたかなあ……


 


 角を曲がったら校門が見えてくる、あとちょっとというところで、何度目かの突風。


 五人くらいの女の子が風にやられる。


「あれ?」


 ひとりの女の子にビックリした。


 翻ったスカートの中は、膝から上が無い。


 よく見ると、少しめくれたセーラーの上とスカートの間にも体が無くって、向こうの景色がスリットで覗いたみたいに見えている。CGの人間に、こういうのあるよね。見えるところは作られてるけど、見えないところはポリゴン節約するために作られてないの。でも、わたしが見ているのはCGなんかじゃない。


 妖だ。


 女生徒に化けて学校に入ろうとしているんだ。


 リボンを直すふりをして、セーラーの上から勾玉を掴む。


 ボッ ボオオオオオオオオ!


 ひときわ強いのが吹いてきた!


 そいつは、首、両手、腰、両足に分解して、それが紙風船かなんかだったみたいに軽々と飛ばされて行ってしまった。


 飛ばされる寸前、そいつの顔がこっち向いて、とっても恨めしい目で睨んできた。


 口もパクパクしていて、なにか呪をかけられたのかもしれないけど、勾玉のお蔭で声にはならなかった。


 ああ、よかった。


 昇降口で再び杉野君を見かける。


 今度は、お早うと言ってくれる。恥ずかしそうだったけどね。




☆ 主な登場人物

•やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生

•お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子

•お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

•お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

•小出先生      図書部の先生

•杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き

•小桜さん       図書委員仲間

•あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け


 

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