第21話『体重大事件・1』
やくも・21『体重大事件・1』
今日も図書室当番。
溜まった返却本を戻すために、隣に座ってる杉野君が立ち上がって後ろを通る。いつものように少し椅子を引いて通してやる。
「狭っ」
小さく言って抜け、背中に杉野君の体が擦れていく。気を使っているのは分かる。ちょうど腰のあたりが触れるからだ。
電車の中で、こういう通り方したら痴漢かもしれない。
窓際の席で、女子二人が笑ってる。
「ちょっと……」「ねえ……」「あの子……」「……ったんじゃない?」
小さな声だけど聞こえてしまった。
聞こえたのは自覚があるからかもしれない。
きのう、お母さんが買ってきてくれたブラ、サイズがいっこ大きくなってた。
制服は、転校した時に買ったものだからよく分からないんだ。
うちの体重計は浴室の前にある。脱衣にあると量るんだけど廊下だとね……音がするのよ、カシャンカシャンと。
年代物の体重計で『ハカリ』と言った方がしっくりくる。その音がリビングまで聞こえてくる。
お爺ちゃんが出てくるときに量ってるから分かってる。
昨日は、思い切って量ってみたんだ……ちょっとショックだった。
だから、いま笑われたのはビビっとくる。
「席かわってくれる?」
戻ってきた杉野君に提案、「あ、ああ」と顔を赤くして頷いてくれる。
「小泉さん、ょっと」
霊田先生が呼んでいる。
「ハ、ハイ」
杉野君の後ろを通る、今度はわたしの腰が杉野君の背中にあたる。
バランスを崩して杉野君の背中に、もろに被さる。
「あ、あ、ごめんなさいごめんなさい!」
「う、ううん(#'∀'#)」
「なにやってんだ」
もたもたしてると霊田先生が寄ってきた。
「ああ、そういうことか」
そう言うと、先生はゴゴゴと音をさせてカウンターを動かした。
目からウロコ!
カウンターというものは、根が生えてるというか床に固定してあるものだと思っていた。
プ(* ´艸`)
少し遅れて窓際の女子がふいた。瞬間堪えてふいたものだから、プのあとがグフフアハハになって傷つくことおびただしい。
杉野君も霊田先生も女子の反応を無視してくれている……優しさなんだろうけど、いっそ明るく笑ってくれた方が気が楽だ。
テンパってアタフタしているうちに二人の女子は居なくなった。やっぱ、ちょっと悪かったと思っているのかもしれない。
で、これは、次に続く不思議な事件のイントロでしかなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます