最終話 摂理をぶん殴れ (3)決意

 そして昨日。


 ランとセディナ王は、今後起きるであろう準備として、ボライア上空で姿を消して侵攻状況の確認を行う事となった。移動用にランは転送呪文も習得した。


「これで移動は完璧ですねぇ!!」


 ランは喜びながら彼を背に乗せて空へと羽ばたいていった。


 残りのメンバーはセルドラールへの突入作戦に従事する事となった。ゴウとトマは誘導、ブレイドとストレアは出入り口の爆破である。


「ふぅ……。」


 ブレイドは魔王城に置いてあった爆薬を運びながらふと考えていた。自分は果たして、役目を果たす事が出来るだろうかと。


「……お前が魔王を、ドミネアを倒すんだ。」


 前日レイに言われた言葉が頭の中で木霊する。


 その時は確かに、結果的に、止むを得ず「はい」と答えたが、それでもやはり自信は無い。自分が本当に倒せるのかどうかと。


 レイは「勿論オレもサポートはする」と言ってくれた。心強いとは思う。百人力、いや千人、一万人力である。


 だが彼が不安だったのは、自分が果たして何が出来るのか、という点である。



 彼は昔から無力で、勇者という重積に耐え切れず幾度となく自ら死を選ぶということを繰り返していた。


 最近はレイに強く否定されたことや、それで全て投げ出したところで、自分以外の誰かが犠牲になるたけだ。



 自分に課せられた使命を、投げ捨てるのは簡単だ。


 だが。


 ……眼前にいる彼らは、使命ですら無いのに、出来る限りのことをしようとしている。


 自分は勇者だ。彼らとは違う。彼らよりももっと、いろんなものを抱えている。


 そんな自分が、使命でも無いのにこの危機を乗り越えようとしている彼らを見捨てて投げ出してどうする?


 彼の心には、漸く死以外の道を進む勇気が芽生えていた。


 それでも、まだ、自信は無かった。


 出来るかどうか。その自信が。



「気を張りすぎるな。」


 トン、と何かがブレイドの背中を優しく触った。


 振り向くと今の魔王にして、彼の中では希望の象徴にすら思える人物、レイが居た。


「昨日も言ったろ。ちゃんとサポートはする。」


「は、はひ。」


「魔王を倒すのは勇者の役目。そう思ってお前はここまで来たんだろ。やり遂げよう。」


「……はい。」


 少し、心が落ち着いたような気がした。



「ゴウ殿。」


 そんなブレイドの姿を見て、トマ主教がゴウに対し何かを囁いた。


「……出来ますか?」


「出来ますよぉ。でも言わなくていいんですかぁ?」


「今は言わない方がいいでしょう。今はまだ。」


 トマ主教はじっとブレイドを見つめて言った。


「勇者殿。……諦めないで下さい。」



 様々な思惑こそあれ、人々の意思は一つだった。


 セルドラールの解放と魔王打倒。それには誰もが同意するところであった。



 まずセルドラールを解放せねばならない、というのはレイの考えであった。


 それを行うのは夜、魔物すら寝静まる時間が良いだろうということになり、ランが上空から様子を偵察する事になった。


「OK、皆寝てますぅ。」


「少し残っている。気をつけろ。」


 セディナ王が続けて忠告する。


「よし、行くぞ。」


 レイ達はそれを合図にセルドラール・魔界間の通路を抜け、セルドラールへ。


 途中の警備兵を眠らせながら先へ進み、そして人質が居る部屋へと到達する。


 到達したそこには、食事もロクに与えられず衰弱しつつあった人々の姿があった。


 複数の部屋にまたがり収容された人々を誘導し、静かに魔界へと連れて行くレイ達。


 映像装置と爆薬を仕掛け、セルドラールを後にした。




 そして、今に至る。




 魔王城にはセルドラールから連れて来られた人々が解放を喜び抱き合っていた。突然の状況の変動に頭がついていかず、きょとんとした目で魔王城のおどろおどろしい内装を見つめる者も居る。


 元々セルドラールやボライアに居た兵士達・騎士達が、そんな一般人達を魔王城の安全と思われる場所へ誘導している中、堂々と城の通路を通って玉座の間へとやってきた男女二人が居る。


 インティとマルアスである。


 二人が玉座の間につくとーー通路の罠はストレアが破壊したーー玉座に座った現魔王、レイが迎えた。


「いやいや良く来てくれた。村は無事だったか?」


「うん。攻め込まれるのには慣れてたし、森の中だからあんまり大軍が攻めてくる事はなかったからね。それに、セルドラールの完全支配の方を優先していたみたいだから。」


 レイにはその理由がおおよそ予想がついていた。魔王は、人間界に魔界を広げるため、通路の拡大を優先すべきと考えていたのだろう。


 実際のところ、彼女がセルドラールへ向かった時も、出入り口の拡大作業に従事する魔物が何匹も居たのを目撃している。


「でも問題はここからだよね。」


 インティが神妙な面持ちで言った。


「まぁな。」


 レイにはその意味がわかっていた。


 当然ドミネアは人質と、何より魔界を取り戻しに攻めてくる。それを如何に迎撃するか。それがここからの、そして最大の問題となる。


「一応ボライアには眠りのトラップを仕掛けた。時間稼ぎにはなるだろう。ミアの。」


「各個撃破の方がいいんじゃないの?」


 マルアスはよくわからずただただポージングして時間を潰している。


「それも良いんだが、ちょっと考えがあってな。」


 レイはニヤリと笑みを浮かべた。

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