最終話 摂理をぶん殴れ (2)魔界占領三日前&二日前

 そこからは次のような経緯で、レイは魔王となり、そしてドネミアに対するくだんの"連絡"を行った。



 まず初日、つまりセルドラール占拠当日。


 ランとセディナはボライアに残り、人々への連絡と取り纏めを担当した。ボライアへの侵攻の可能性もあり、その対策も兼ねていた。結果として、幸いな事に、レイが殆どを血祭りに上げたお陰で、その心配は無用ではあった。魔物達も命は惜しい。前例として皆殺しという結末があっただけに、それ以上手を出す事は彼らも避けたいと考えたためでる。


 一方、レイ、ストレア、ブレイド、ゴウ、トマの五人は、移動速度向上の魔法【スピードアップ】で魔界へ急いだ。


 こちらの道中も平穏であった。魔界側からの侵攻は基本的に無かったためである。魔界の大穴付近も魔物がおらず、安定した道のりで魔界へ到着する事ができた。


 ストレアは先行して魔王城へ向かう事に。


 残った彼女らは、レイの指示の元、ゴウが映像魔法で魔界全土に対しレイの姿を中継した。横にはトマ主教が展開したレイのパラメータ画面が写っている。


「オレはレイ・エグゼ!!お前らの元魔王ドミネアは人間界へと逃亡した!!これからはオレが魔王となる!!文句がある奴は魔王城まで来い!!」


 トマ主教が続けて言った。


「私は今中継したレイ・エグゼの後見人である。諸君らに力があるならばそれを示してみたまえ。自分の方が強いと思うのであれば魔王城でこの大胆不敵な彼女に挑むといい。だが、彼女のステータスは今見ての通りだ。過去の魔王でこれだけの数値を有していた者が一人でもいるだろうか?それを踏まえて考える事を強くお勧めする。」


 更にトマ主教は続けた。


「そうそう、前の魔王についてだが。君たちがどう聞いているかはわからないが、私たち人間界の住人に対し、彼は言った。「ここに永住する」「魔界にはもう未来がない。故に人間界へ手を広げ、領土拡張を行う」と。信じるかどうかはどうかは君たち次第だ。だがわざわざ此処に来て嘘をつく必要はあだろうか?冷静に考え、そして、誰につくのが一番君たちにとって有益か、今一度考えて貰いたい。」


 無論嘘である。だがそれを確認する術が魔物達には無いだろうという事を、トマ主教は大凡理解していた。


 その宣戦布告、あるいは真逆の終戦提案とも取れる言葉を発してから、彼女らは再び駆け足で魔王城へ向かった。ブレイドは再び風に揺られ死にかけていた。



 魔王城、そして魔界の大半は手隙であった。


 先に到着したストレアは、転送魔法の触媒を解除し、魔王城へ魔界の軍勢がワープしてくる事を阻止しつつ、刃向かおうとする者達を捕らえていた。


 大体の住人はドミネアが連れていってしまっていたので、その作業は呆気なく終わった。


 そこからレイが勿論支持しない魔界の民をほどほどに"処理"、あるいは丁重な"お願い"をする事で、魔界に残っていた者の殆どに、魔王である事を認めさせる事に成功した。


 バグでステータスが高い事も良い方に作用した。魔界の住人もまた、ステータスの数値に意思を左右される者達が多かったのである。


 

 これに関して、誰にも言わなかったが、レイは複雑な心境ではあった。自分が苦しめられていたステータスというものに、今は助けられている。


 だが利用できるものは利用すべきだ、という考えも勿論あった。


 特に今はそれどころではない。自分の好き嫌い、プライドその他に流されて動きを止めるべき状況ではないのだ。彼女はそう自分に言い聞かせる事にしたのだった。




 翌日。


 セディナ王の指示の元、ランがボライアの人々を連れて魔界の大穴へと到達した。本来なら数日掛かる作業だったが、レイの指示の元覚えた【スピードアップ】で強行軍を行い、何とか一日で魔界に連れてくることが出来た。


 レイは自分と街の人間のコピーを生成。これにより、見張りに来たセルドラールの魔物達の目を欺く事に成功した。


 この時点でレイは完全に魔王という地位へと到達。セディナ王の説得でボライアの人々がレイを魔王と思うようにしたのも効果を発揮した。



 前日の魔王城の捜索により、武器および爆薬を発見したストレアは、これを使いセルドラール・魔界間の通路を塞いではどうかと提案。


「それだ!!」


 の一言で採用が決定。


 だがこれを行えば、本格的にドミネアとミアを敵に回す事になる。その準備が必要である事は明白だった。


 ならばとばかりに、レイは土壇場の知恵を巡らせた。


「……何か方法は無いか。」


 レイがドミネアもミアも撃破してしまう、というのは一つの案ではある。だがそれでは解決しないものもある。


 例えばブレイブとドミネアが抱えているライフの共有バグ。少なくともこのバグがある限り、ドミネアを倒す事は出来ない。かといって単純にこのバグを解消してしまってはブレイドを殺される可能性が高まる上、ドミネアの部下がライフを捧げれば復活してしまうという仕様は残り続けるので、部下も含めて全滅させなければならないという事になる。


 それにミカの件がある。ミカの本心はわからないが、自殺を計ったのがミカだとしたら、ミアを止めようとしたのかもしれない。そうでは無いのかもしれない。それを確認せずミア/ミカを倒すのがーーつまり殺すのがという意味であるがーー正しいのだろうか。


「……ブレイドの、バグ。」


 ふと、また頭をよぎった。


 ミア/ミカという存在。


 あの人ジョセフが残してくれた技。


「そうか。……その手があるか。」


 バグで得たINTのお陰か、はたまた必死で考えたお陰か。レイの脳裏に再び閃きが走った。


「ブレイド。お前にもお願いする事がある。」


「な、なんでしょう。」


 それまでレイに付いてくるだけだったブレイドが、何事かと思いビクビクしながらその言葉に反応した。


「……お前が魔王を、ドミネアを倒すんだ。」


 ブレイドは「はい」とも「いやです」とも言えず、口を開けてパクパクと空気を反芻するような動きを繰り返した。

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