第18話 摂理をぶん殴れ (1)魔界占領三日前
その頃、魔界の魔王城では、レイとストレアが高笑いを上げていた。
「ハーッハッハッハッハッハ!!ここまで上手くいくと笑うしかねぇな!!」
「ヒーッヒッヒッヒッヒッヒ!!全くねぇ!!いやあ見たかったわ連中の顔!!」
「お姉さまが悪い高笑いを上げているぅ……。」
何処かから戻ってきたランが両手を組んで怖がっていた。
「ああすまんラン、お帰り。セディナ、どうだった?」
「連中は動き出した。一人、ミアらしき女がこちらに向かっている。ボライアの仕掛けに引っ掛かった。」
ランの背中から降りたセディナ王が言った。
セディナと呼び捨てにしているのは、彼自身の希望であった。今は彼は既に玉座を追われている身。取り戻すためには自分の力だけでは実現出来ない。そんな男が王を名乗るというのは、彼自身が許せなかったのである。
「予想通りだな。」
「うむ。」
「それにしても、魔法ってすごいですねぇ。登録しておけば何処にでも飛べるなんてぇ。」
「登録しないと行けないのが難点なんだ。だがオレ達はちゃんと旅をして準備もしたからな。」
「触媒が魔王城にあったのは幸いね。まぁ無いわけないけど。」
彼女らは三日前の事を思い出す。
三日前、ボライアにて。
「魔王になるぅ?どういうことですかぁ?」
レイが「魔王になればいいんだ」と言うと、ランが疑問を呈した。
「僕がレイさんを殺せって事ですか!?」
ブレイドが叫んだ。
「んなわきゃあるか。」
他方、考え込んでいたストレアは立ち上がり言った。
「その手があったかぁっ!!そうか!!今あのボケナスバグ不正利用野郎は人間界にいる!!確かにアタシのシステムでは魔界の住人は"今"魔界にいる奴だけ!!」
「そう!!お前が言う通り魔界の住人しか魔王にしかなれないというなら!!ドミネアの野郎は今人間界にいる以上!!魔界の住人としては扱われない!!」
この時ばかりはストレアのガバガバな仕組み作りに感謝せねばならない、そうレイは思った。口にはしなかった。もう嫌味を言う気も起きなかった。とにかく今はあの魔王のバカ野郎に吠え面かかせてやりたい、その一心であった。
「でも魔王城に戻られると困るね。」
テンションが上がっているレイとストレアに対して、インティは冷静に言った。
「セルドラールの下に出入り口があるわけだし。あと人質。魔王の座を奪うのはいいけど、そんな相手を挑発するようなことしたら、人質の命も危ない気がする。」
「ふふん。そこは多分大丈夫よ。」
ストレアが鼻を鳴らした。
「アタシの見立てでは、確かにセルドラールまでの出入り口はしっかり慎重に作られてる。だから時間掛かったんでしょうね。でも壊すだけなら楽よ。岩か何かで塞いじゃえばいいの。それで数週間レベルの時間は稼げるはずよ。」
「ああ確かに。」
「ただ最後だな。それをやるなら魔王になった後。それまでは時間を稼ごう。当初の予定通り、コピーでボライアにいるように見せかけよう。魔王になるのはどのくらい掛かるかな……。」
レイが腕を組んで考え始めた。
「魔界に残ってる人数にもよるわね。」
「それを全部周るのも時間が掛かるな。……おうおうおうおう、それに関してもいい案がある。」
またレイがニヤリと笑みを浮かべた。
「何よ。」
「つまりだな、奴らに意趣返ししてやろうってこった。奴がセルドラールを占拠してからやった事あるだろ。」
「映像の投影してたわね。……なるほど。」
ストレアがしばし考えを巡らせ、レイと同様に悪どい笑みを浮かべた。
「そう。それで魔界全土にオレの顔とステータスを並べ立てて、オレの言う事に従うよう要求するわけだ。」
「文句がある奴は掛かってくるだろうし、文句がなければ消極的な指示になる、と。いいわねいいわね、ずいぶんと悪どい事を考えるわね。」
ストレアもまたニヤニヤと笑みを浮かべた。
「悪い事考えてますぅ。」
「すまんすまん。だがこのくらいはな。やってもいいだろ。」
「だがバレたらこっちに攻め込んでくるんじゃないか?」
「それにッ!!レイさん一人で全部は難しいのではッ!?」
「その辺は手伝ってもらう。映像魔法はゴウ。頼む。」
「いいですよー。食事いっぱいくれましたしぃ。」
ゴウはレイが密かに持ってきた魔物の死骸を焼いて啄みながら言った。
「私も同行しよう。どう見せれば人心ーーーこの場合は魔物心か?ともかく、そういうものを如何にして動かすかについては、教会で散々見てきたからな。」
トマ主教が立ち上がりながら言った。彼はストレア達に助けられてからずっと落ち込んでいたが、レイの話を聞き、今まで絶望の淵にいた自分の心が湧き上がるのを感じていた。希望はまだある。そう思えるようになった。
「頼むぞ。ボライアの人間の誘導は、ラン、頼む。コピーの生成はオレがやる。」
「わっかりましたぁ。」
ランはレイの言葉に、拙い敬礼で答えた。
「人々の誘導ならば、私も役に立つだろう。手伝わせて欲しい。」
そう言葉を上げたのは、トマと同様に塞ぎ込んでいたセディナ王であった。
「よろしく。ストレアは魔王城の
その意図を汲み取ったストレアは首を縦に振った。
「やむを得ないわね。今回ばかりは素直に従ってあげる。魔王のやつに一泡でも二泡でもふかせてやりたいからね!!ヒヒヒヒヒヒ。」
「怖いですぅ。」
「よしよし。」
レイとランがいつものやり取りを繰り返す。ようやく調子が戻ってきたのをレイは感じていた。
「マルアスとインティは一旦村に戻ってくれ。」
「ここまで来て?」
「いっそッ!!最後までッ!!お付き合いしますよッ!?」
「そう言ってくれるのは嬉しいが……。ただ一旦村の様子を見てきた方がいいとおもう。無事だとは思うが。侵攻を受けてたらシャレにならんだろう。」
「まぁ、それもそうだね……。でもいざと言う時はちゃんと呼んでよね。」
「なんでもッ!!お手伝いッ!!しますからねッ!!」
インティは普通に立ちながら、マルアスはレイに向かってポージングを取りながら言った。
「僕はどうすれば……。」
ブレイドは剣を背に、しょぼんと肩を竦めながら言った。自信なさげに言葉を紡ぐ。
「ドミネアを倒していいのかも分かりませんし、それに、倒せるかどうかも自信が……。」
レイはふぅと溜息を吐いてから言った。
「んな自信誰にもねぇよ。だがお前は勇者なんだろ?みんなお前を信じてくれてる。だから胸を張れ。自信を持て。な。」
レイの言葉に少しだけ励まされたブレイドであったが、それでも完全には自信を持てていないようであった。
一気に人間界を恐怖に陥れた魔王、それを前に自分に何が出来るのか。今もレイの指示に従うばかりで、自分では何も出来ていないではないか。後ろめたさと自責の念が去来していた。
レイはその姿を見て、何か出来る事を探してやった方がいいのでは無いかと考えた。だが、今すぐ指示出来るものはない。
気に留めておく事を決めてから、彼女は全員に行動開始を指示した。
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