第17話 魔王はぶん殴れない(3)
ドミネアは口を大きく広げ、唖然とした。目は飛び出るのではないかと錯覚するほどに見開いていた。
それほどまでに驚愕した。
「あ……あ……!?」
それはミアも同じであった。
「え……!?な、なぜ彼女が!?」
「こいつは誰だ!!」
「以前お話しした、ステータスが狂った女です。障害にならぬよう、演説で釘を刺して頂いた。」
「アイツか……。何かしら動きがあるとは思っていたが、なんだ、なんだこれは!?」
ドミネアが、兵士が見た事もない勢いで捲し立てた。いつもの魔王とは似ても似つかぬ、焦りに満ちた表情を浮かべている。
「ボライアに居ると思われたので兵士を送り監視をしていました!!セルドラールの警備も増やしていました!!ですが、まさか魔界に居るとは……!!」
「魔界……!!そうか、この体の重さ……!!魔力が、僕の力が失われている……!!これはハッタリじゃない、本当にやらかしたのかコイツ!?」
『どういう事か分からない場合のために説明してあげましょう。』
画面の中の別の女が続けた。
ミアがドミネアに、彼女は創造神ストレアであることを説明すると、ドミネアの目つきが一気に鋭くなった。
今投影されているのはあくまで録画映像であり、中継映像ではない。つまり彼女は魔王側が混乱する事を想定していたという事を意味する。
神が。
憎むべき相手が。自分の事を見透かしている。
それがドミネアには堪らなく不愉快であった。
「煩い……!!とっとと言え!!」
『まず大前提として、魔王を魔王たらしめているものは何か?正解は魔界の住人であることと、魔界の住人から支持を得ていること。そして魔界の住人の定義は何か?魔界に住んでいる事よね。』
『当然だよなぁ。』
それはドミネアも理解していた。だからこそドミネアは魔界の実力者に取り入り、裏切り、力をつけてきたのだ。今更そんなことを聞くまでもない。
だがミアにはある点が引っかかっていた。
「魔界の、住人……。」
『ところで、まだセルドラールは魔界ではないわよね。まだ魔力が満ちてないから。だから今アンタらが居る場所は人間界というわけ。』
これもドミネアには自明のことだった。だからこそ出口拡張を目論んでいたのだ。落盤により計画は一時頓挫と相成ったが。
『そしてアンタは今現在、三日前、セルドラールに侵攻して以降、セルドラールに滞在を続けているわね。』
そうだとドミネアは心の中で頷いた。この王宮に居座ることで、人間達、少なくともヒューマン共の反乱を防ぐ必要があったからだ。
その言葉を聞いてミアの顔色が真っ青になった。
「ま、さ、か?」
その時、画面の中のレイとストレアが顔を見合わせて、酷く、酷く嫌らしい笑みを浮かべた。
『今人間界に居るお前達は魔界の住人ではないよな?』
『魔界の住人じゃないのに魔王とは呼べないわよねぇ?』
ドミネアはその言葉で、二人が何を言おうとしているのか理解出来た。
魔王が魔界の住人ではなくなった。一時的にせよ。それは、つまり。
『つまりね、アンタはさっきまで、暫定魔王だったのよ!!』
「暫定……魔王……!?」
そのミアからしてみれば馬鹿げたレッテルが、鋭くドミネアの心を切り裂いた。
「おおお、落ち着いてください!!」
「ざん、てい……。」
ドミネアがその二本の腕と二本の足を地面につけて絶望した。
『そして。暫定野郎にいつまでも魔王を任せておくのも問題だよな。そこで!!オレが魔界に移動し!!空位の魔王の座についたのだ!!』
『空位だったから仕方ないわよねぇ。あ、アタシはなーんにも手伝ってないわよ?ずぇーんぶこのレイがやったから、そこは安心しなさい。』
横にいたストレアがニヤニヤとわざとらしい笑みを浮かべながら言った。
『そういうわけで今この映像を録画している時点で、お前は魔王ではなくなった。魔王はこのオレ、レイ・エグゼ様だ!!魔王の座が欲しければセルドラールを、人々を解放せよ!!解放しない場合や、人質を傷つけるようなら魔王の座は渡さないからな。』
『あ、この映像はセルドラールの穴から送って、同時にこの穴埋めるから。』
『魔王城に武器火薬いっぱいあって助かったぞ。』
『じゃあねー。』
『来る時はちゃんと魔界の大穴を通るんだぞー。』
レイとストレアが手を振り、そして映像は途切れた。
後には沈黙だけが残った。
「ふふふふふふふふふふふふふふざけんなあああああああああああああああああ!!」
そしてドミネアが絶叫した。
「ばばばばばばばばばばばかに、バカにしてんのか!!僕が暫定魔王!?そして魔王が今はレイとかいうバカ女に移っただと!?そんなわけあるか!!このたった数日で!!そんな事が!!」
「し、しかしまお……ドミネア様。」
「言い直すな!!」
「分かりました。ドミネア様、例のレイは」
「言い直すなって言い切れって意味じゃあない!!てかなんだ例のレイって冗談か!!」
「いや、そういうつもりは。ととと、ともかく、レイのステータスはまさしく桁違い。速度も本気を出せば凄まじい加速が可能です。となりますと、何が出来たとしても不思議ではないと考えるべき、では……。」
「だったら最初の、魔界領土拡張計画の時点でそう言え!!ああ、マジか、マジか!?どうする、どうすればいい!!」
映像を見るまで保っていた余裕が消え失せ、完全に取り乱して口調も荒々しく変わっている。別人のようだとミアは思った。
同時にミアも心底焦っていた。
どのような出方をするか分からなかったというのは確かにそうだが、それに備えてセルドラールの警備を高めたりすることで準備はしていた。だが、このような手を取ってくるとは。
特に魔王が空位になるというのは完全に盲点であった。この世界の摂理に精通したストレアを敵に回した事の重大さが今になってミアの頭に持ち上がってきた。そして、その摂理を砕く事も、摂理を活用する事も出来る、甚大なステータスを有した、レイという存在が如何に邪魔であるかも。
「発掘を進めるんだ!!とにかく岩盤を壊せ!!こちらに来る時とは違う、慎重にならなくとも良い!!とにかく穴を開ければいい!!並行して魔界の大穴からの侵攻も進めろ!!なんとしても魔王城を取り戻せ!!」
ドミネアの命令が響き渡り、同時に、魔界の兵士達がバタバタと駆け回り始めた。一部の兵士には、魔王でないドミネアには従えないとサボタージュするものもいたが、ドミネアの粛清により事切れ、大々的な反乱は防がれた。
「ドミネア様、途中の街は」「潰せ!!僕に逆らった罰だ!!」
尋ねてきた兵士にドミネアは強い口調で言い放った。
「ドミネア様、しかしそれでは魔王の座は譲らないという話だったのでは……。」
ミアが焦った顔で言うが、ドミネアは聞き入れない。
「あんなものはただのハッタリに過ぎない!!さっさと処理をしてしまえば全て解決するんだ!!人質も全員殺せ!!僕にあんな馬鹿げたことをしくさった連中に目に物見せてやれ!!」
「ドミネア様大変です!!」
別の兵士が駆け込んで来た。
「魔王と呼べよお!!というか今度はなんだ!!」
声を荒げてドミネアが叫ぶ。
「人質が居ません!!」
「はぁ!?」
「今朝まで居たのですが、見張りは全員事切れ、捕らえていた人質が全員何処かへ消え失せています!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」
言葉にならないドミネアの叫びが、魔王城と化したセルドラール城に木霊した。
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