第16話 我らの神に祈りを捧げよ(1)
『魔王の城は元々魔界の樹木!!育ちきったヤツね。それをこっちに生やしたのよ!!』
俺はストレアからの通信を聞きながら唖然として眼前の光景を見つめた。
「奴の目的はなんだ!?城の乗っ取りが目的で人間界に来たのか!?」
『知らないわよ!!とにかくセルドラールはもう無理!!どうにもならない!!当面はね!!どうにかするにしても段取りが要るわ!!アタシらはとりあえずボラギ何とかに行くからそこで合流しましょ。魔物はアンタが片付けときなさいよ!!』
『ボライアですぅ。お姉様、無理はしないでくださいねぇ。』
「分かってる。だが、こんなもん、放っておけるかよ!!」
そう言ってオレは通信を切り、同時に着地した。
ボライアとセルドラールの中間地点。
眼前には敵がわんさか押し寄せている。
魔王とやらはどれだけトラップボックスを持って来たんだ。
その努力に関しては、仕方がない、褒めてやろう。
だが。
「無駄な努力にしてやるよ!!」
そう言ってオレは魔物の軍勢に向けて駆け出した。
「アレはアンタがやったの?綺麗だったわよ。」
数時間後、ボライアに着いたストレアが言った。
「疲れましたぁ……。」
「二人は辛いですぅ……。」
ランとゴウがヘトヘトになり、人間体で倒れ込んだ。
「二人とも休んでくれ。インティ、どこか部屋はあるか?」
「まぁなんとか。ねーちゃんが片付けてくれたお陰でこっちの手が開いたからね。」
そう言ってインティはさっきまでオレが居た場所を見た。
「うわぁ。」
見るなり声を上げた。
「何度見てもヒデェや。」
「文句言うな。」
数キロ離れているが、このボライア防壁前の作戦司令室(という名のボロ小屋)からも見える。
真っ黒に染まった平原が。
とりあえず全滅させる!!というのを主目標にしていたせいで、景観などは散々になってしまった。
魔物の首が、手が、足が飛び散り、そこから黒い魔物の血が吹き出し、地面を包んでしまったのだ。
「まぁゆくゆくは綺麗になるだろう。多分。とりあえずこの街だけでも安全を確保しないとな。」
結構無茶したせいで疲れた。傷は無いが疲れは溜まるものだ。
「……。」
「……。」
セディナ王とトマ主教は塞ぎ込んでいる。頭を抱えて、どうしたものかと悩んでいる。
「ああ……。」
「民よ……神よ……。」
たまに口を開いたかと思えばこれだ。
気持ちは分かる。二人を失う、あるいは敵の手に落とすとマズいと判断して連れて来たストレアの行動は間違ってはいない。全く。だが、彼ら二人からしてみれば、守るべき民を置いて二人だけ逃げて来た格好になる。それが二人には耐えられないのだろう。
気持ちは分かるのだが、いつまでもそうしていられるのも困る。
「頭上げろ。嘆いているだけだと何も進まないぞ。次の方策を考えよう。」
「次の方策といっても。」
「レイ殿が突っ込んで魔王を倒すというのは如何でしょうか。」
トマ主教が暗い顔で言った。
「投げ槍にも程があるだろ。それに、人質取られたらオレだって手を出せん。」
幾らステータスが高くても、複数の人質を取られたりしたら、全くの犠牲ゼロで終わらせる事はできないだろう。
その"複数の人質"がまさにセルドラールだ。
街全体が、生きている人々全てが人質になっていると言っても過言ではない。
「アタシが見た感じ、死体のほとんどが教会の騎士共とか、冒険者の類だった。多分、街の人達とか無抵抗の人間は捕らえられてるとかじゃないかしら。」
「生きている事を喜ぶべきか、囚われている事を悲しむべきか。ああ……即位してからこの短時間でなんでこうも色々起きるんだァッ!!」
思わずセディナ王から本音が溢れた。彼は机にしたたかに頭を打ちつけ、うーんうーんと唸り出した。心中は察する。
「そもそも魔王はなんでセルドラールに!!」
「多分ミアの手引きよ。教会の地下に出入り口があった。そこから入って来たんでしょ。」
「教会から魔物が出て来たように見えたので何事かと思っていましたが、そういう事でしたか……。」
トマ主教が顔を顰めながら言った。
「アンタは教会にはいなかったの?」
「用事で離れていまして。戻って来たらこの有様です。警備の騎士も魔物と相討ちになり……ああ……。」
彼もまた机に頭を落としてうんうん唸り始めた。
「この二人はダメね。」
「そっとしておこう。インティ、マルアス、向こうの村の様子は?」
インティとマルアスは残った騎士達に指示を出すべく地図を見ながら言った。
「幸い、攻めて来てるのはボライアだけらしい。」
「さっき行って来ましたッ!!」
マルアスがぐっと親指を立てた。早いなオイ。
「ランさんに連れて行ってもらいましたッ!!」
あー、ランがやたら疲れてるのはそれか……。だが咎めることも出来ない。
「……お疲れ様。」
眠りについたランの肩に優しく手を乗せると、彼女は「えへへ」と口角を上げた。後で美味しいもん食おうな。
「ボライアを落とせば魔界からの軍の呼び出しも楽だからね。当面の目標はここになると思う。」
インティが言った。
「だから当面は此処にいるしかないね……。」
「生き残った騎士達も一部合流してッ!!防備は万全ですッ!!」
「魔界側の監視も常に行うようにしてる。ただセルドラール側と魔界側の両方向から攻められると流石に辛い。ねーちゃん達には出来ればどっちかのルートからは攻めてこないよう潰して欲しいんだけどね。」
インティが難しいだろうなという顔で言った。
実際難しい。
セルドラールからの侵入経路を潰すのが、物理的な大きさから言えば楽だろう。だが、先にも言った人質問題があるので、向こうの出方次第になる。
魔界の大穴を塞ぐという方法もなくはない。だがそれは自然の地形を大きく歪めることになる。
「やっちゃうか?」
ストレアにお伺いを立てると、ヤツは首を横に振った。
「そこ閉じるのは無理。魔力が吹き出してるから、普通の岩とかじゃ魔力で溶けたり、地面と一体化しちゃうわ。」
「じゃあどうするんだよ。」
「どうしても塞ぎたいなら、魔界の大穴を塞ぐ封印用のプレートがあるはずだから、それを探すしかないわね。」
「どこに有るんだよ。」
「別の大陸。そういうバランスブレイカーは離れた場所に設置するようにしてるから。」
そう言うとストレアは地図のある点を指さした。
「このサーブラス大陸辺りだったと思うわ。」
サーブラス大陸とは、ここボルメイア大陸の隣の大陸である。
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