幕間・10 創造主にして最高神、偉大なるストレア様の華麗なるセルドラール突入劇と救出劇(後編)

 城の中はまーた血塗れだった。騎士達の死体がゴロゴロしている。


 アタシが来るたび真っ赤に染まってなぁい?


 どういう事なのよ。アタシはこういう光景を見させられる星の下に生まれてきたとかそーいう話?だとしたらその星ぶっ壊して上げるんだけど。


 とか考えてる場合でもない。アタシ達は城の中を我が物顔で歩く魔物共を一蹴しながら、玉座の間へと向かった。



 玉座の間には、玉座に座る見覚えのない誰かと、その横に立つ忌々しいポニーテールの屑、そして見覚えのある王子の姿があった。


「貴方方は……!!」


 アタシの顔を見て王子ーー今は王か、セディナは安堵したような顔を見せた。


 アタシは指から光を放ち、セディナとその見覚えのあったりなかったりする奴らとの間に壁を作った。


 本当なら全員ぶち殺してやりたいところではあった。けれど玉座にいるのはどうせ魔王でしょう?魔王を殺したらブレイドが死ぬ。そうしたら多分レイがキレてアタシが痛い目に合う。それはもうハナから分かってるのよ。だからアタシは何もしない。今はね。


「はいはい回収。ラン。」


「ドラゴン使いが荒いですねぇ。」


 そう言いつつもランはブレイドと合わせてセディナを背中に載せた。尻尾で器用に掬い上げている。


「おやおやゴウ、裏切りかい?」


 軽い声。男とも女とも分からないような若々しい声が聞こえた。聞き覚えの無い声だ。


 その声の主、見覚えの無いヤツーー多分魔王ーーが口を開いた。


 見覚えがないとは言ったものの、その顔には見覚えがあった。なんであったのか全く分からないけれど、何故か見た事がある気がした。何か別の形で見たのかしら?


「あっ、その、えっと……。」


 アタシの古い記憶の探究とは別に、ゴウは戸惑いを見せた。


「まぁ餌が足りなかったり檻に入れたり。気に入らなかったのも分かるから、責めるつもりはないけれどね。ただ邪魔はしないで欲しいな。」


 そういうとそいつは箱を開いた。トラップボックスだ。よくよく見るとこの部屋に転がっている兵士の死体の近くにも落ちている。


 なるほど、攻め込んだ連中に持たせていた、あるいはこいつが持っていたのか。それでこれだけの大軍勢を作り出した、と。


 トラップボックスからは何かの種が出て来た。それは部屋に落ち、そして見る見る枝なのか根なのかわからないが、何かがニョキニョキ伸びていく。


「また何れお会いしましょう。ストレア様。」


 見覚えのあるポニーテールの外道が言った。


「待ちなさい。アンタはミアなの?ミカなの?」


 アタシが根っこを避けながら聞くと、ソイツは答えた。


「私はミア。ミア・デュルーア。この世界をこの人ーー魔王様と共に制する者です。」


「そ、それと後!!そこの……魔王?!その、その顔は……!?」


 トマのやつが何か叫んでいるが、相手は答える気が無いらしい。


「ヒヒヒ、それは後で分かります。それより逃げた方がいいですよ?これは新しい摂理では無く、元々魔界にある植物。枯れた大地でもすくすく育つ子です。こんな肥えた大地ならどうなるか分かるでしょう?」


 それ以上の声は聞こえなかった。根っこが城内を包み込んでいくので、それを避けて逃げ出すのが精一杯だったのだ。


 ランとゴウを引き連れてアタシは空へと舞い上がった。空からはよく見える。城下街の惨状、そして、城から生え出て来た根と枝が城全体を包み込む有様を。


「なんと言う、事、だ……。」


「ああ、みなさんが、巻き込まれていく……。」


 セディナとブレイドが涙声で言った。


「おお神よ、レイ様よ、我らを救いたまえ……!!」


 トマ主教に至っては祈りを捧げている。レイ様だと?


「せめてアタシに祈りなさいよ!!ていうかアンタの信じてる神に祈りなさいよ!!ドメインだっけ。」


「ああ、その件ですが、そのーー」


 トマ主教が何かを言いかけたその時、城の方から響く音が更に大きくなっていった。


「いや、待ちなさい。今はそれどころじゃない。」


 アタシは何が起きているのか理解した。


「あー、もう、こりゃレイに伝えないとダメね。」


 そう呟くとアタシはストホを取り出し、レイに掛けた。



 嗚呼、嗚呼、嗚呼、もう。


 世の中ままならない事ばかり。


 神であってもそうなんだから、全く嫌な世界よ。


 本当、誰が作ったんだか。


「はぁ……。」


 アタシは深い溜息を吐いて、そして呟いた。


「……アタシか……。」

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