幕間・10 創造主にして最高神、偉大なるストレア様の華麗なるセルドラール突入劇と救出劇(中編)

 ーー嗅いだ事のある腐敗臭。


 まだ記憶に新しい。数日だろうか。そのくらい前に嗅いだ事がある。


 人間の肉の腐臭だ。


「ああ、ここか。」


 セルドラール陥落の報を聞いた時点で、怪しいとは思っていたので、予想通りと言えば予想通り。


 アタシ達はセルドラールのドミネア教総本山の隠し部屋、その死体置き場に出て来ていた。


「まっっっったく臭いし、嫌になるわね。こんなところに出るなんて。」


 でもこれで、死体の調達方法がもう一つあった事が分かった。魔界から調達していたのだ。なるほど考えたものだ。魔界というのは荒れに荒れている。魔界に到達した冒険者の死体、その冒険者に殺された魔物の死体、或いは魔物同士の殺し合いで生じた死体。いろんな種類の死体が魔界にはある。素材に困らないという事だ。


 まぁ、アタシの頭を以てすれば、このくらいの予想は簡単というものだ。


 そして次に起こるであろう事も。


 ズガシャァッ!!


 アタシの頭にハンマーが振り下ろされた。


 警備をしていたコボルトのものだ。


「侵入者ボル。」


「殺スゴブ。」


「殺シタボル。」


 横にはゴブリンもいる。やれやれ野蛮人共め。少しは話を聞く気はないのかしら。出会い頭に見舞っていいのは食パンを加えた男女の激突と、ラッキースケベくらいなものと相場は決まっているのよ。


 ましてアタシに、創造神に、史上最高最善の神に手を出すなど、許されるべきであろうか?否。レイが許してもアタシが許さない。


 この世界にアタシ以外の神は存在しないが、もし同僚が居たと仮定しよう。そいつがもしこのコボルトを許したと更に過程を重ねる。そうしたとしても。


「アタシに手を出すなんざぁ、二兆年早いわぁっ!!」


 アタシはアタシの頭を凹型に凹ませたハンマーにグググイと力を込め、その金属部分ーー持ち手じゃないわよ、先っぽの重い部分よーーをパキンと手の力だけで砕いた。


「ボル!?」


「アンタらには!!天罰を!!下す!!」


 そうアタシは吠えると、そのまま驚きの表情を浮かべているコボルトの顔面を掴んだ。


 グシャアッ。


 その顔面が、頭部ごと、スイカのように弾けた。


 スイカが無くなった残りの肉体が石造りの床に落ちて、動かなくなった。スイカがあったところからは墨のような色の血がドクドクと流れ出ている。


 確かにレイのステータスはアホみたいに高い。でもアタシのステータスだって十二分に高い。


 何よりアタシは神。元から神であるアタシに出来ない事などない。アタシに与えられている計算式はたった一つ。アタシ=無敵、それだけ。


「ヒ、ヒィッ!?」


 近くのゴブリンが腰を抜かしたので、そのまま寝てろとばかりにその顔面目掛けてシュートを放つ。


 アタシが想像した通り、そのシュートは見事に決まり、ブチィッ、という音と共にゴブリンの頭部がサッカーボールと化した。そしてそのサッカーボールは黒い血を撒き散らしながら、その部屋にいた他の魔物のサッカーボールへと次々にぶつかり、そして砕いていく。


 部屋に立ち込める血の匂いと腐臭が更に増したところで、そのサッカーボールは見るも無残な姿となって地に落ち、そして弾けた。


「ふぅ。スッキリした。」


「あ、あわわ、あわわわわわわわ。」


 アタシが爽やかにそう言うと、一連の流れを見ていたブレイドが歯をガタガタと揺らした。


「何があったんですかぁ?」


「くさーいですぅー。魔王様のお城でもこんな匂い嗅ぎませんでしたよぉー。お外はこんなに臭いんですかぁー?」


 後ろに居たランとゴウが疑問の声を上げる。


「今ちょっとゴミ掃除してたの。行くわよ。」


「……レイさんと一緒に行けばよかったなぁ。」


「んんんー?何か言った??ブレイド???」


 アタシが拳にハァーと息を吐きかけながら聞くと、ブレイドは首を横にぶんぶんと振り回した。


「なんでもありません!!」


「よろしい。」


 先に進むとしましょう。



 敵ーーと呼ぶには少々可哀想な程に実力差のあるサンドバッグを蹂躙しながら外へ出る。


「これだけの軍勢どうやって用意したのかしら。」


 アタシは外の惨状を見ながら言った。


 街の至るところから血の匂いと煙が上がっていた。


 街中には死体がいっぱい、城からも煙が上がっている。


 セルドラールの防衛兵ーー教会騎士を中心とした一派がなんとか押し止めようとしているが、多勢に無勢。囲まれて殺されている。


 民間人らしき人々は城に連れてこられている。人質にするつもりかしら。魔王とやらはちゃんとその辺の指導はきっちりしているらしい。


 それでも従わない奴が殺されて路上に放り投げられている。


 今も「子供だけは助けてくれ」なんて言ってる奴の脳天が潰されたところだ。


「あーあ。」


 アタシは思わず口にした。


「随分派手にやるわね。」


「酷すぎる……!!」


 ブレイドの目には怒りが浮かんでいる。まぁこれはちょっとね、幾らなんでもやりすぎ感はある。


「城ももう陥落寸前みたいですぅ。」


「うわぁ、お外こんなに怖いところなんですかぁ。」


「今だけよ。いや、今は此処だけよ。」


 アタシは言い直した。今だけという保証も、此処以外がこうならないという保証もない。


 まぁアタシは死なないけど。アタシを殺したいならこの世界そのものを完全に欠片も無く破壊しないと無理。


「ともかく。城の王様だけでもーー」


 助けましょうと凄まじい慈悲の心を見せようとしたところで、更に慈悲深さを発揮すべき情景が目に映った。


「なんだ、これは、どうなっている……?」


 トマ主教が呆然と城を見つめていた。そこに空からドラゴンが降って来た。


「ボケーーーーッと突っ立ってんじゃあないわよぉッ!!」


 アタシは叫びながらブレイドをぶん投げた。


「ちょっとぉぉぉぉ!!」


 ブレイドが魔物の後頭部にぶつかった。その隙にアタシの指からレーザーが照射される。管理者特権魔法、【レーザー・オブ・アドミニストレータ】である。輝かしい管理者の力が魔物を貫き、塵へと変換する。


「ふぅ。」


「あ、アンタは……。」


 漸くこちらに気付いたようで、トマ主教が驚いた顔を見せた。


「……レイ殿のお付きの。」


「誰がお付きじゃあ!!」


 アタシのビンタがトマ主教の側頭部を強かに打った。トマ主教はさっきの頭突きで倒れ込んだブレイドの上にのしかかった。


「ふげぇ。」


「ぐべぁ。」


「アタシこそが神!!アタシこそが主人よ!!」


「えぇー。」


「えぇー。」


 ランとゴウが同時に不満げな声を上げた。アンタらいつの間にそんなに仲良くなったのよ。


「モノホンのお付きは黙ってなさい!!そしてとっととそこでノビてる情けない連中を拾って!!」


「まぁそれは従いますけれど。」


「ねー。」


「情けない連中……言い返せません……勇者なのに……。」


「うむ……。ん?勇者?」


「はいはいその辺の説明は後々後々後回し!!城に急ぐわよ。」


 そう言ってアタシはランとゴウを連れて城へと急いだ。

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