幕間・10 創造主にして最高神、偉大なるストレア様の華麗なるセルドラール突入劇と救出劇(前編)

 ーー時間は少し遡り、魔王城周辺ーー



 魔王城上空、アタシ、この世界の創造主にして最高・唯一神、そして偉大で公正、完璧完全な神であるストレア・ド・レミニータは困っていた。


 この完璧なるアタシが作り出した世界に"何故か"残ってしまった綻び、バグ。そのバグをフル活用してあれこれ画策する魔王。世界の偉大者たるアタシとしてはそれを見過ごす事は出来ない。泣き叫ぶ勇者を引き連れて魔王を討ち滅ぼすべくこの魔界に意気揚々と乗り込んだわけなのだが、その魔王とエンカウントする事が出来ないのである。


 横で空を飛んでいるバグの産物たる人間ドラゴン、ゴウによると、入れ違いで人間界へと向かってしまったのだというが、どういう経路で向かったのかもわからない。


 経路がわからないと追いつく事も出来ない。


「ああもう何処よ入り口は!!いや出口?魔界から出るなら出口、人間界に入るとしたら入り口。うーんどっち?」


 アタシの尊顔をキョロキョロと振り回しながら周りを見渡してみるが、荒野が広がるばかりでなんも無い。


「どうでもいいですから一回降ろして下さいよぉ!!」


 どうにも困り果ててとりあえず嘆いてみたところ、アタシの懐でブレイドが呻いた。


「うっさいわねぇどうせ空も飛べないくせに。もう少し待ちなさいよ。」


 アタシがそう天声を与えると、ブレイドはシュンとなった。


「はい、どうせ僕は何も出来ませんしね……。」


「拗ねないの。いいからアンタも周りを見なさい。」


 周りは空。空といっても魔界なので、地面が上にあるだけではある。


 アタシはブレイドを小脇に抱えて空を飛んだ。


 上から探そうというわけだ。アタシは冴えてる……と言いたいところだけれど、今はちょっと冴えてなかったかもしれない。周りは枯れた大地ばかりで、何もない。


 途方に暮れてしまう。


 アタシの心眼を以てしても見つけるのには時間が掛かりそうであった。


「魔界の軍勢だけでもいいわ。どこかにいないか探しなさい。」


 と小脇に抱えたブレイドに指示するけれど、所詮は人間の双眼。なかなか見つかったりはしないのが辛いところ。


 これだけ開けた場所で何も見えないという事は、別のところなのかもしれない。


「空はダメっぽいですねぇ。」


 横のランがボヤいた。


「ダメね。アタシ達は一旦降りるから、アンタらは引き続き空から様子を見なさい。」


 アタシが言うとランとゴウが「はぁぃ」と言って答えた。


 ゴウは知らないけれど、ランはこういう時だけは聞き分けがいいのよねぇ。


「はぁ。」


 アタシはとりあえず地面に降りた。魔王城の裏手に周った形になる。裏手にも何もない。マグマの川くらいなものだ。


 だがこちらの方向なのは恐らく間違いないと思う。というのも、裏門が開いたままだったのだ。橋も下がっていた。ここを通った形跡と言える。罠という可能性もあるけれど、まぁ足跡が残っているから確定でいいと思う。


 だが荒野となると足跡は残らない。風が舞い、そういった後も、死体も風化させていくからだ。


「あーもう。」


 アタシは頭を掻いた。面倒面倒面倒事ばかり。ああもう、もう少し早く着手すべきだった。時間を戻すべきか?最後はそうする選択肢もありかもしれない。


 すると頭の中にあの暴力女の顔と旅路が浮かんだ。


 ……最終手段ね。まずは今の時間軸でなんとかする事を考えましょう。


「あれ。あの山怪しく無いですか。」


「山ぁ?」


 ブレイドの言葉にアタシが声を上げると、彼は魔王城から数キロ離れた山を指差した。


 山頂が魔界の天と繋がっている。


 ただしこれは、魔界の山には珍しく無い光景だ。魔界の山というのは天井と繋がっている事が多い。ようは地底たる魔界が掘り起こされる過程で山のような形になっただけの壁が多いのだ。


 ブレイドが言う怪しいというのは別の点だろう。


「近いし、残っている足跡からするとこの先にあるって事が怪しいって?」


 他の山と比べて魔王城に比較的近いように見える。


 他の山は地平線の彼方だが、あの山だけは少し手前にある。


 短時間で移動できる範囲などを加味すると、確かに、あの山が怪しい気がする。


「ええ。」


「よし、行ってみましょう。」


 そう決めるとアタシはブレイドを再び小脇に抱えた。


「あの、その、他に何か方法は。」


「空飛ぶ魔法とかもあるけれど。これが一番楽でしょ捕まってなさい!!」


「ああああああああああああああもう勘弁してえええええええええええ」


 ブレイドの絶叫と共にアタシは再び飛翔、ランとゴウにも合図をしてあの山ーー確かヘルド山だったかーーへと向かった。



 ビンゴ。


 予想は当たった。山頂に変な穴がある。結構大きめだ。


「ははぁ。ここからあのミアだかミカだかは行き来してたわけね。」


 海の悪魔だかって奴もきっとここから連れて来たんでしょう。ボラ……えーっと、あのよく分かんない城壁の街を通ったとすれば、色々話題になっていそうだし。


「よーし、いくわよ。ラン、ゴウ、一応人間モードにしときなさい。ブレイド、アンタは死なないようにアタシの後ろにしっっっかり付いてくるのよ。」


「はいぃ。」


「はいぃ。人間界は始めてですぅ。広い場所大好きですぅー。」


「はははははははい。きききき気をつけます。」


 そうして穴に入ると、穴の中には上に続く階段があった。それを一歩一歩登っていくと、やがて大きめのハッチのようなものがあった。


 それを開ける。


 そこにはーー

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