第15話 魔王城(3/完)

「……ストレア。」


 そっちは頼む、という目で一言呟いた。


「……ええ。」


 分かったわ、という目で彼女は肯いた。


「ラン!!ブレイド!!魔王軍の行き先を探しなさい!!」


「わ、分かりました!!」


「了解ですぅ。」


「ゴウ、食事を出されたのは何時ごろ!?」


「昨日ですねぇ。」


「OK。一日で行軍出来る範囲なんて限られてるわ。この城の近くよ!!すぐに探しなさい!!」


「あのぅ、お腹減ったので何かくださいぃ。何かくれれば手伝いますよぉ。」


「魔王に恩義とか無いの。」


「むしろ調査のためとか言ってここに閉じ込められてつまんなかったんですぅ。」


「ラン、食事と一緒に探してきなさい。」


「はぁい。私と一緒に探しましょ。」


「はいぃ。」


 ランとゴウはすぐに仲良くなったようで二人で空を飛んで行った。


「……あの、罠は?」


「仕方ないわねー!!アタシが運んであげるから見回しなさい!!」


 そう言ってストレアはブレイドを小脇に抱えて出て行った。


『こっちはどうする!?流石に辛いよ!?』


 ストホから悲痛な叫びが聞こえてくる。オレは急いで指示を出した。


「この間の壁の向こうに行け!!そっち側から魔物は来ない、来たとしても少数だ!!なんとか持ち堪えろ!!こっちはセルドラール側から挟撃出来るよう手配する!!ダメそうならすぐに魔界側へ逃げろ!!合流する!!」


『り、了解!!頼むよ!?』


 そう言って通信は切れた。オレはすかさずストレアに連絡を入れる。


「ストレア、魔王の足取りは任せた。オレは魔界側からボライアへ戻る。」


『分かったわよ。仕方ない。』


 ストレアは少し不機嫌ながらも渋々了承した。今はあーだこーだ言ってる場合では無いと理解したのだろう。


「わ、わしらも協力させてくれ。」


 と、デーモン達がオレの前に立って言った。胡麻を擦るようにスリスリと手を動かしながら。


「そ、その、ま、魔王様……魔王に合流……なんてするつもりはなくて、その、皆さんの協力を是非したいなと……。」


「そうかそうか。それはそれは。」


 オレはニッコリと微笑みーー


 ーー全員檻の中にぶち込んだ。


「裏切る気はもう少し隠せアホ共。」


「出せー!!」「ダスブヒヒィー!!」「ダスゴブゥ!!」「ダシテピィー!!」「ダスボルゥー!!」


 口々に文句を叫んでいるが、オレは無視して魔王城を後にする事にした。



 魔王城を出て辺りを見回す。確かに原生生物らしいものはいるが、兵士のように訓練された動きをする奴らは見当たらない。もう少し早く気づくべきだったか。いやもう魔界に着いた時には手遅れだったか。


 魔王の近くに居た女。恐らくミアだろう。奴が何か手引きしたのだろうか。


 まさか本当に此処で会う事になるとは思わなかった。


 海の悪魔の件で、魔界との繋がりがある事はわかっていた。わかっていたが本当に来ているとは。


 しかし問題なのは、魔界の侵攻である。人間界への侵攻を本格的にやられては困る。ただでさえ今セルドラールは王政の変更やら何やらでバタバタしているのだ。


 王宮も教会もどちらも混乱の渦の中。


 兵士も同士討ちで数が少ない。


 とても耐え切れるとは思えないし、ボライアへ魔界の軍勢の手が伸びているという事は、それが意味する事は一つしか無い。


 セルドラールが陥落したのだ。


 オレは急いで来た道を戻った。



 魔界から出るとオレは早々に跳躍。空からボライアの方へと向かう事にした。


「数は少ない!!不意打ちとはいえ耐え切れるはずだ!!」


 ボライアの上空で様子を見ると、そこではインティが大声を張り上げて兵士達に指示を送っていた。


「ウォォォォォッ!!ここからはァッ!!通しませんよォッ!!」


 マルアスが最前線で兵士達と共に前線を維持している。何とか間に合ったようだ。


 その先に視線を伸ばす。セルドラールからボソボソと魔界の軍勢が攻め込んでいる。


『聞こえる?レイ。』


 ストレアからの通信だ。


「ああ。どうした。」


『人間界への通路を見つけた。案の定と言うべきかしらね。セルドラールのあの隠し部屋あったでしょ。あそこにつながってた。』


 最悪だ。


 あそこは教会の内部。幾ら騎士が居ても内部から攻められてはどうにもなるまい。


「でもそれなら数は少ないんじゃないか?」


『そうも言ってられない。多分アレを悪用されてる。実際目の前で魔王っぽいのに使われたからね。』


「アレってなんだよ。勿体ぶらずに言え。ボライアも不味そうなんだから。」


 ストレアは溜息混じりに言った。


『トラップボックス。バグ自体潰して無かったのが失敗だったわ。量産されてたんでしょうね。それで大量の兵士を輸送したのよ。』


「ああ……。」


 そう言えば毎回箱自体は壊れていたのでバグは直して無かった。


『ああぁぁぁぁぁぁっ!!もう!!バグバグバグバグ!!あれもこれも活用しやがって!!これじゃーこの被害!!アタシが悪いみたいになるじゃないの!!』


「実際お前のせいだろ。お前がバグを作り込まなければまだどうにかなったんだぞ。」


『キィィィィィィィィ!!煩い!!わかってるわよ反省してるわよ流石に!!ともかく重要な事を言うわよ!!セルドラールはもう完全に墜ちた!!ボケーっと突っ立ってたトマと、死にかけてたセディナは回収済み!!それ以上は無理!!』


 ストレアの後ろからバサバサという翼がはためく音が聞こえる。ランかゴウの翼の音らしい。


「ちょっと待て。お前らは一体どうしてる?」


『アタシらは一旦脱出中!!城の形がみるみる変わってるから危ないのよ!!』


「城の形?」


 セルドラールの方を見ると、確かに城の形が変わっていっている。現在進行形だ。


 にょきにょきと木の枝のような何かが伸びていく。本来の城の最上階が更に延長されていく。煉瓦の壁が別の毒々しい色の何かに置き換わっていく。


 見覚えがあった。


 つい最近の事、いやついさっきの事だ。


 魔界で見た建物。唯一見たあれに似ていた。



 毒毒しい色。


 尖った岩で出来たような、ゴツゴツとしてかつ無秩序な造形。


 葉っぱの無い大木のような形。


 一応あれが建物だと仮定すると、消去法で城と思われる物。



「ありゃあ……」


『そう、魔王城。あの魔王の野郎、セルドラールを魔王城に置き換えたのよ!!』


 ストホから聞こえるストレアの声を呆然と聞きながら、オレは眼下に広がる最悪の光景をじっと眺めるしかなかった。

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