第15話 魔王城(2)
「……待て待て。」
オレは足を止めて訝しんだ。
なんでオレはこんな簡単に城の中に入ろうとしているんだ?普通城の前には警備兵とかそういうのいるんじゃあないの?
見回しても全く居ない。
「罠か何かか?」
「何がよ。」
「いや、誰も居ないのはおかしいだろ。」
「た、確かに。ここは敵の本拠地ですよね。」
「誰も居ないのは違和感がありますよねぇ。」
嫌な予感がした。もし罠でないとしたら。
「とにかく入ろう。」
オレ達は駆け足で入城を果たした。恐らく多くの冒険者の最終ダンジョンとなる場所へ。
内心の嫌な予感とは裏腹に、ある感情もまたこみ上げていた。
ーーざまあみろ。ギルドのバカ共。ウチの田舎の神父野郎。オレはお前らより早く此処に着いたぞ。
勿論、別に見ていて欲しいわけでも、見ていて欲しかったわけでもない。
ただ嘲笑いたかった。オレの命を嘲笑った奴らを。
さて。
城の中はというと、しんとしていた。静かだ。瞑想するのにいいかもしれない。そう思うくらいには大変に静かであった。不自然なほどに。
ストレアも苦い顔をしている。
「城を捨てたのかしら?それとも……その……。」
またバグ、と言いたいのだろう。そろそろ自信が無くなってきたと見える。
「先に進んでみよう。」
オレが言い先を歩き出すと、それに続いて三人が着いてきた。
頂上付近まで続く回廊をあがると、玉座の間らしき場所に出た。
階段やら変なトラップーースイッチを順番通りに押さないとダメだとか、椅子の裏のスイッチを押すだとか、岩を落として通路を作るだとかーーを超える必要があったが。最後の方は完全に力押し、外側からよじ登るという無茶をしてなんとかした。
玉座の間には、少し前に敗走していたゴブリンやらオークやらが既に着いていた。足早いな。デーモンの転移魔法か何かだろうか。
「ブヒィィィ!?オ、オイツカレタ!?トラップハドウシタブヒィ?!」
「飛んできたんだよ。」
「タスケテゴブゥ!!モウテダシシナイゴブゥ!!」
そう言って全員が全員手を上に上げている。一部翼だが。
手出しをしないというのは総意らしい。一応こちらからも手は出さないようにしつつ、オレは尋ねた。
「魔王はどこだ!!」
「シラナイゴブゥ!!」
「イラッシャラナイブヒィ!!」
「ドッカイッチャッタピィ!!」
ゴブリン、オーク、ハーピィが涙ながらに叫んだ。
「捨てられたのだろうか……。わしらがふがいないばかりに……。転移魔法で急いで戻ってきたというのに……。」
彼らの後ろでデーモンが蹲りヨヨヨと静かに泣いていた。
「お前らも知らないのか。」
「シリマセンボル。」
「オラタチガシリタイゴブゥ。」
「魔王様は人間界に行ったみたいですよぅ。」
オレの疑問に、別の方向から声が聞こえた。
「魔王か!?」
「違いますぅ。」
ランに似た口調の声が聞こえた。声の元を探すと、玉座の間の横の牢屋であった。
人間にしか見えない風態の男が牢屋の中に入っていた。パッと見歳は若い。ランに近いかもしれない。
牢屋というのも正確ではないかもしれない。近くに変なーーかつてストレアの居た部屋にあったものに近いーー物がいっぱい並んでいる。こんな牢屋は見た事がない。
「機械ね。まぁ、アタシのより全然劣ってるけど。魔法で組み立てたみたい。劣化版とはいえ中々いい出来じゃない。」
「それがなんでこんなところに?」
「僕を調べるため、って言ってましたぁ。」
牢屋の中の男が言った。
「調べるってどういうことよ。」
「僕は"新しい摂理を宿した者"らしくて。その"新しい摂理"っていうのを更に見つけるために僕の体を調べる必要があるとか言ってましたぁ。」
「……新しい、摂理?」
ブレイドは全くわからないという様子で首を傾げた。
「もしかして、ドラゴンになれたりしますかぁ?」
ランが尋ねると、その男は破顔して言った。
「はいぃ。もしかして、あなたも?」
「はいぃ。私もですよぉ。」
「おおぉぉぉぉぉ!!お揃い!!お揃いですぅ!!」
「やったぁー!!仲間を見つけましたよぉ!!」
男とランが同時にドラゴン化し、牢屋越しに手を繋ぎキャッキャと喜んだ。
「良かったなぁ。」
「良くないわよ。つまり新しい摂理って、バグの事じゃないの。魔王め……ここの機械で他にバグが無いかを探っていたってわけね。ふざけてるわね……。フフ、フヒヒヒ。」
ワナワナと肩を震わせながらストレアが怒りに満ちた声を静かに上げた。
いや待て。それより大切な事がある。大切な事をさっき聞いた気がする。恐ろしい事を。
「なぁお前さん。」
「ゴウって言いますぅ。」
「ゴウ。さっき、人間界に行ったって言ったか?」
「言いましたぁ。」
「どういう事だ貴様。何故魔王様が人間界に!?」
デーモンが割り込んできた。邪魔だなこいつ。
「なんだか、女の人が来て、その人と軍のみなさんと一緒にどっか行ったんです。それで、僕のけんきゅーしてる人に聞いたら、なんだか、人間界への入り口が見つかったからそれで侵攻する、とか何とか言ってましたよぉ。けんきゅーしてた人も、食事置いて出てっちゃったから、どこに行ったかは分からないですけどぉ。」
「……。」
え。
それは、その、不味いのでは?
「女の人……ポニーテール?」
「多分。」
「ミカとかミアとか言ってた?」
「多分。」
オレがどう反応するか困っていると、手元のストホが鳴った。とりあえず出た。
「……もし、もし。」
『レイねーちゃん?!こちらインティ。なんかセルドラールの方から煙が出てて、魔物がこっちにも攻めてきてるんだけど!?』
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