第15話 魔王城(1)
大穴の終点。坂道の最後。そこにある洞窟を潜ると、そこには広い大地が広がっていた。
下って行ったはずなのに、先は崖だった。崖の向こうの広い大地には、マグマが流れ、水が滝のように流れ落ち、そしてゴツゴツとした岩肌ばかりが広がっている。荒地というのが正しいだろう。緑の木々が全くない。枯れ果てたような木々ばかりが生えている。生えているのか、残っているのか。微妙なところではある。
「うわぁ。噂には聞いてましたが、……恐ろしいところですね。」
空を舞う翼竜を始めとした魔獣。尖った岩。枯れた大地。とても人の住むところではない。まるでーー
「ダンジョンみたいだな。」
「魔力で岩の形が変わったりしてるからね。ダンジョンのデカい版だと思ってくれた方が早いわ。」
「はぁー。すごいところですねぇ。」
ランが感心したように言った。
「で、魔王のクソ野郎はどこにいるのかしら……。」
ストレアが探し始めたが、
「ああ。」
「ああ。」
「あぁ。」
「あー。」
オレ達は同時に見当が着いた。
毒毒しい色。尖った岩で出来たような、ゴツゴツとして無秩序な造形。全体としては、葉っぱの無い大木のような形。
一応あれが建物だと仮定すると、消去法で城と思われる物が、魔界の奥の方に見えた。
その悪趣味な形状から一見して分からなかったが、一応開いている窓らしき穴と、一階部分に見える門、その前に備えられたマグマの川と橋から、それが建造物である事が理解できた。
「あれか。」
「あれみたいね。まぁセンスのない事。アタシならもっといい形にするわ。」
「どんな形ですかぁ?」
「アタシの姿形を模した感じに「行くぞー。」「はぁい、お姉様ー。」「い、行きましょう。」
オレ達は進軍を開始した。
「ちょっと!?」
ストレアは無視した。
魔王城まで"普通に"空を飛ぶと翼竜などに絡まれそうである。かといって歩くと時間がかかる。ここまで来てまた数日掛けるのは少々危険なように感じた。
「安全に泊まれる場所ないからね。」
「街はありそうだが……立ち寄ったら身の危険があるな、ブレイドの。」
「すみません……。」
「まぁ、私達が行ったとしても、すごく歓迎してくれるとは思いますがぁ、泊まれるわけではないですからぁ。」
ランの言う通り。くれるのは剣とか槍とか石だけだろう。
折角魔法を使えるようにしたのだ。また別のスキルを習得してみるのも手だが、転送魔法は確か行った事があり触媒を設置した場所にしか転送出来ない。どちらの条件も満たしていないのでどうにもならない。
「となればとっとと駆け抜けてしまうのが楽だな。」
「そうですね。でもどうやって?」
ブレイドが小首を傾げた。
「簡単だ。」
オレはブレイドの体をむんずと掴んだ。
「あぁ、なるほど、です、よねぇ。」
そしてオレは思い切り地面を蹴った。
「あああああああああああああああああああ」
オレとブレイドの体は超高速で空を舞った。
「ぶつかるぶつかるぶつかるぶつかる!!」
太陽の代わりに輝く天井から、鍾乳石や氷柱のように尖った岩が何本も生えている。その柱の先にブレイドの頭が擦りそうになったせいで、彼が叫んだ。
「大丈夫だって。セーフフィールドの効果はまだあるから。」
オレがそう言うと更にブレイドは焦ったような声色で言った。
「いやぶつかったら死にますよね!?」
「……。」
まぁそうだな。
「大丈夫大丈夫。」
「何がでああああああ」
オレは軌道を見極めて、ぶつかりそうになったらすぐにブレイドを退かすという事を繰り返した。
右。
左。
後ろ。
「目が……目がまわ……」
「我慢しろ。おっと目を瞑れ。」
「はい?ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
オレとブレイドの眼前には口を開いて餌を待ち受ける翼竜が居た。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!?」
「うるせえぞ。大丈夫だって。」
オレはブレイドを背中に隠しながら、足を突き出し蹴りの体制を取る。翼竜は気にせず口を開け続ける。
ボゴォッ。
オレ達の体は翼竜の喉から入り込み、内臓を突き破りながら外へと飛び出た。文字通りの意味だ。翼竜は肉体を貫かれ哀れ墜落と相成った。オレ達を食おうとするからだザマァミロ。
「おげぇぇぇぇぇぇ」
オレの背後でブレイドが嗚咽した。よく見ると彼の頭にーー比喩的表現でーーソーセージが落ちていた。
「とって、とってください!!」
「後でな。それかどうせ風で飛ばされるだろ。」
とか言ってると、オレ達の体は落下体勢に入った。その軌道の変化で、ソーセージは落下した。
「いやああああああああ落ちるぅぅぅぅうううううううう!!」
「大丈夫だって何回言わせんだよ。」
オレは念のため【ショックアブソーブ】の魔法を使った。
これは落下などの強い衝撃を魔力で軽減するものだ。
オレのステータスなら大丈夫だと思うが、ブレイドのステータスだと落下の衝撃に耐えられないかもしれない。念の為、である。
「ふぎっ。」
ブレイドは無事地面に落ちた。オレが手を離したわけではない。ワチャワチャ動くものだから溢れてしまったのだ。
「だーから大丈夫だって言ったろ。」
「で、でも、死ぬかと思いましたよぉ……。」
涙声で涙を流しながら涙目で言う。
「死んでないだろ。まぁ今回だけだ。もうこういう事は無いから。……多分。」
「多分!?」
「お待たせー。」
「お待たせしましたぁ。」
ストレアとランがオレ達に続いてやってきた。ストレアは足で、ランはドラゴンで空を飛んで来た。
「全く疲れたわ。でもまぁ、面倒事はとっとと済ませたいしね。」
ストレアは憎々しげに眼前の建造物を見つめた。
「バグを利用する者には……死を!!」
目が血走っている。ここまでやる気になったストレアは初めて見たかもしれん。
「よし、行くか。」
オレはそう言って城の中へと向かった。
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