第14話 魔界の入り口をぶん殴れ(4/完)

 魔界までもうすぐのはずだ。そのはずなのだが。


「……おかしくないか。」


 大穴の底に洞窟があり、そこを通れば魔界、のはずだと聞いていた。


 確かに洞窟はあった。魔物達が通っていった跡も残っている。ここが通路で間違いないだろう。オレ達はそう思って洞窟に乗り込んだわけだが。


 かれこれ数時間。歩けども歩けども、洞窟がずっと続いている。


 進んではいるはずなのだが、先に進めない。意味が分からない。何時まで経っても到達しないのだ。魔界に。


 引き返そうとしたが、それも叶わない。戻っても戻っても、同じような光景が続いている。


「いくらなんでも永遠に続くなんてこたぁないだろ……?ない、よな……?」


 オレはそんな言葉を何度も呟いた。最初は「絶対ないだろう」という意味でそう呟いていたのだが、徐々に意味合いが変わってきてしまった。


「そう、思いたい、ですぅ。」


「ひぃ、ひぃ……もうチクチクが収まらないですし、足がヘトヘトですよ。助けてください。」


「もー、うっさいわねぇ。レイ、アンタ魔法で何とかしてやんなさいよ。」


「……仕方ないな。」


 オレは無限のスキルポイントで防御魔法【セーフフィールド】を習得し、ブレイド含む全員にかけた。


 この魔法は、対象者周辺の環境を生存可能なものへ変更する魔法である。勿論限度はある。空気を作り出す事は出来ないし、水圧や風圧にも、ある程度は対応出来るが、限度はある。だが、魔力によるダメージや毒沼、電気フィールドなどのダメージを無効化する事が出来る。


「ああ、楽になりましたぁ。チクチクは無くなりましたね。……足は動かないですけれど。」


「疲れはどうしようもないな。もう少し辛抱してくれ。」


 オレはそう言って洞窟の奥を覗き込んだ。延々と同じ空間が続いているように見える。


「……もしかしてこれもバグだったりしないよな?」


 オレはストレアに尋ねた。


「まっさかぁ。せいぜい、ただの空間湾曲魔法でしょ。同じところをループさせる魔法よ。」


「さっきの魔物が掛けて行ったんですかねぇ?」


「かもね。」


「んじゃ解除してみるか。」


 オレは已む無くスキルで魔法を取得した。


 解呪魔法【ディススペル】。近くの魔法を破壊する魔法である。通常は掛けられそうになっている魔法へのカウンターとして使用されるが、この場合は今この空間に掛かっている魔法を解くのに使用する。


 オレのINTなら詠唱無しでどんな魔法でも解呪出来るだろう。オレは頭の中で念じながら手を広げ、ディススペルを発動させた。


「……んー……?」


 ストレアが洞窟の奥を覗き込んだので、オレも続いて覗き込んだ。


「何か起きたか?」


 洞窟の奥は真っ暗なまま。周りの風景にも変化はない。


「……いいえ。」


「何も変わってないように……。」


「見えますねぇ。」


 ブレイドとランが後に続くように言った。


「そうだぁ。」


 ランが何か思いついたようで、ドラゴン形態へと変化した。


「ボォォォォー!!」


 そして炎を吐いた。炎は洞窟の奥を照らし、そして、


「ハチャチャチャチャチャチャ!!何するんですか!!」


 ブレイドの背中を焼いた。


「……????????????」


 ブレイドが「何が起きた?」という顔でキョトンとしている。


「これは、空間が捻じ曲がっているとかか?」


「みたいですねぇ。」


 ストレアは指を弾き、ブレイドの服を元に戻した。こいつにしては珍しい。


 と思うと、顔に怒りが込み上げている。


「これは……ただ捻じ曲がってるだけじゃあないわね……。」


「どう言う事だ?」


「アンタがさっき魔法解除したでしょ。普通の空間湾曲魔法ならそれで解除出来ているはず。でも解除出来てない。という事は……。」


「バグか。また。」


「そういう事になっちゃうわね。」


 なるほど。ストレアがイライラしているのも、直接干渉したのも、これが原因だ。バグの利用。恐らくこの空間湾曲を魔王が仕掛けたと見ているのだろう。その考えはオレにも正しいように思える。魔王以外がこんなものを仕掛ける理由も無い。


「さっきの魔物共といい、今までのバグの利用といい。魔王様とやらは神を舐め切っているようね……。」


 これだけバグだらけなら舐められても仕方ないと思うのだが、まぁ今は黙っておこう。


「いいわ……そこまで舐めてるならもう徹底的にやってやろうじゃないの……。バグを利用する者には死を!!ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒ……。」


 不気味な笑い声を上げた。


「それよりこれどうにかしてくださいよぉ。」


「そうですよ。僕はもうクタクタです。」


「OKOK。どうせこうでしょ。『魔物じゃない存在を閉じ込めるバグ』。」


 そう言ってストレアはデバグライザーのボタンを押した。


「私はドラゴンですよぉ?」


「でも人間でしょ。だから純粋な魔物としては扱われなかったんでしょう。ほら。」


 そういうとオレ達の前に巨大な黒い騎士が現れた。門のように巨大な盾を持っている。


「グガァァァァ!!」


 具現化したバグが盾を振り翳して襲い掛かろうとした、次の瞬間。


「むぅー、バグさん、酷いですぅ!!」


 ランが怒りに任せて爪を振るうと、眼前の騎士の盾は切り裂かれ、同時に騎士もまた何もしないまま真っ二つにされた。


「グガガガガガ……。マダナニモシテナイ……。」


 そう言って黒い騎士は消滅した。


 ブレイドは消滅した空間に指を指して言った。


「アンタの存在自体が悪なのよ。生まれてきたことを後悔なさい。」


「誰が生んだ。」


「……さぁね。」


 バグの生成者がしらばっくれた。


「あ、ほら、見なさい!!光よ!!」


 そいつは無理矢理声を上げた。


 洞窟の奥を見ると光が見える。本当に空間湾曲が解除されたらしい。


「さあ行くわよ!!魔界へ!!バグを悪用した報いを受けさせるためにも!!GO!!GO!!」


 意気揚々と進むストレアの背中を見て、オレ達は目を見合わせた後、それに続いて歩みを始めた。


 まぁ、ストレアもやる気が出たようで、何よりとすべきか。

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