第14話 魔界の入り口をぶん殴れ(3)

「ならばやってもらおう。」


 そう言ってデーモンが一匹出てきた。見るからに筋骨隆々で強そうである。人語も介することから、知性も十分に備わっているらしい。


「むぅん!!」


 そう言って持っていたダイヤモンドのような光輝く鉱石で出来た棍棒を振り下ろしてきた。


「破ァッ!!」


 俺はそれに拳をぶつけた。


 パキィッ。


 瞬間、棍棒が砕け散った。


「『天より降り注げ巨大なる原始の力』!!」


 それは予期していたのか、デーモンは退きながら魔法を放った。これは詠唱。高位の魔法には必要なものだ。


 ヒュゥゥゥゥゥゥ、という音と共にオレ目掛けて頭上から隕石が向かってくる。


 【メテオフォール】と呼ばれる魔法だ。


「『我が声に応えよ土を支配する竜』!!」


 続け様にデーモンは次の魔法を放つ。


 今度は足元の地面がドラゴンへと変化した。【サモンアースドラゴン】、文字通り、アースドラゴンの召喚魔法だ。


 どちらも高等魔法である。特にメテオフォールに関しては、きっちりオレを狙って落ちてきている。そのコントロール性能から考えても、相当な技量の持ち主であろうという事は見て取れる。


「ぐがぁぁぁぁぁっ!!」


 土で出来た竜が吠え、頭上からは隕石。逃げ場が無いように見える。


 だが、オレに逃げる必要は無い。


 オレは地を蹴り飛び上がり、アースドラゴンに向けて飛び蹴りを放つ。アースドラゴンはそれを口を開けて待ち受ける。


「馬鹿め!!アースドラゴンの強度は先程のダイアモンドロッドの比ではないぞ!!」


 デーモンが勝ち誇ったように叫ぶ。


 だが。


「だからどうしたァッ!!」


 オレは叫ぶと、足に力を込め、アースドラゴンの牙と口内を打ち抜いた。


「ぶぎぇぁ……。」


 断末魔と共にアースドラゴンがバタリと倒れた。


「あ……?」


 オレは頭上を向き直る。メテオフォールはオレを追跡するように落ちてきている。


 再びオレは地面を蹴る。そしてその隕石に拳をぶつける。


「え……っ!?」


 信じられないものを見たようにデーモンが目を見開いた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 叫び声を上げてオレは隕石に力を加える。徐々に徐々に隕石と地面との距離が再び開き始める。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 オレは吠え、そして拳に更に力を込める。


 ビシビシビシ、バキン。


 音を立てて隕石が割れ、そして消えた。メテオフォールで落ちてくる隕石は魔力の結晶。割れた事で隕石としての機能を失い、その力を失ったのである。


「あ、あ、あぁ……?」


 デーモンが口を開けて唖然としている。ここまで出来るとは思っていなかったらしい。愚かな奴め。


「オレを、人間を、舐めすぎなんだよぉっ!!」


「い、いや、多分お前のステータスがおかしいだけ……「でりゃぁっ!!」


 そのままオレはデーモンの頭上へと空中歩行で移動し、何か言っているデーモンの言葉を遮りながら、踵を立ててデーモンの脳天に振り下ろした。


 魂牌流・隕石落下こめんとあうと。空より降り注ぐ隕石の如き勢いで踵を振り下ろし、激突箇所から敵の肉体を切り裂く技である。


 魂牌流・蹴烈断の簡易版だが、デーモン如きにはこの程度で十分だった。


「だろぃぁ……ホゲェ!!」


 言葉にならない言葉を最後に、デーモンの体が真っ二つに裂かれ、そして体内の魔力が爆発した。


 ドォォォォォォォォンという轟音と共にデーモンの体が消失し、オレの背後で爆発が起きた。


「さて、次は誰だ!!」


 爆煙を背景にオレが叫ぶと、魔物達は一斉に魔界に向けて逃げていった。


 周りにはオレ達四人以外誰も居なくなった。


「よし。」


「よしじゃないわよ。物足りない。」


「あのくらいで勘弁してやりましょー。」


「こ、怖かった……。というか、その、レイさんが怖い……。」


 勇者は両足を広げてへなへなと座り込んだ。限界だったようだ。


「失礼な事を言うな。ラン、すまんが頼む。」


「はぁい。」


 ランがブレイドを背中に載せた。


「す、すみません。」


「いいですよぅ。お姉様のお願いですからぁ。」


「よし、じゃあいくぞー。」


 そう言ってオレ達は、先程の魔界の軍勢を追うようにして再び坂道を降り始めた。


 色々と邪魔が入ったが、魔界までもうすぐのはずだ。

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