第14話 魔界の入り口をぶん殴れ(1)
オレ達の目の前にあるのは大穴。魔界の大穴と呼ばれる巨大な穴。
穴の中から響く、魔物達と魔族の呻き声に、少々どころか相当肝を冷やされるだろう。普通の冒険者ならば。
そもそも魔界とは何か。
魔界とは地底である。
この大地の底には広い広い空洞が広がっている、らしい。その空洞こそが魔界である。
魔界には魔物と魔族が住んでいる。魔物はまぁ前に言った事があるだろう。魔力を帯びた獣だ。では魔族はというと、簡単に言えば、魔力を帯びた人間だ。
この定義では魔法使いやエルフのような種族も該当してしまう。正確には魔界の環境に適合した人間である。魔界には魔力が充満しており、長居するだけでダメージを負う場合がある、人間に対して敵対的な場所である。
しかしそのような場所であっても、そこに適合出来る者というのは稀に存在する。それが魔族である。魔族は魔界に適した生態を持って生まれた、或いは適合するように自分の体を作り替えた人間なのだ。それは世代を超える場合も含まれる。何かの理由で魔界に追放され、そして魔界に適合した、何ていう話もあるらしい。
「濃い魔力はそれだけでダメージになる。毒みたいなもんね。というか毒。肉体が蝕まれて行くっていうの?そんな感じ。今も肌がヒリヒリしたりしない?」
ストレアの言葉で自分の体をぺたぺたと触ってみる。なんかブレイドの視線が気になる。胸元を見ているらしい。
「あ、あの、確かにヒリヒリ、チクチクします。……それとレイさん、胸が揺れてます。」
つまらない事を気にしてる奴だな。
「まぁ、気にするな。」
「気にしますよ!!」
何がそんなに気になるんだ。
「男ってのは女の胸とか唇とかそーゆー所に扇情的な感覚を抱くものなのよ。わかってやんなさい。」
ストレアが暖かい目でニタニタと笑みを浮かべた。コイツは本当に毎度毎度腹の立つ笑みを浮かべて下さるものである。
「見たきゃ見てりゃいいのに。」
オレはそれで満足するならと、自分でいうのもなんだが、ちょっと大きめのそれを持ってゆっさゆっさと揺らしてみた。オレとしては邪魔なんだが。しかし、露出が広い胸元とか太腿に感覚を巡らせても、その揺れる振動くらいで、それ以外に違和感は無い。
「いやそういうわけには……その。」
ブレイドは手で目を覆いながら、その隙間から覗き込みつつ言った。変な奴だ。
「お姉様、ごめんなさいぃ。これに関してはブレイドさんの方が正しいと思いますぅ。」
「そうか?まぁいい。ともかく、オレは気にならないぞ。……いやこれは肌の話だ。魔力云々の。」
オレは分が悪いと思ったので話題を戻す事にした。
「そらアンタのステータスならね。INTとかに依存するから。INTは知性と同時に魔力の制御力を示すステータスなの。だからINTが高いほど強い魔法を使える。INTが低いと自分の肉体で制御出来る魔力に限界が生じる。そこにこういう濃密な魔力が空気中から入り込む事で、肉体が制御できなくなって、ダメージを負うの。」
「へぇー。」
知らなかったので素直に感心してしまった。
「でもINT4ならもう少し痛そうにしてもいいのに。」
ストレアは不満げに、ブレイドを見ながら言った。
「勘弁してくださいよぉ。今だってチクチク痛いんですから。」
「またバグとかじゃねぇの。」
「そんなバグ……うーん……もう無いとは言い切れない……。」
流石にバグバグバグバグバグの連続で、ストレアの自信も砕けたようであった。
「バグの匂いも、アンタのライフの件があるせいでプンプン匂うし……。」
「まぁダメージが少ないのはいいことじゃあないですかぁ。ささ、いきましょー。」
ランに続いて大穴へと続く坂道を下っていく。岩がゴロゴロしていて、まるで話に聞く火山の噴火口のようである。
「魔力が吹き出してるって点では噴火口みたいなもんとは言えるかしら。噴火する心配はないけれど。それにこの殺風景なら安心出来るわね。」
「安心?」
「モンスターとかがいたら面倒でしょ。ここは魔界の入り口、本拠地への入り口なのよ。魔族や魔物が防備固めていても」
おかしくない、と言いかけた瞬間、突然ストレアの顔に槍が突き刺さった。
「ぶべ。」
「伏せろ!!」
咄嗟にブレイドを庇うようにしながら地面に伏せた。
「れ、レイさん、む、胸……。」
ブレイドが何か言っているがそれどころではない。
「なんだ!?どこから来た?」
「下の方からですぅ!!あぁ、岩が動いてますよぉ!?」
「岩に化けてたのね。迂闊だったわ。」
ストレアは槍の刺さった顔でそのまま喋った。ホラーだからやめてほしい。
「あー腹が立った。よりによってアタシにブッ刺すとは、」
そういうとストレアは槍を軽く抜いた。顔には穴が開いているが、血などは吹き出していない。
「不敬にも程が、」
そして振りかぶり、
「あるっ!!」
そう言ってストレアは槍を岩に向けて投げ放った。
槍は岩に突き刺さり、
「グギャァッ!?」
という悲鳴と共に魔物を貫いた。
魔物の死骸はそのまま坂道を転がり落ちていった。
それが合図になったかのように、周りの岩が突然立ち上がり始めた。
オーク、ゴブリン、コボルト、ハービィにデーモン、様々な種族混交の精鋭部隊らしきものが剣や槍や弓、爪を掲げてこちらへと殺到し始めた。
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