第13話 勇者はぶん殴るな(3)

「……疑ってすみません。」


 ブレイドは聖剣を抜刀し、その光で再びゾンビ達を浄化させながら言った。


「まさかこんな事まで出来るとは……僕のせいで彼らには辛い思いを……。」


「気にするな。やるにしたって他にも方法があったろうに、そこでゾンビ復活という最低な行為を選択したのはこの屑だ。」


 オレはストレアの頭をゴンゴンと叩きながら言った。叩く度にストレアの体が地面に埋まっていく。


「しゅん。」


「しゅんじゃねぇ。流石にこれはダメ。二度とやるな。」


「まぁ、確かに褒められた事じゃあないわね。仕方ない。やらないでおいてあげるわ。」


 相も変わらずムカっ腹が立つ態度である。


「まぁともかく……神様なのはわかりましたが……。」


 ブレイドは何か腑に落ちないという顔で言った。


「なんで魔物なんて、魔王なんて産んだんですか。」


 真っ直ぐストレアの目を見据えて言った。


「魔王、魔物、そのせいで多くの犠牲が出ています。……僕の父も母も、村もみんな、魔物に滅ぼされました。ここじゃないですけれど。」


 ブレイドはそこで一息ついて。


「なんであんな物を作ったんですか。」


 そう、真面目な顔で言った。


「趣味。」


 ストレアは微笑みながら言った。


「いい?この世界は人間のためだけの物では無いの。動物も、植物も、虫も自然もみんな生きているの。でも人間は基本的に上位存在だと思い込みやすいでしょう?人間だけが喋れる。人間だけが何かを作り出せる。そう思い込みやすいの。実際はそんな事ないのにね。」


 ストレアは悪意に満ちた笑みのまま続けた。


「だからアタシはこの世界を作ったのよ!!魔物も人間も共に歩む事も出来るこの世界を!!人間だけが完全進化形態だと思うなかれ!!世の中にはもっと上がいるという事を知るべきなのよ!!」


「別の世界で何かあったのか……?」

「そんな理由で……。」

「屑ですぅ。」


 オレ達は全員一様に汚いものを見るような目でストレアを見た。少なくとも頭と心は腐っている。下手すればゾンビに失礼なレベルで。


 ストレアは視線に耐えきれなくなったのか、溜息を吐き、そして口を開いた。


「昔……人間しかいない時に人間同士で戦争しあったりしやがったのよ……。」


 ストレアは遠い目で空を見つめた。


「アタシは寛大だから、一回くらいなら許すわよ。でもね、人間を産んだら最後、毎回よ。毎回。分かる?人間だけよ。人間同士の戦争で星ごとぶち壊すのは人間くらいなもんよ。星だけならまだしも宇宙まで手を出し始めるからロクでもないわ。魔力が無く、人間に対する明確な天敵を作らないと、どーしてもそうなるのよ。人間なんてロクなもんじゃあないわ。」


 実感篭った声でうんざりしたように彼女は言った。


「人間が少しでも頂点を取るとそうなるの。ああ、思い返すだけで腹が立つ。アタシが作った世界をまぁ物の見事に綺麗サッパリ荒れ果てた大地にしやがって……。神の存在も適当にあしらうしさぁ。本当どうしようもない屑ばっかだったわ……。」


 さめざめと涙を流しながら、彼女は口角を上げた。


「だからアタシは魔力を作ったのよ。更に荒れるように、そして、人間の天敵たる魔族を魔物を作り出すために。ステータス画面の表示も、人間の本質を見極めての事よ。あれがあればもっともっと争うでしょう?実際そうなった。命の聖杯もそう。人は本当に上手い事活用するわよね。神の手の内で踊らされているとも知らずに。」


 けっけっけ、という不気味な声でストレアは笑い声を上げた。


 命の聖杯。ドミネア教の”活用”の仕方、どうやら想定の通りだったようだ。薄々感じてはいたが。


「アタシはねぇ、もういっそみんなが傷つけ合いズタボロになりのたうち回る姿が見たいのよ。そう!!みんなが等しく狂い皆等しく苦しむがいいわ!!」


「歪んでやがる。」


「まぁ……その、色々あったんだな、というのは理解しました……。」


「ああ。もうこれ以上触れない方がいい。」


「へへ、えへ、うひぇひぇひぇひぇ。」


 ストレアは泣きながら笑い声を上げた。気味が悪い。思い出したく無い事だったのだろう。こいつの行動原理を認めるつもりは更々無いが、ストレアはストレアで苦労していて、まぁ、その、結果としてこうなったのだろう。仕方ない。


「まぁ、許せというつもりは全くない。だがこういう奴だと理解してやってくれ。」


「そう、です、ねぇ。」


 ブレイドは振り絞るように言った。ギリギリ納得?はしてくれたようである。


「ところでぇ、このまま進めばいいんですかぁ?」


「確かそうだな。」


 オレは懐からインティ達にもらった地図を取り出した。


「多分オレ達がいるのはここ、だった所だ。」


 オレは"コーザ村"と書かれた場所を指した。地図の上では、ボライアから一番近い村で、木々に囲まれている。……多分、ここの連中だったのだろう。あのゾンビ達は。


「で、魔界の入り口で一番近いのは、ここ。」


 オレはそこからツーと指を動かし、そこからボライアとは逆方向に、つまりこのまま真っ直ぐ進んだ先にある、"魔界の大穴"を指さした。

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