第10話 記憶の断片(1)
ボライアで魔界の軍勢をぶちのめしてから数日。
オレ達はオレの地元、イノナカ村を目指していた。
セルドラールに戻った後、王子と会話した。
何でも、例のドミネア教による王家転覆未遂は、あくまでマクア主教の暴走という形で公表する事に決まったらしい。その上で、責任を取ってマクア主教に近い三名の司祭が辞めさせられるという事になった。死罪にならなかっただけマシというものだ。その上でドミネア教には罪無し、という方向で纏まった。トマ司祭は主教に格上げになるとか。まぁあの人なら大丈夫だろう。
スムーズに帰還へ話を持っていけたのは良かったと心底思う。下手すればミカが死ねばドミネア教は真実を話しているという事になり、彼女の命が狙われる、なんて事も考えられたわけで。三名の司祭が到着するのと丁度同タイミングで王子が帰還出来たらしく、流石に王子に逆らう程バカでは無かったらしい。とはいえ、マクア主教派の連中主体で話が進んだら、拗れていたかもしれない。ちゃっちゃと帰れと促したのは間違ってなかったというわけだ。
で、ミカをどうするかという話になった。
セディナ王子曰く、
「彼女が失踪した原因が分からなければ、どうするこうするも何も考えられないとは思っています。となると、まずは彼女に記憶を取り戻して貰う必要があります。」
とのこと。ご尤もである。
だが記憶を取り戻すというのはどうしたものだろうか?数週間の旅路でも思い出したことはないらしい。
「ストレア、何か無いのか。」
「アタシは便利道具じゃないのよ?」
え?お前が便利道具じゃなかったら、お前のいいところってなんだよ。そういう罵声が頭をよぎったが、辛うじて口を閉じることに成功した。ここで不貞腐れても困る。
「神が個々人の記憶にまで介入しないから、そーいうのは出来ないわね。仮に出来たとしても、そういうのは自分から思い出した方がいいと思うわよ。なんで記憶を失ったかにもよるし。身投げ?だとしたら、なんでそんなことをしたのか、という話にもなるでしょ?無理矢理それを思い起こさせても良いこと無いわよ。」
ストレアの癖に生意気にも、それは実際のところ正論である。
「だが私は知りたい。私が何故今此処にいるのか。何故私は命を断とうとしたのか。……それがどのように重い理由であっても。」
「ふむ。」
オレは考えた。
「そういえば、この間の戦場で見せた格闘術、オレの教わった魂牌流に似てたのが気になったんだよな。」
「格闘術、か。うぅん、あの時は体が勝手に動いていたので。何かの理由で覚えていたのかもしれない、としか言えない。」
「そうか……。ジョセフ・コンパイラって名前に覚えは?」
ミカは首を横に振った。
「……いや、記憶は無い。が、会えば分かるかもしれない。」
会えば、と聞いて思わずオレの顔が強張った。それを見て事の次第を理解したのか、ストレアが申し訳なさそうに言った。
「すまない。どうやらーーー」
「いや、いい。話してなかったんだ。それは仕方ない。……お察しの通り、もう彼は居ない。だが家はまだ残っている。もしかすると手掛かりがあるかもしれない。オレが住んでいた頃には見た覚え無いが。」
「では君に巫女様を託してもいいだろうか?」
トマ主教が言った。
「まだこの街は混乱の中だ。落ち着くまで、巫女様は別の所にいた方が良いと思う。それに私も、記憶を取り戻して貰う事には賛成だ。事の顛末を知らねばならないからな。」
それを聞き、セディナ王子は肯いた。
「ではレイ殿。私からもお願いする。巫女様の記憶を探って欲しい。」
オレもそれを聞いて肯いた。
そういう経緯で、今イノナカ村へと戻っている。
もう船旅は嫌だと言うので、ランに頑張って貰う事にした。
「三人はちょっとギリギリですぅ。」
という事で、徒歩と飛行の組み合わせで、休み休みではあるが。
オレが全員をひっ捕まえてジャンプしてひとっ飛び、という手も無くはないが、速度的な問題で、下手するとミカやランの体が壊れてしまうかもしれない(ストレアは壊れないだろうからどうでもいい)。なので基本的には通常の経路で移動する事にした。
「時間掛かるわねぇ。あーあ、人間との旅は大変だわ。」
「お前がワープさせてくれてもいいんだぞ。オレを最初にあの場所に呼んだ時みたいに。」
「あれは管理者しか入れないの。あとまだ修理中だから他人を入れたくないし。」
ストレアが舌を出して拒否の姿勢を取った。
「そのくらいちゃっちゃと直せよ。もう一ヶ月くらいは経ってるだろ。壊れてからさ。」
「疲れないように直すのは予想以上に時間が掛かるの。アタシは疲れたくないからこれで限界でーす。」
「だったら文句を言わずにキリキリ歩いてくださーぃ。」
ランがストレアだけを器用に尻尾で掴んで投げ飛ばそうとした。
「やめて!!落ちたら死ぬ!!」
「いや死なねえだろ。」
オレは冷静にツッコんだ。
「そうなのか?」
ミカがストレアを掴んで助けながら不思議そうに言った。優しい奴だ。
「そいつはそれでも世界の創造主だからな。自分の言いように作ってあるのさ。」
「ほう。試してみるか?」
ミカが片手を離した。もう片方の手と尻尾だけがストレアを支えている。
「やめなさいよ!!」
「冗談だ。」
ミカが再びストレアを掴んだ。ストレアがホッと一息ついた。
意外と冗談が分かる奴だな、とオレは一人ほくそ笑んだ。
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