第9話 侵攻する魔界の軍勢をぶん殴れ(6/完)

「お待たせぇーしましたぁー。」


 ドラゴンが誰かを背に乗せてやってきた。


「お帰り、ラン。」


 そういうとドラゴンは背の誰かを降ろし、そしてランへ姿を戻す。


「えへへ。ランお使いちゃんとしてきましたよ。」


 そう言って今降ろした人物を指差した。


「全く、こんなところまで呼び出されるとは。」

「お疲れ様ですッ!!」


 インティとマルアスである。


「すまんな、わざわざ来てもらってしまって。」


「全くだよ。でもまあ、恩人の頼みだし。」


「国の一大事とあってはッ!!仕方がありませんッ!!」


 マルアスがいつも通りポーズを決めながら言った。


 まぁ単純な話だ。指揮官が居ないなら呼んでこよう。そういう話である。


 幸い、ウッドズック村はあの後襲われては居なかったらしい。襲われていたら連れてこなくていいとは言っていたので、ここにいるという事はそういう事だろう。


「あの後は平和だよ。お陰様でね。」


「村も副村長にッ!!お任せしましたッ!!のでッ!!ご安心をッ!!」


「とはいえずーっといる訳にも行かないからね。最初の方針とかは指示出来るだろうけれど。」


「あくまでッ!!一時的なものとッ!!思って下さいッ!!」


「勿論分かってる。」


 王子様が一つ失敗していたのは、後任を用意していなかった事だ。そこでインティに一時的な指揮と王子不在時の代理指揮官の育成をお願いする、というのがオレの策である。策とも言えないほど単純な話ではあるが。


 とは言えいきなり出てきた奴の言う事を、王宮の兵士達が聞くとは思えない。そこで今戦場を凪ぎ荒らしたオレと、村長でSTRも高いマルアスの威を借りようというわけである。ウッドズック村の時と同じ作戦だ。


 昔はステータスが低い事で虐められたり色々と不都合を被っていたわけだが、こうして役に立つ日が来るとは、いやはや人生どう転ぶかなんてわからないものである。



 その後は細かい話をする必要はないだろう。兵士達の反応も、それに対するオレ達の振る舞いも、ウッドズック村の時と同じように進み、辛うじてインティを迎え入れさせる事に成功した。


「じゃあ何かあったら呼ぶよ。面倒な事になっても嫌だし。」


「ああ。ストレア。」


「何よ。」


 ストレアは口に布を巻きながら言った。


「……まずなんだその格好。」


「さっき豚とキスしたから消毒してるの。」


「アホか。まぁ元々か。」


「あ?」


「何でもない。ストホあるか?」


 オレが尋ねると、ストレアは悦に入ったような微笑みを浮かべて言った。


「『偉大なる創造主であり万能の神たるストレア様の作り出した超便利でユーザビリティに優れた最強のスマートフォン』の事?」


「絶対名前変わってるだろ。」


「気のせいよ。あるけど、えー?現地人に渡せって?」


「減るもんじゃないだろ。お前なら指パッチンで作れるだろ?」


「作れるけどそれやると腰が痛むのよねぇ。あと現地の原始人に渡すのはちょっとねぇ。」


「原始人……また随分な物言いだなあ。」


 インティが少々不満げに言った。取り成すとしよう。


「まぁまぁ。よく考えてみてくれよ。バグを利用されるのは嫌だろ?」


「それは嫌ね。」


「また他のバグを利用してきたらどうする?」


「潰したいわね。」


「だよな。それにあれだろ?あんまり人目につかせたくはないだろ?」


「ないわねえ。」


「この二人と連絡が取れれば、変な事があればすぐに知らせて貰えるぞ?」


 ストレアはそれを聞いて少し考えて、


「仕方ないわねぇ。」


 そう言って右の親指と人差し指を重ね合わせ、パチン、と弾いた。


 音とともにストホが発生し、インティの手に落ちてきた。


「……。」


 インティは手元の機械とストレアの顔を交互に見合わせて言った。


「アンタ、本当に神様なんだ……。」


「今更!?」


「レイさんは本物だとしても、アンタは冗談か妄言のどっちかだと思ってた……。」


 ストレアが怒り狂った顔で飛びかかろうとしたので、オレは腕を地面に並行に伸ばし、奴の顎にぶつけた。


「やめろやめろ。お前の姿見てりゃそうなるに決まってんだろ。自業自得だ。」


「ら、ラリアット……ふぎゅ。」


 そういってストレアは地面に落ちた。



 数日後。


 未だ細々とではあるがやってくる魔界の軍勢に対し、オレ抜きでちゃんと対抗出来る事を確認したオレ達は、一旦セルドラールへと戻る事にした。


「さて。んじゃこの場は任せた。」


「はいッ!!お任せあれッ!!」


「早速恩返し出来て良かったよ。ねーちゃん達、気をつけてね。」


「ありがとうございました!!」「王子様がいなくなってどうしようかと思っていたんです……。」「助かりました!!」


 彼らと兵士達は手を振って見送ってくれた。


「さて。城下街に戻るか。」


「……うむ。」


 ミカが少しだけ微妙な顔をして肯いた。気持ちは分かる。その視線に気づいたのか、ミカがハッとなってこちらを見た。


「いや、すまない。大丈夫だ。何か、頭が痛くてな。今は落ち着いた。」


「そうか。」


 記憶が無いまま喧々諤々、権謀術数渦巻いているであろう場に戻る事になるのだ。気分が乗らないのは仕方ないだろう。


「無理は、するな。いざとなったら逃してやる。」


「優しいな。だが大丈夫だ。自分の責任は自分で付ける。私は巫女だから、な。」


 その目にはしっかりとした決意が見えた。


「分かった。」


「じゃあ、行きましょー!!」


「お礼は?ここの奴らからのお礼をぶんどったりはほげっ」


 世迷言を宣うストレアをぶん殴り気絶させると、それを抱えてオレ達は城下街への道を歩き出した。

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