第9話 侵攻する魔界の軍勢をぶん殴れ(5)
「なんだありゃ……。」
手足はデーモンのそれである。人のそれに近いが、それよりも太く筋骨隆々の手足。ドラゴンの尻尾。そして二十本の首。その首に生える様々な魔物の頭。
気持ち悪いというのが率直な感想である。
「遺伝子なんて弄るバグだから無茶苦茶な具現化しちゃったみたいね。」
ストレアが汗をかきながら言った。
「さあGO!!行けGO!!とっととあのバケモンを処理するのよ!!」
「お前は責任という物をもう少し感じた方がーーー」
ドカン。
バケモノが何かを飛ばしてきて、それがオレ達の近くの地面にぶつかり爆発した。オレ達に被害はなかったが、飛ばして来たものが見えてしまって唖然に取られた。
首の先にあった頭だ。
ゴブリンの顔が弾丸の如く飛んできた。そしてそれが炸裂した。
「あ、あれが、全部、飛んでくるってか。」
その姿の醜悪さとやっている事の気持ち悪さに、オレは思わず吃ってしまった。
「キモッ。」
ストレアは身も蓋もない感想を述べた。
「なんであんな形になってんだよ。」
「さっきも言ったでしょ?遺伝子を扱ってるせいで色々複雑なことになっちゃったの。さぁ!!とっとと潰しなさい!!アイツでもアンタなら余裕でぶ」
オレに攻撃を促すストレアの顔面目掛けて、オークの顔面が飛んできた。ストレアと黒いオークの顔が触れ合い、その唇を奪った。
次の瞬間、その顔が弾けた。
ストレアの髪が膨れ上がり、煙をもくもくと上げた。
「…………。」
ストレアは無言でその場に蹲り、おげぇーっと嗚咽の声を上げた。
黒いオークの顔にキスされ、挙句爆発。流石に哀れだった。
「あのバカを殺って来なさいよぉ!!」
「……分かった分かった。行ってきてやる。」
そう言ってオレは大地を蹴って飛び上がり、黒いバケモノの幾つもの頭の上へと到達した。
「ギジェァァァァァァァッ!!」
巨大なバケモノはオレの方を全ての顔で見つめ、そして一斉に顔を撃ち出した。ゴブリンやらオークやらの顔という顔がこちらに向けて飛んでくる。気持ち悪い。
オレはそれら全てに拳を打ち込み、弾き返した。あまり触りたくなかったが仕方ない。
それらはそのまま爆散するものもあれば、幾つかはバケモノへと跳ね返っていった。跳ね返った顔はそのまま着弾し爆発する。だがバケモノは平然としている。オレにも全く効いていない。オレ程ではないがステータスは高いらしい。
「仕方ねえ。」
オレは足に力を込め、そのままバケモノの首の森へと急降下した。バケモノ共が口を開ける中へと。
「破ぁっ!!」
気合を込めると、オレの足が光り輝く。そのまま足がそれを食おうとした顔へ当たり、それを引き裂く。そうしてオレはバケモノの体を次々に引き裂いていった。
「ギャギャギャァァァァァァァァァァッ!!」
知性が無いらしいバケモノは只々言葉にもならない悲鳴をあげて、やがて黒いモヤとなり、そして消滅した。
魂牌流・蹴烈断しゅれっだー。自分の力を足に集中させ、その足に触れた如何なる敵も引き裂く技だ。
「ふぅ。」
オレは一息吐くと、ストレアの方を見て言った。
「終わったぞ。」
「ありがと。…‥で、水くれない……?」
未だにアレが脳裏から離れないらしい。
「戻ってからな。」
そう言ってオレは、ストレアを小脇に抱えて飛び上がった。
上から見る限り、戦況は一気に人間側に傾いていた。
大型は大体オレが蹴散らしたのだから当然と言えば当然ではある。魔物の強さはほぼほぼ大きさに比例する。小型の魔物は訓練している兵士なら簡単に倒せる程度のものしかいない。それが束になって掛かろうが、大体どうにかなる事が多い。そもそも壁が崩れない。街の安全はほぼほぼ保証されたと言っていい。
「……ふぅん?」
目についたのは、壁の前で戦うミカの姿だった。拳の出し方、身の動かし方。覚えがある。オレも身につけている、ジョセフの魂牌流に似ている。……いや、似ている、どころではない。同じだ。
彼女はここまでオレ達が護衛していたので、戦う姿は初めて見たが、不思議なものだ。ジョセフが教えていたのだろうか?だがオレの知る限り、ジョセフの元に尋ねてくる者はいなかった。冒険者時代の知り合いだろうか。
「改めて考えても不思議なものねぇ。彼女。一体どういう経歴なのかしら。」
ストレアも疑問に思っていたようだ。
「高いステータス。二つのライフ。うーん。バグなのは分かるんだけどねぇ。どんなバグなのかがハッキリしないわ。」
つくづく使えねえ奴だ。
「使えないとか思ったでしょ。」
「思ってない。思っていたとしても口にしてないからセーフだ。」
「思った時点でアタシに対する侮辱罪よ!!許し難いわ!!」
「思想の自由くらいくれよ。後、そろそろ着地するぞ。そうやってウダウダ言ってると舌噛むから注意しろ。」
そういうとストレアはその減らず口を噤んだ。やれやれ。
ドシン。
超高空からの自由落下により、大地に衝撃が走った。
その揺れは魔物の隙を生み、ミカが止めを刺すと共に、その視線をオレ達に向ける時間を作り出した。
「どうやら片付いたようだな。」
「ああ。」
オレがそう答えると、ブシャアという音とともに、ゴブリンが血を吐き出し息絶えたのを確認しながら、ミカは言った。
「こちらもこれで最後だ。当面は安全だろう。」
「無事で何よりだ。その拳法は?」
「うむ。何やら体が覚えていた。貴方の、レイのそれと同じだと思う。が、何故身につけていたのかがわからない。」
「不思議なもんだな。」
「まあそれは一旦置いといて。これでとりあえずは安心でしょ。セルドラールに帰って歓待でもして貰いましょ。」
ストレアがヘラヘラしながら言った。
「だがまだこの街は魔界との戦争の最前線であり続ける。王子のような指揮官が居ないのはやはり問題があるのではないか?」
ミカの疑問も尤もである。
だからこそ、手は打ってある。
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