第9話 侵攻する魔界の軍勢をぶん殴れ(4)
改めて周りを見ると、敵は殆ど消えていた。このくらい余裕だな。兵士達が畏敬と畏怖の念の籠った目で見てくる。まぁやったことは他者から見れば信じ難いものだろうし仕方ない。とりあえずストレアの話を聞くことにする。
「どうした。」
『腹立たしいわね。まーたバグを利用された。』
「お前の世界は本当にガバガバだな。」
『うっさいわね。……魔物を生成する機械があるみたい。それで魔物が生成されてる。』
「生成?」
『アンタの殺した魔物の残りカスを調べてみたのよ。そしたら、何匹か同じ遺伝子を持ってる奴が居た。全く同じものを。そんなこと普通はあり得ない。』
話の腰を折るようで何だが、オレにはどうしても分からないことがあったので割り込んだ。
「……いでんし、ってなんだ。」
『ああもう古代人はこれだからッ!!』
ストレアが苛立たしいといった声を上げた。煩え。古代人はあんまりだろ。こちとら今を生きる現代人だぞ。この世界では。他の世界は知らん。
『遺伝子ってのは、まぁ平たく言えば、生物の設計図よ。その設計図は完全一致するものというのは基本的にないはずなの。完全一致するのはクローン。完全な複製だけよ。』
「それが居るというのがバグなのか?」
『それ自体は厳密にはバグじゃない。けれど、少なくともこの時代の技術水準では出来ないはず。それで調べてみたら、ビンゴ。見つけちゃった。魔法の中に物質複製の魔法があるんだけど、それは生命に使えないようにしていたはずなの。それを特定条件下で生命にも使えるようになっちゃってたみたい。』
「どんな条件だよ……。」
『魔力の込め具合とかそういうので起きるみたい。よーく見つけるわよねぇ。感心しちゃう。そういう専門の部隊でもいるんじゃないかと疑いたくなるわ。』
「本当に居たりしてな。」
『もしそうなら本気で潰しにかかるわ。』
珍しくストレアの語気が強まった。どうやら今回の発言については本気らしい。
「それで、どうすればいい?」
『魔力が集中している箇所が、アンタの数キロ先にある。そこに行って頂戴。アタシも合流する。』
そう言って奴は通話を切った。腹立ちが明らかに口調に出ていた。
まぁ、彼女としても自分の作り出したこの世界を好き勝手弄られることには少なからず不快感を抱いているのだろう。自分で作ったものが他人の手で壊されるという事の気持ち悪さ。何となく分からなくもない。やる気があるのはいい事だ。オレは指定された場所へと向かった。
「あれか。」
オレが指定場所に着くと、ストレアは既に着いていた。
その目線の先に、何やら太めの糸やら、変な鉄の部品がゴテゴテとくっついた、妙ちきりんなものと、それを弄る指揮官らしき鎧を纏ったデーモンが居た。
「ケーブル。歯車。装置。アンタ本当に物知らないのねぇ。」
ストレアが呆れたように言った。
「仕方ねえだろ。お前さんの知識とこの世界のギジツスイジュンとやらが一致してないんだから。それはオレに言われても困るってもんだ。」
「はいはい。それよりアレ見なさい聞きなさい。」
オレの訴えを適当に流して、奴はその装置とやらとデーモンを指差した。デーモンは護衛をつけているが、何か独り言を言っている。護衛は聞き流しているようだった。
「やれやれ。全く、魔王様も悪魔使いが荒い。魔王様がさらっと片付ければ良さそうなものだろうに。だがこれで頭数は増やせるから良しとするか。」
確定。自白してくれるのは楽だな。
「あれを壊せばいいんだな?」
「そうだけど、癪だからちょっとした趣向を凝らしてやりましょう。」
そう言うとストレアはデバグライザーを起動して言った。
「具現化。『魔力調整により生物の完全複製が可能なバグ』。」
するとその装置から黒い煙が吹き出し始めた。
「なんだ?故障か?」
デーモンが驚いた顔を見せた。
煙はどんどん、どんどん大きくなっていく。異様な光景だった。今まで見た事がない。今まではデバグライザーで実体化したバグはすぐに形を取っていた。
「ヤバイわね。」
ストレアがポツリと呟いた。
「何が。」
「ちょっとバグの規模がデカすぎたらしいわ。」
「そうするとどうなる。」
そう尋ねると奴は煙を指差した。
煙は見上げる程にまで拡大していく。
デーモンも呆気にとられて空を見上げた。
次の瞬間。
「ふぎっ。」
デーモンを押しつぶしながら、煙が形を取った。……バグは利用者を殺す性質でもあるのだろうか。
巨大な、オークとゴブリンとドラゴンとハーピィと……戦場に居た様々な魔物の顔が長い首に生えた、十も二十も首を持った、異形の化け物の形を。
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