第8話 教会の連中をぶん殴れ(7/完)

「……私も同行して良いだろうか。」


 巫女が口を開いた。


「私の記憶が蘇る何かの切欠が得られるかもしれない。それに、どの道私はここには居られないしな。」


「オレはいいけど。アンタらは?」


「貴方方と一緒ならば身の危険はありますまい。お願いしてもよろしいでしょうか?」


「分かった。よろしくな。」


「ああ。よろしく頼む。」


「賑やかになりますねっ。」


 ランがニコニコと微笑みながら言った。一方この女は。


「えー?人が増えると掛かるものがあるわよね。困るわねぇ。そういうの。」


 そう言うと、何かを言いたげにモジモジしながらトマ司祭の方をチラチラ見ていた。


 言いたい事があるならハッキリ言え、と言おうとして止めた。こいつが言いたい事が大凡察せてしまったからだ。


「ああいい。」


 トマ司祭が懐に手を入れたところで、オレは止めた。


「え?しかし。」


「こいつのことはいいから。無視してくれ。それよりアンタはちゃんと教会騎士にオレ達を襲わないよう言っといてくれ。主流派じゃなくてもそのくらいは命令聞くだろ?」


「ああ、まぁ、そうですね。それは可能ですが……。」


「アンタの懐にあるものおかねなんて、後でどうにでもなるさ。そっちをちゃんとしてくれればいい。」


 オレはストレアの口を手で塞ぎながら言った。ストレアがオレの頭をポカポカ叩いた。全く痛くない。


「はぁ。分かりました。そこについては、お約束致します。」


「よし。」


 と、そんなやり取りをしていると、サバイ大臣が絵を取ってきた。


「持ち歩ける大きさのものだとこれだな。」


 差し出した絵は、凛々しい黒髪の美青年が描かれていた。


「頼んだぞ。わしはこれ以上の争いが起きないように何とか抑えてみるわい。王も、王妃も、それは求めていないであろうからな。」


 そう言って彼は遠い目をした。彼は王を尊敬していたのだろう。それを失った悲しみというのは如何程の物だろうか。オレで言うところのジョセフのようなものだろうか。それだとしたら、相当な辛さだと思う。ましてやこの理不尽さである。


「ありがとう。サバイ大臣。この度は私のせいで王を失わせた事、大変申し訳なく思う。」


「ああいや、その。」


 サバイ大臣の目には涙と、そして若干の怒りが滲んでいた。巫女の姿を目に留めたくない、そんな微妙な表情が浮かんでいた。


「貴方の怒りや憤りは至極当然のものだ。私も出来る限りの償いをするが、それでも許せないと思うのも人の摂理というものだ。私はそれを受け入れよう。私はこの罪を背負い、このような悲劇が二度と起きぬよう尽力する。貴方はそれをどうか見届け、そして誤った事をしているようなら止めて欲しい。貴方にしか頼めない事だ。」


「……分かった。」


 サバイ大臣はどうやら納得したようだった。


 しかしこの巫女。記憶を失ったからなのか。それとも元からなのか。随分と出来たお人だ。


「じゃあ行きましょー。」


「ちょっとお!!金貰わないと割りに合わないわよ!!」


「いいから行くぞ。」


 ストレアを引っ張りながら、オレ達は王の間を後にした。



 城門まで来ると流石にストレアも諦めたのか、抵抗を止めた。むしろオレに体重を預け歩かずに楽をしようとしてきている。オレは手を離した。ストレアの体が地面に落ちた。


「痛っ。最近アタシの扱い酷くない?アタシは神よ!?神なのよ!?この世界を作り出した創造主!!なのにアンタと来たらアタシを殴るわ口を塞ぐわやりたい放題!!何の権利があってそんな好き勝手出来るのか聞きたいもんだわ。」


「さっきのトラップボックス。」


「う。」


「この間のモヤ。」


「ゔ。」


「幽霊なんて居ないって言ったっけ?」


「ぐ。」


「そもそもオレがこんなステータスになったのも、お前のバグ取りに付き合わされる羽目になったのも、誰のせいかなぁ?」


「……♪〜」


 口笛を吹き始めた。全くこれだからコイツは。


「……その、この人、いや、この方が本当に創造神、なのか?」


「それは、その通りなんだわ。残念だが。」


「何が残念なのよ。」


「そうか。……そうか。」


「何よ。何か言いたい事があるなら言いなさいよ。」


「言ったら怒ると思いますぅ。」


 察したランが言った。ストレアが騒ぎ始めた。無視しよう。


「さて。巫女、だと色々支障が出るな。」


 兵士とか騎士に聞かれたら驚かれそうだ。


「それは、確かに。」


「何て呼べばいい?」


「ふむ。…………む。」


「どうした。」


「何か……思い出せそうな気がする。名前、名前、名前…………………。」


 そう言って巫女は考え出した。目を瞑り、腕を組み、うんうんと唸り、やがてその目を開いた。


「……み、か。ミカと呼んでくれ。……今、記憶の片隅に残っていた名前だ。」


「ミカ、ね。よろしく。オレはレイ・エグゼ。」


「ストレア。創造神よ。モノホンのね。崇めなさい。」


「この屑は無視してくれ。」


「ああ、そうさせてもらう。」


「ちょっと!!」


「私はドラゴン人間のランですぅ。レイお姉様と一緒に同じ境遇の人を探してますぅ。よろしくお願いしますぅ。」


「よろしく。」


「無視すんじゃないわよぉ!!」


 怒りを顕にするストレアを無視して、オレ達三人は一路王子が滞在しているという街、魔界との戦争の最前線、ボライアへと向かうことにした。何が待っているやら分からないし、バグ直し以外にもやることが増えてしまったが、まあいいさ。こういうのもバグ取り、世直しの一貫だ。やれるだけ、やってみるさ。オレはそう決めて、歩みを進めた。村を出た時より、足取りは少しだけ軽くなったような気がした。

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