第8話 教会の連中をぶん殴れ(2)
「ローグラムが、ドミネア教の、支配?」
「主従逆転ねぇ。けけけけけけ。面白いわぁ。バカな人間どもが同士討ちってわけねぇ。」
「面白くねぇ。つか意味わかんねえ。なんだってそんな事に?」
オレはよくよく死体を見つめた。何処かで見た事がある。確か、今代の国王様、お妃様だったと思う。つまり、そういう事だ。とりあえずさっきの兵士は昼間から酒を飲んで妄言を吐いたというわけではなく、本気で言っていたという事がよく分かった。
「バグの匂いもちょっとするし。何かあるわよ、この街。」
「そうだろうな。何か無いと困る。」
ただでさえ魔王軍との戦争が続いているのだ。戦火が何時何処まで広がるか分かったものではないというのに、そんな状況下でいきなり革命が起きる等、普通の状況で起きて貰っては困る。
こいつらを蘇らせれば、何が起きたか分かるのではないか。
オレは磔にされた国王達を見て、そんな考えがよぎった。だがオレの中の、オレが良心と信じるものがそれを躊躇させた。それはオレが嫌っていた、命の聖杯による死者の蘇生と然程変わらない。本来有るべからざる理由、即ち世界のバグで死んだならまだ話は通るが、ただただ人間達の営みの中で死んだーーーというには悲惨な末路ではあるがーーーを無理に蘇らせる事は、自然の摂理に反する、ような気がした。
「……少し時間をくれ。」
物言わぬ死体に向けて、ぽつりと呟いた。
「諦めた方がいいわよ。」
ストレアが言った。
「この死体は間違いなくバグじゃない。人の手で行われたのよ。そういう匂いはしないしね。」
「……まだ、分からないだろ。」
「無駄だと思うわよぉ。確かにバグの匂いはするけれど、この街、そして城全体から漂うってわけではないから。バグが原因でこんな自体になっているとしたら、街全体から漂っていてもおかしくないでしょう?」
「まぁ、そうかも、な。」
「ムッフフフフ。」
ストレアは嫌味な笑みを浮かべた。
「だからぁ。人間達が色々とバカな事をやらかしたってえ訳よ。」
「まだそうと完全に決まったわけじゃない。確認しよう。まずは城へ向かおう。王が死んだというなら場所はきっと城だ。」
「城、ですかぁ。入れるんですかねぇ?」
「旅人だと言えば入れるだろう。ここに居ても何も情報は得られそうにない。行ってみよう。」
別にオレがどうこうする話では無いのかもしれない。無視しようとすれば無視する事も出来ただろう。だが無視なんて出来るわけが無い。ドミネア教が支配を宣言し、最初に行ったのが王達の磔なのだ。街の住人に同じ事をしないと考える理由が無い。そしてそれをみすみす見逃すのも出来ない。オレみたいに命を捧げられそうになる奴が増えるかもしれない。
そんなこと、断じて許すわけにはいかない。
オレ達は静まりかえった街の中を歩きながら、一路城へと向かった。
白亜の城の大きな門の前で、城の中を覗き込んだ。城内からまた、血生臭い匂いが漂っていた。至る所に兵士の死体が転がっている。ドミネア教が支配下に置いたのは、そう昔の話では無く、つい先程くらいの話のようだ。実際、ここに来るまで、近隣の村を通ってきたが、その手の話は一切聞かなかった。もしそういう話があれば、旅人の間で噂になっているはずである。それが無かったことからも、この革命からそう時間が経過していないと考えるのはそう難しい話では無かった。
「旅人の方ですね?」
一人の兵士が、門の向こうからやってきて、オレの胸元の札を一瞥してから言った。
「すみません。ここは今掃除中でして。申し訳ありませんが、旅の方の入城は規制させて頂いております。」
顔と持っていた槍に返り血がついている。掃除、ね。何とも示唆に溢れた言葉である。
「ああ、そうでしたか。すみません。しかし、一体何が起きたというんですか。」
オレの質問に、彼は辺りを見回した。今のところ物言わぬ屍とオレ達以外は居ない。
「あー、うーん、ここだけの話なんですがね。」
結構口が軽そうだ。
「はい。」
「巫女様を、この国の王、デイドリーが殺害したという事なのです。」
「巫女を。」
ドミネア教で巫女というと、開祖とも言われる女性しか居ないはずである。
「はい。主教様もカンカンで、教会騎士団が出動、このような事態となったと聞いています。私は指示に従っただけなので、何とも言えないのですが。」
「……そうですか。」
どうやらこの男は教会騎士らしい。さっき大声で叫んでいたやつと同じ鎧を身に纏っている。恐らく、今この城は完全に教会騎士が乗っ取った形になっているようだ。指示に従っただけ、か。それで人を殺して何とも思わないのだろうか。
「ドミネア様のお怒りがこれで鎮まれば良いのですが。そういうわけで、今は城内の教会も閉じておりまして。申し訳ありませんが、街中の教会でお祈りを捧げて下さい。」
「わかり、ました。」
誰が祈るか。オレは心の中で吐き捨てた。別に口にしてもいいが……変に揉めるのも得策ではないと思った。とりあえず、革命ごっこが起きた理由は分かったのだから、当初の情報収集という目的は一部達成出来ただろう。一度街に戻ろう。
そう思って振り返ると、ランとストレアの更に後ろに、一人の女性が立っていた。
その姿には見覚えがあった。
黒髪のポニーテールを左に垂らし、半分が白、半分が黒の独特な服を着ている女性。今は黒い布地の方がよく見える。
顔は見た事が無かったが、服装と髪型が、記憶の何かに引っかかった。
「…………あ。」
オレは思い出した。この女はーーー
「巫女様!?」
兵士がオレの考えを遮った。
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