第7話 脳筋村とその敵をぶん殴れ(1)
ドンドコドンドコ太鼓が響く。祭壇の周りを人々が歩く。
「神よぉぉぉぉっ!!」
「我らをぉぉぉぉっ!!」
「導き給えぇぇぇぇっ!!」
その人々が声を荒げ、祭壇に居る者達に対して懇願する。
祭壇に居る者達はこの状況がいまいち理解出来ず、半ば惚けたような顔で辺りを見回していた。
問題はそれがオレ達だという事だ。
少し前に遡る。
オレ達はユウと別れてから、彼に教えてもらった村へと向かった。
歩いて小一時間といったところだろうか。木々生茂る森の中にひっそりとその入り口はあった。
「つぅぅぅぅぅかぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇたぁぁぁぁぁ。」
「歩いてただけだろ。オレはお前がバカみたいに拾った宝物も持ってるんだぞ。」
「お疲れ様ですぅ。あ、これはお姉様にだけですぅ。」
「このガキャ舐め腐りやがって……。」
そんな会話をしながら入り口の木製の門を潜ると、村人が話しかけてきた。
「やあ!!旅人かな!?」
……いきなりデカい声で挨拶をされてオレ達は同時にビクッと反応した。良く良く見ると、声を掛けてきたのは男なのだが、上半身裸で、腕を腰の前辺りで引き延ばし、自身の筋肉を見せつけるかのようなポーズを取っていた。
なんだこれ。
「い、いや、……あ、あ、はい。」
その迫力から、思わず一度否定してしまった。
「ようこそ!!歓迎するよ!!ただ君達はどうやら筋肉が足りないようだね!?STRは幾つかな!?見てあげよう!!この村はSTRが全ての村だからね!!」
そう言って彼は徐にオレ達のステータス画面を見始めた。
今なんて?STRが全ての村?
「………………………………………………んんんんんんんんんんんんんん!?」
彼がステータス画面を何度も何度も瞬きしながら見つめた。ポージングも忘れている。
「そ、そこの子は120!?」
ランを指して言った。
「この子は……き、きゅう!?999!?」
ストレア。そしてこの流れでいくと。
「そ、そそそそ、そして、この……いや!!いやいや!!このお方は!!いち、じゅう、ひゃく……よ、よんじゅう、四十二億九千四百九十六万七千二百九十五!?」
「あ、あははは。」
目を見開き、口をあんぐりと開け、腰を抜かして彼は言った。オレはもう笑うしか出来ない。
「みんなー!!神だ!!神様がいるぞ!!」
そう言って彼は村の中へと駆け出していった。
「……ねぇレイ。嫌な予感がするんだけど。」
「ストレア様。私もですぅ。」
「二人に同感。変な事になりそうな気がぷんぷんするぞ。」
そんな事を話していると、村の中から村人がわんさかやってきた。男性は上半身裸で、女性は胸を隠すものだけつけている。全員が筋肉ムキムキだ。
「神様だぁぁぁぁぁ!!」
「筋肉の神様が来てくれたぞぉぉぉぉぉ!!」
「待てや。誰が筋肉の」
言い終わる前にオレ達の体は村人の力で神輿に乗せられた。
「予言は本当だったんだぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「さぁ祭りだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「神を崇めよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「あの」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ちょっとぉ」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「聞いて」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
オレ達の声は掻き消され、そのまま神輿で村の広場へと運ばれていった。
そして、今の状況である。
祭壇には蛋白質の塊とドラゴンと牛の肉が捧げられている。
「状況がわからない……。」
ストレアが神扱いされて喜んで良いのか、筋肉の神様呼ばわりされて怒ればいいのか分からない、まさしく泣き笑いの顔で頭を抱えながらボヤいた。
「それは、オレもだよ。」
「よげんって何ですかぁ?」
「予言ってのは、昔の人が予め「未来ではこうなる!!」っていうのを予想して書き残す事、かな。」
「じゃあ私たちが此処に来るのを誰かが予想してたって事ですかぁ?」
「そうなるが、なぁ。」
誰が予想したのか。そして何を予想したのか。オレ達の到来だけではないだろう。この歓待の具合から言って。極めて嫌な予感がする。面倒な事に巻き込まれそうな、そんな予感が。
「ようこそぉぉぉぉぉッ!!」
一際デカい声が轟いた。若めの、見た感じ今までで一番筋肉がムキムキの女が現れた。
「私はぁッ!!」
胸の筋肉がピクピクと動いた。
「この村のぉッ!!」
背中を向けて、今度は背筋をピクピクと動かす。
「村長ですッッッッ!!」
腕を腰の前辺りで引き延ばした。
「あっ、はい……。」
「怖いですぅ。」
「よしよし。」
ランが幽霊騒動の時よりも怯え出した。
「で、アンタらなんなの。なんでアタシらをこんな祭り上げてるのよ。」
ストレアの問いに村長が答えた。
「それがですねッ!?貴方方の来訪がッ!!かつて残された予言書にぃッ!!書かれていたのですッ!!この村に危機が訪れる時、筋肉の神が降り立つ……。そうッ!!今こそ貴方方の力が必要なのですッ!!」
「……危機?」
「はいッ!!神である貴方方はご存知かと思いますがぁッ!!」
知らねえよ。心の中で毒付く。
「この村に今!!魔王の軍勢が!!攻めてきているのですッッッッ!!」
「…………なんで?」
「わかりませんッ!!魔界との境界線はもっと奥なのですがッ!!突如として押し寄せてきたのですッ!!どうかッ!!神よッ!!我々をお助け下さいィィィィッ!!」
オレ達は顔を見合わせた。
ドミネア教の総本山もある首都セルドラールに行きたいだけなのだが、なんでこんな騒動に巻き込まれるんだ。
「あ、う、うーん。」
「ダメですかぁッ!?」
悩むために顔を伏せると、村長がその視線に割り込んできた。村長の顔は自分の筋肉を強調するためか、妙にテカテカと輝いている。鬱蒼と茂りあまり日光が入り込まないこの森の中にあって、それでも全身が輝いている。
「うん、あの、その、詳しく話は聞くので、もう少しテンション落として、それで、離れてもらって良いか……?」
「えっ……。ダメですかぁッ!?このテンションッ!!私共の中ではSTRと同じくらいテンションが重要なのですがぁッ!!」
彼女は更にオレの顔に近づいた。もう後数センチで唇が触れ合うというくらいの勢いだ。
「やめろ……やめてください……。」
社会的な距離を取ってくれ……。そういう思いで言葉を振り絞ると、彼女は渋々交代した。
「わかりました……。神がそう仰るのであれば、自重させて頂きます。皆ぁッ!!聞いたかぁッ!!神々に従うのだぁッ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
村人達が声を上げた。
「……耳が痛いですぅ。」
「疲れるわね、この村。」
「ああ……。」
「それで、この件関わるの?」
「とりあえず話だけは聞こう。」
オレはふと村のトラップボックスの事を思い出していた。あれはデーモンが出てくるようにバグが利用されていたが、それはバグを利用した誰かが居る事を示している。もしかすると、それは魔王軍かもしれない。とすれば、この魔界との境界線と全く関係ないこの村が魔王軍に襲われているという事と、何らかの関係があるかもしれない。……ないかもしれない。
無かったとしても、この村が襲われているままにしておくのも気分が悪いしな。
「一応。」
「優しいですねぇ。流石お姉様ですぅ。」
「無駄な時間だと思うけどね。」
ストレアが吐き捨てた。
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