第6話 幽霊をぶん殴れ(3)
坑道の途中に魔物が居たが、どれも骨や腐った肉など、金にはなる(錬金術の素材になるのだ)が食事にはならないような、そんな微妙な奴らばかりだった。オレは一撃でそうした魔物を地に返し、素材を集めながら、ユウの声に従って先へと進んでいく。
「はぁぁぁぁぁぁ、辛気臭い場所ねぇ。それに食い物にもならないような骨と皮と腐った肉ばっかり。あーあ、来なきゃ良かった。」
ストレアがボヤいた。これだけが目的だったとしたら同意であるが、オレ達にはもう一つ目的がある。
「お前のクソみたいなバグさえなきゃ、早々に街に向かってるところだわ。」
「全くですぅ。反省すべきですぅ。」
ランがオレにしがみついたまま言った。
「本当に、この人があれなのですか、創造神なのですか?私から見るとただの少女にしか見えないのですが。」
ユウの声が虚空から聞こえて来た。
「ひぃっ。」
ランの掴む腕に掛かる力が強くなる。本当に怖いらしい。まぁ怖いか。
「うっさいわねぇ。そうよ。アタシこそがこの世界の真の創造主!!大いなる化身!!偉大なる存在よ!!それが何だってこんな、暴力女とドラゴン娘と一緒に旅しなきゃならないってのよ。」
「お前がぁ、バグをぉ、世界にぃ、振りまいてぇ、オレにもぉ、その被害をぉ、押し付けたからだよなぁ?」
オレが頬を引っ張りながら言うと、ストレアはヒィヒィ言いながら答えた。
「ふぁぃ、そのとおりでふぅ。」
「宜しい。」
パッと手を離す。
「オレだってお前に付き合ってるのは、こんなバグだらけの世界を何とかしたいと思ってるからだ。お前の為じゃない事だけは断っておくぞ。仮にお前をぶっ飛ばせばバグが消えるなら喜んでそうしてる。」
「私も焼き尽くしてますぅ。」
「ははは。仲が良いようで。」
「どこに目があるんだ。」
「冗談にしても面白くないですねぇ。」
「目が無いから苦労しているのですよ。いやしかし、口も目も無いのに私の口からは言葉が発せられて、目には貴方方の姿が写っている。これは如何な仕組みによるものなのでしょうか。」
「……???」
ランが困った顔で眉を顰めた。
「考えなくていいぞ。こういうのは創造主様の出番だからな。」
「アタシに振らないでよ。……でもそうねぇ。まぁどうしてもっていうなら教えてあげる。」
「是非お願いします。私そういうのが疑問で疑問で仕方ないのです。」
ユウが下手に出ると、ストレアは無い胸を張って仕方ないわねぇと仰々しく話し始めた。
「といっても、原因がまだ特定出来てないから推測も含まれてるけどね。とりあえず確定情報。アンタの今の状態は、魂だけの状態よ。魂ってのは、肉体を動かす電気信号の総称。通常は脳に留まって、体の動きを制御してるの。魂でも目や口の行為が出来ているのは、基本的な動作は魂だけでも実行出来るから。肉体があった方が楽だけど、魂だけでもある程度のことは出来るようになってるの。だからアンタもそうやってペラペラ喋れるってわけ。有り難く思いなさい。」
ユウ以上にストレアがペラペラと口を開く。
「肉体が壊れて、その肉体に宿る魂だけが独自行動してる状態。普通魂だけになると、別のものに転生するようになってるんだけど、何かのバグでここに魂が留まっちゃってるみたい。場所の紐付けが強固になっちゃってるのかしら。或いは、特定の死に方をすると転生が失敗するのかしら。それが分からない。ただ場所に起因してるみたいなのは確か。アタシのバグセンサーがビンビン反応してるわ。」
「そのバグセンサーがなぁ。」
「当てになるんでしょうかぁ。」
「何よアンタら。アタシの事疑ってるの?」
「うん。」「はい。」
「アンタらねぇ!!アタシは神よ!?アタシが言う事に間違いがあるわけないじゃあ無いのよ!!」
「お前の世界間違いだらけじゃねぇか。」
ストレアは口笛を吹いた。
「誤魔化せてないって。」
「しーらなーいしーらなーいアタシはたーだしーい。」
そう変な歌を口ずさみながら、ストレアはランタンをプランプランと揺らしながらスキップを踏んで先へ先へと進んでいった。
「全く。」
「まぁ責めすぎると不貞腐れますしぃ。適当に流してあげましょー。」
「ランは優しいなぁ。」
「流されても困るのですが。特に私の事については、何とかして欲しいものであります。私のような犠牲者を他にも出さないためにも。」
「まぁ、そこはちゃんとやらせるから。」
オレはユウを取り成しながら、先へ進んでいくストレアを追った。
道中、宝箱が幾つもあった。
「死んでからは私こういうものをよく見るようになりましたが、生前、鉱山を採掘していた頃は、斯様な物を見た覚えがございません。これは如何な仕組みによるものなのでしょうか。」
ストレアは目を金にして、ニヤケ面でそれを開けながらユウの疑問に答えた。
「当たり前よ。魔力が満ちることでダンジョンになるのと同じように、魔力といろんな物品が反応することで宝箱になるんだから。」
「何。宝箱って湧くものなのか。」
「そうよ。文字通りの意味で湧くものなの。だから突然、気付いたらそこにある、って事があるのよ。この世界、魔法のある世界では、そういう風になってるものなの。」
「へぇ。」
湧いたところを見たことないから知らなかった。
「他の世界だと違うんですかぁ?」
「ええ。『宝箱がそんな生物みたいに発生するわけがないだろ』と、その住人からは言われそうな世界もあるわ。ま、この世界ではそういう風に出来ている、と思っておきなさい。物理法則もクソもない仕組みにしてるから、あんまり考えすぎるとハゲるわよ。」
ストレアが宝箱の中身、短剣をこちらに投げながら言った。宝石が幾つも付いて、それがランタンの火を反射して暗い坑道の中でも輝いている。
「いやあいい物拾えるわねぇ。アンタのステータスのお陰ね。こういう時くらいしかLUKは役に立たないから。」
ランが頭の毛を心配そうに触った。オレは投げられた短剣を腕で弾いてから拾った上で、ランに大丈夫だぞ、と声を掛けておいた。
「え、今、貴方直にそれを受け止めましたよね。カキンって金属に当たるような音立ててましたけれど、貴方の腕は一体どういう事になっているんですか。」
ユウが今更な疑問を口にした。
「オレは頑丈なの。」
VITがカンストしてるとこうなるのだ。
「ははぁ。羨ましい。私この姿になってからステータス画面すら見られないでおりますよ。何にも触れられないのでまぁ関係ないと言えば関係はないのですが。」
どれどれ。
オレはユウのステータスを開いてみた。生きている人間なら開けるらしい。
LIFE: 0
STR: 0
INT: 0
DEX: 0
VIT: 0
AGI: 0
LUC: 0
SP: 0
「全部0だな。」
「あらぁ。」
「ええ、INTまで0になるのですか……。しかしそうなると私のこの知性はどこに由来するものなのでしょうか?」
「魂の状態だと全部0って表示されるだけ。最低限の知性とかはそのままよ。転生したり、ゾンビになったりするときに、その変化元のステータスを参照するから、その処理のために一時的に初期化されるの。INTは確かに知性だけど、別に記憶を司っているわけでもないし、ステータスが減ったから急に記憶が無くなるわけでもない。だからアンタは今もこうしてベラベラ喋れてるわけよ。ちなみに、逆に全部0になると魂だけって判定になったりもするんだけどね。ステータスの減少幅の最低値は1だから基本的にこの処理が動く事はないだろうけれど。」
「ベラベラ喋りますねぇ。」
自分の作った仕組みになると冗舌になるよな、こいつ。
しかしスタータスオール0、ねぇ。オレには……少しだけ関係があるか。オレのステータスはカンスト、つまり最大値のはずで、もしそれを1上回ると……。
「アンタは固定されてるから関係ないわよ。」
「どうだか。」
この世界にはバグが多い。もしかするとそういうバグもあるかもしれない。気をつけておこう。オレは心に留めておいた。
「ぎゃっ。」
広場のような開けた場所に出たと思うと、突然、ストレアの姿が消えた。その数秒後、ドン、ガラガラガラ、という音がする。よくよく見ると、ランタンに照らされた宝箱が、ストレアが居たはずの場所に現れていた。宝箱が湧く瞬間初めて見た。
「誰よこんなところに穴を開けたのは!!」
ランが狭いところで頭を屈めながら変身し、炎を吐くと、オレの目の前に穴があった。
「あれぇ、こんなところに穴は無かったと思うのですが。」
ユウが言った。嫌な予感がした。
「早く登ってこい。」
「痛た。何よ。命令すんじゃないわ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
地響きの音がストレアの言葉を遮る。
「……????」
「早く!!」
オレの叫びに答えるようにストレアが手を伸ばす。オレはそれを捕まえて引き上げる。瞬間、ランタンの光が何かを照らした。
「何だ、あれ。」
硬い皮膚と鋭い爪を持った何かが穴の中に居た。
「モグラの亜種……かしら。それにしても人と同じくらいにはデカいわね。」
「あれ、見覚えがあります。確か死ぬ前に……。」
「じゃあ、あれが死因か?」
「死因かどうかはともかく、バグの匂いがするわね。アイツが関わっているのは間違いないわ。」
「……バグの匂いはわかりませんけれどぉ、何かぁ、腐った匂いしませんかぁ?」
確かに。変な匂いがする。
そう思っていると、件のモグラが穴から顔を出した。
ランタンの光に照らされたその顔はーーー腐敗した肉に包まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます