第3話 地元ダンジョンの魔物をぶん殴れ(2)
リハージマ洞窟の入り口に着いた。山の中腹に開けた洞窟。その前に変な集団が居た。何やら洞窟にも入らず立ち往生している。
「どうなされました?」
初対面なのでお淑やかに聞いてみる。
「あ、ああ、……おお。」
先頭の男性が急に声をかけたせいか驚き吃り、そして、目が胸元に行った。……男というのはこういう生き物なのだろうか。
「ん?何か?」
首を傾げて「気付いているぞ」と暗に返す。まあ胸元が広い服を着ているオレもちょっと悪い部分があるのだろうが、図体がデカいせいで合う服が無いというのもある。動きやすいという理由もあって、スリットの入った服を着ているせいか、目線が今度は太腿の方にも行っている気がする。(ストレアは地球で言うチャイナドレスの胸元が空いた奴ね、と言っていた。意味は分からない)
尋ねたことで目線の行き先に気付いている事を理解したのか、ハッとなった男性がオレの顔を見た。
「あ、あのですね、その、この奥に変な魔物がいるんですよ。」
「変な魔物?」
「魔物なんて大体尽くが変じゃないの。」
ストレアが相槌を打った。これに関しては同意見である。
「それが、こんなところには居ないはずなんですよ。」
「種族は?」
「ドラゴン。」
「ドラゴン!?」
それは事である。ドラゴンとは所謂竜。爬虫類に近い風態をしているが、その凶暴さ・獰猛さは他の魔物の追随を許さない。鋭い爪と牙、吐き出すブレスの殺傷能力は凄まじく、一匹のドラゴンに文字通り引き裂かれ溶かされた冒険者の数は万を下らないとさえ言われる。その一匹を駆除するのに熟練の冒険者数十人が必要である。
幸いなのは、ドラゴンは基本的に生まれないという事である。ドラゴンが生まれるためには、相当の魔力が満ちていなければならない。そこで数年かけて熟成されて初めて卵が生まれる。その卵が孵って育ちきるまでにはまた数年を要する。卵の段階で駆除すれば被害は少なく済むのである。それでも卵が割れた瞬間に発生する大量の魔力で魔物へ変質する冒険者が後を絶たない等と聞くが。そして何より、その"相当の魔力"が満ちた環境といるのは、余程大型のダンジョンでなければ成立しない。魔界のダンジョンならまだしも、人間界に湧く事は殆ど無い、と聞いた事がある。
そんな魔物が何故こんなど田舎のダンジョンにいるのか。
「幸いというか不思議な事に、人を積極的に襲ったりはしないんですけど、入ってすぐの広場を占拠しちゃってるんです。」
「なるほど、それで先に進めなくて困っていると、そういうわけですね。」
「はい。ステータスを上げようにもドラゴンに殺されたら元も子もありませんし、皆困ってしまっているんです。近くのギルドに言っても全然話を聞いてくれませんし。」
イノナカ村のギルドか。あそこは昼間から酒盛りをするような堕落ギルドだ。まあそうなるだろう。
「なるほど。では私が少し様子を見て参ります。」
「いや、危ないですよ?」
「大丈夫。私のステータス見てください。」
「どれどれ…………………???????????」
男性とその連れの表情が固まった。見た事の無い数字を見た時の反応である。ああこういう思いが出来るのは幾分か楽しいなと思ってしまう。
「な、ななな、なななななな!?」
「ですからご安心を。片付けて参りますわ。それでは。」
そう言い残してオレは、ストレアを引き抜いて、彼女の足を引き摺ったまま洞窟の中へと入っていった。
「あんなに体裁取り繕う必要あったの?」
「一応だよ。オレみたいな男勝りの性格より、お淑やかな方が好まれる傾向にあるからな。」
そういうのが嫌でこの性格になったというのもあるのだが、一旦それは置いておく。
「村の中なら素でもいいけど、村の外に出たら一応は、さ。」
「めんどくさいわねえ。そんな素を隠したところでどーせアンタみたいなのはどこかでボロを出すに決まってるんだから、最初っから割り切った方がいいわよ。」
「うるせえ。」
だが言われた事を否定出来るかというと否であった。いつかはボロが出るというのは確かに有り得る、いや、まあまず起きるであろう事であった。
「うーん、次からは素で行くか。」
面倒になった。
「そうしなさい。アンタの素なんてこんなもんなんだから、下手に取り繕ってもいい事ないわよ。」
「まぁ、な。だがお前に言われるのも癪だな。」
「なんでよ。アタシは理想的で完璧な神じゃない。何が文句あるっていうのよ。」
「そういうところだよ。」
と、無駄な会話をしながらダンジョンの通路を歩いていると、やがて開けた場所が見えた。
その広間の中央に、巨大な赤い鱗の蜥蜴に似た、しかし翼を生やしている生物、すなわちドラゴンが鎮座していた。
「んんん?ちょっと、小さい、か?」
人間よりは遥かにデカい。ダンジョンは3mはあろうかという高さを有していたが、頭がそれでは足りず屈んでいる。翼に至っては広げれば全長10mはあるのでは無いだろうか。だが確か、ドラゴンの平均的な大きさは、頭から尻尾までで20mはあったと思う。比較的小さめの相手に見える。
だがそれでも、このダンジョンで生まれるには不釣り合いだった。というか狭いという時点で何かおかしい。他の魔物と違って、ドラゴンは卵生だ。こんな不釣り合いなサイズに成長する前に、とっとと外に出ていてもおかしく無い。まるで生まれた時からこのサイズのようだ。
「多分アイツが居るのがアタシの検知したバグよ。『こんなところにいるはずのない魔物が湧いている』ってバグね。ある程度地域によって湧く魔物は決まってるの。こんなど田舎の平和な地域にはドラゴンが湧くはずがない。というか生まれるはずもない。多分バグで突然ここに発生したんでしょうね。孵化すらせず直接あの姿で生まれたのよ。他の魔物みたいに。」
「冒険者泣かせのバグだな。」
「ええ。とっとと処理して、称えてもらうとしましょ。」
「お前はなんでそう金とか名誉に弱いかね。」
「好きだからよ。」
そう言って彼女はデバグライザーを操作した。するとドラゴンの横に別のドラゴンが出現した。黒い鱗に身を包んだ、元々居た赤いドラゴンに勝るとも劣らないサイズである。
「増やしてどうすんだよ!!」
「ここのPOPの仕組みにバグがあったから仕方ないでしょ。両方退治なさい。」
「順番に処理するとか手はあったろうが、ったく。体を動かすのがオレだからって好き放題しやがって……。」
などと会話をしていると、突然元々いたドラゴンが現れた方のバグのドラゴンに飛びかかった。
「ギャアアアアス!!」
「シギェァァァァァ!!」
ドラゴン同士の爪と爪の切り合い、ブレスの応酬が始まった。たちまち洞窟内部の温度が急上昇していく。更にドラゴン同士の格闘でダンジョンの床と天井がゴゴゴゴゴと音を立て始めた。なんかヤバい気がする。
「バグと戦ってる?変ねえ。両方ともレイの方に向かってくると思ってたのに。」
「てめぇさ……。まあいい。とにかくバグの方から片付けよう。」
オレは駆け出し、黒いドラゴンへと立ち向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます