第3話 地元ダンジョンの魔物をぶん殴れ(1)
金が無い。
それは恐らく如何なる世界においても死を意味する。
それはこの世界も例外では無い。
「ひもじい。」
「神が腹を空かすな。……とはいえ、腹減ったなあ。」
「だからあん時ギルドに入っておけば良かったのよ。それかデーモンの素材拾っておくとかさあ。」
「あの流れでギルドにホイホイ入るとか、その、かっこ悪いだろ。なんかさ。」
「格好とかそういう問題じゃないでしょ。格好つけるだけで飯は食えないのよ。大切なのは金!!マネー!!富!!そういうものをフイにしたのよアンタは。」
「全部同じだろ。」
「いいのよ。それくらい重要なのよ。」
「まぁ、ねえ。」
否定は出来ない。金とは生活の基盤であり、生活必需品を得るために必要な、謂わば大前提である。
ジョセフとオレの生活は極めて貧乏じみていた。ジョセフの葬儀だけで金がスッカラピンになるくらいには。それでも見栄を張ってギルドや自分を呼ぶ声を背に村を駆け足で出てきたわけだが、そうなると問題なのは食料、そしてそれを買うためのお金である。
そんなわけで丸一日川の水だけを飲んで過ごしてきた。口を開けば吐き出されるストレアの不平不満はいよいよピークに達しようとしていた。
「あーもう!!うまい肉!!魚!!野菜!!ご飯!!ご飯が食べたい!!アタシは神なのよ!?普通に考えたら民の方から差し入れというか供物が来て当然でしょうに!!なーーーーんで金払わないといけないのよ!!なーーーーーーーーーーーんで金が無いのよ!!かぁぁぁぁぁっ!!やってらんないわ!!もっと敬いなさいよアタシをぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「騒ぐと腹が減るぞ。……仕方ないだろ。ストレアなんて神知らないんだから。てーか、今まではどうしてたんだよ。」
「今ぶっ壊れてる装置があれば指パッチンひとつで生成できたのよ。そもそもあっちの世界にいれば腹は減らないんだけどね。食べてたのは謂わば趣味。おいしそーなもの見たら腹が減っていようといまいと食べたくなるでしょ?そういうことよ。あーあ、顕現しなきゃよかった。作った世界に顕現すると腹が減るのよ。もう帰ろうかしら。」
「おいおい、オレに全部押し付けてさよならは無いだろ。それにバグは取れないままだし、帰ってもあれだろ。モニターとやらも壊れてるし何も出来ないだろ。」
「はっはー、アンタが全部終わらせてくれればそれでいいのよ。どーせギルドにも入らないアンタに出来ることなんてバグ取りくらいでしょ。高みの見物してるから寝てる間になんとかしてちょゔだい゛っ゛」
オレの拳がストレアの眼前で静止した。
「おっと聞こえなかった。もう一度どうぞ。」
「……なーんでーもなーいでーす。」
ストレアは不服そうな顔でそう言った。
隣の街には後一日歩かねばならない。だが当然、着いたところでやはり金銭面の問題が生じる。
「あー、もう仕方ない。狩りでもするか。」
狩りといっても野生生物では無い。狩りといえば専ら魔物である。
この世界に蔓延する魔力、それにより通常の生態系から逸脱した変化を遂げた生物、それが魔物である。と聞いた事がある。まあ要するに、爪やら目やら鱗やらが尖っていたりして、積極的に人間を狩ろうとしたら大概魔物である。人間はどんなステータスであれ多かれ少なかれ魔力を持っている。その魔力が魔物を引き寄せるのだと言う。そして魔物は、莫大な魔力を持った者に弱く、服従する。その対象が魔王であり、悪魔である。簡単に言ってしまえば、魔物は人類の敵というわけである。
とはいえ魔物にも強弱がある。こうした片田舎に住んでいる魔物は大概が狩人の弓でも倒せるくらいの強さだ。なので大体の場合は食料として利用される。
その辺の野生の魔物でも倒して煮込めばとりあえず腹の足しにはなるし、素材になる部位を残せば金にもなる。経済を回す材料としても活躍してくれるのだ。
「じゃあダンジョン行きましょう。この辺にあるでしょ。」
ダンジョンというのは簡単にいえば洞窟や古びた屋敷のような建物・地形が魔力を帯びて魔物を生み出すようになった場所である。そう、魔物とは自然に生まれるものではなく、既存生物が変化した上で、ダンジョンで生成されるのだ。そういう意味で明確に通常の生態系とは異なるのが魔物である。
ダンジョンには当然魔物が住み着いている。それを狙って冒険者が挑んだりするが、内部は魔力のせいで空間が複雑に捻じ曲がっており、天然の迷路となっている。そして魔物に殺されると、その冒険者は死霊となって魔物の仲間入りを果たすか、或いは魔物の胃の中で消化されて、宝石などに変化するか。何にせよ不名誉な称号を得ることになるのは間違いない。
そんなダンジョンは全国津々浦々、様々な場所に点在している。この近くにも鉱山がダンジョンと化したものがある。低レベルの魔物が湧くので初心者向けとされている。
だがそんな事をよくこの女が、人間に興味なんて殆どなさそうな神たるストレアがよく知っていたなと思う。そういう目で彼女を見ていると、彼女は言った。
「何よその目は。まるで「なんでこいつがそんな事を知ってるんだ」みたいな目ね。」
「神は思考も読めるのか。当たりだよ。」
「アンタの目が物言いすぎなのよ。まあ下界の事、しかもアタシを崇めない奴らの事なんて知ったこっちゃないといえばそうなんだけど。」
この言い草である。
「バグがある気がするのよ。近くからそんな匂いがするわ。」
「ああ、それでか。」
「そ。だから行きましょう。バグを潰せるかもしれない、食事も取れるかもしれない、お金になるかもしれない。一石三鳥と言う奴ね。」
「何それ。」
「教養の無い奴ね。……ああ、この世界ではそういう言葉が無いのか。はぁ全く面倒ねえ。世界によって存在することわざとか格言が無いってのは。ある程度の知能レベルがあればそういう言葉が出来てもいいと思うのに、なんでこの世界の人間ってば知性も知能も技術水準も軒並み低いのかしらおまけに倫理観までぐちゃぐちゃと来たはあ全く誰に似たんだか」
すごい勢いでよく分からないが恐らく罵言と思われる言葉を吐き出している。
「お前だよ。」
オレは眼前の暴言吐き出し機の両頬を片手で摘みながら言った。
「しょうでしたにぇ(そうでしたね)。」
奴はタコのような口で答えた。
まあダンジョンに行くというのは賛成だ。狩りも出来るし。宝物もあるかもしれない。武器は無いが、こういう時こそステータスの暴力の出番である。オレ達は近くのダンジョン、通称「リハージマ洞窟」へと向かう事にした。
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