第22話

あらためて確認するが、わが社は健康ドリンクがメインの会社だ。前身が製薬会社だったが、先々代の社長から方針を変えて今に至る。

他のドリンクメーカーとの差別化を図るため、健康ドリンクに特化しているのだ。


シーズンごとの新商品を開発して、それぞれスマッシュヒットの売れ行きとなった。

もちろん当たり前の様に妨害がある、と思ったのだが意外にも宣伝も営業も協力的であったが為に、今回の結果となった。


おかしい


何かあるなと感じたが、注意をうながすメールが来なかったので、そのままにしておいた。

その答えは年度末に解った。社長が会長になり、ヤツが社長となる人事があったのだ。


時期尚早ではないかという意見もあったが、それを抑えたのが今期の売り上げのせいだった。

俺が任命された新商品開発プロジェクトの総責任者が、いつの間にかヤツの名前になっていたのだ。

どうりで隠れて任命した訳だよ。


研究者畑出身の者に、からくりを教えてもらった。

書類の責任者の上に、指導という名義で名前を書かれると、そいつの手柄になるそうだ。

どの世界にも抜け穴はあるんだな。


これで俺はお払い箱になるのかと思いきや、そのままにされた。抗議に行かなかったのが幸いしたらしい、便利な手駒と認められたようだ。


それから1年が過ぎようとしていた。


会長は、今まで仕事一筋だった人生の反動か、遊び呆けているそうだ。

会長の娘でヤツの妻は、何やら通販の会社を立ち上げたらしい。毎日のようにセミナーを開いている。


ヤツは新社長として君臨して、真面目に働いている。もともと有能なヤツだったからな。

というか、どうも夫婦仲はよろしくないらしい。それで仕事に打ち込んでいるもかもしれない。


俺は相変わらず冷遇されている。

窓際お情け役員と影で言われているが、そんな境遇もなんとか耐えれた。


そんなある日


「おい、社長が御呼びだ、すぐに来い」


取り巻き役員が、部屋に飛び込んできた。どうやらその時が来たようだ。

俺はイスから立ち上がり、後について社長室へと向かった。


そこには、ヤツをはじめ数人の役員と見知らぬ男達がいた。

俺の顔を見るなり、ヤツは吐き捨てるように言う。


「やってくれたな」


「何の事ですか」


「とぽけるな、みんなお前が仕組んだことだろうが」


今にも襲いかかろうとするヤツを抑えて、見知らぬ男達が俺に話しかける。


「どうも、厚生労働省の者です。さっそくですが、この商品の開発責任者はあなたですか」


「いいえ、その商品は違います」


「しかし、こちらの方々はあなただと言うのですが」


「たしかに現場で指示したのはそうですが、それは指導者である社長の指示です。言われた通りにやっただけです」


「嘘をつけっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る