第21話

「名残惜しいですけど、これでしばらくお別れですね」


「死神に名残惜しいと言われると、むずむずするな。それに奇妙なことに、俺もそう思っている」


「短い付き合いでしたね」


「長い付き合いだろ」


「死神は長生きですから尺度がちがうんですよ」


お互いに微笑んだ。こいつとそんな事をしたのは初めてだった。


それではお元気でという言葉を残し、死神は出ていった。

それと同時にメールが届き、最後の未来予想が始まる。その方法は今までと違い、予想に反して過酷で壮絶なものであった。


 まず、義父に早期退職を迫った。吃驚していたが、この先の計画を話すと納得してくれて、残務処理と引き継ぎをして、社長に退職届を出し、受理された。


次に、反次期社長派のメンバーを役員会議でひとり、またひとりと退任もしくは降格や出向させ、減らしていく。


俺の行動に、社内は色めき立った。だが、すぐにその意味が伝わった。俺は次期社長派になったのだ。つまりヤツの軍門に降ったのである。


俺がヤツに頭を下げに行った時、ヤツは当然疑った。


「なんのつもりだ?」


「何か誤解があるようですが、こちらはあくまでも身を守るための行為です。あなたと争う気持ちはありません」


「信じられんな。私にあれだけの事をした君がか」


「以前はともかく今は同じ会社の者です。社内でもめて、他社に負ける隙を与えたくないのです」


「ふうん」


信じられないというか、信じられる訳無いだろうという返事だった。


そこでヤツが俺に課題をだした、反次期社長派を潰したら信じてやると。

そしてほぼすべての人を排除をして、とりあえずの信頼を得たのだった。


日和見派の連中も素直に軍門に降り、社長とヤツの独裁体制が出来上がった。


社長はともかく、ヤツは俺を憎んでいるし疎んでいる。派閥としては末席に座らせて、何かと冷たい仕打ちをされた。


「お前はもう少しホネがあると思ったがな、失望したよ」


こんなヤツに負けたのかという気持ちが、ひしひしと伝わってくる。その鬱憤をぶつけ始めた。

無理難題の仕事ばかり、俺に言ってくるようになったのだ。

他の役員達なら、必ず失敗するか断る内容なのだが、それらを全て受け(メールの指示で)こなしていった。


「ふん、このくらい誰でも出来るからな。大した結果ではないから評価はしないぞ」


どれだけ成功しても評価されない。それに取り巻き達が点数稼ぎのために、足を引っ張ったり露骨な嫌がらせをしてくる。ストレスが溜まる日々だ。

こんな生活がイヤだから出世したくなかったし、人づきあいもあまりしたくなかったのにな。


 ある日、ヤツに呼び出された。


「わが社の主力商品はお前の開発したロングセラー商品だが、それ以外となるとパッとしないモノばかりだ。新しい商品を開発しろ。お前が陣頭指揮をとってな」


「わかりました」


いつもなら役員会で、皆の前でつるし上げる様に命令するのに、おかしいなと思いながらも、開発チームのところに行き、命令の内容を告げた。


今の俺に不快感を持つ者もいて、それなりにギクシャクした関係になってしまったが、立場は違えど同じ勤め人。粛々と新商品開発にはげんだ。

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