第20話 最後のメール

 新社長、元新社長、元新社長役員、アイツと呼び名を代えていたが、ついに次期社長という呼び名となった。

次期社長といっても、まだ正式任命されていない。しかし社内の誰もがそう思っていた。


「社員のうわさ話に影響されたのが、けっこういるようだな。次期社長派と反次期社長派、それと日和見派の3つに分かれた感じだ」


自分的には日和見派なのだが、向こうが敵視してくれたおかげで反次期社長派の、しかも代表扱いとなってしまっている。

おかげでその気がないのに、人が集まってきた。

それをみて、ますます次期社長は敵視する。もうやるしか、戦うしかない生き残る道はなかった。


 自分の役員室で独りで居ると、ノックがした。

どうぞと応えると、今いちばん会いたくて2度と会いたくない古き友人が入ってきた。


「ひさしぶりだな。以前みたいに外連味は出さないのか」


「プライベートでなく、会社内ですからね。ちゃんとサラリーマンの格好をしてきましたよ。ずいぶんお困りのようですね」


「お前に見栄を張ってもしょうがないからな、本音を話そう。アイツを葬り去りたい、しかし実力は向こうの方がはるかに上だ、勝ち目が無い。となると、また未来予想の力を借りるしか無い。だが長生きしたいんだ。妻と娘とできる限りの一緒に生きていきたい、財布扱いでもいいから一緒に居たいんだ」

「グレーゾーンの寿命を使うしかない。とはいえだ、それがまだ残っているのかが不安材料だ。俺がヤツをほうむるだけの寿命は残っているのかが知りたい」


「かなり追い詰められてますね、モノの言い方が物騒になっていますよ」


「なんとでも言え。妻も大事だが、日に日に成長していく娘の可愛さと大事さに執着して何が悪い。せめてあの娘が、安心できる相手に嫁ぐまでは、死にたくないんだ」


「つまり前回同様に、なるだけ寿命を値切って次期社長を追い出せる未来に、という事ですね」


「……そうだ」


わかりましたと言うと、死神はスーツの内ポケットからスマホを取り出し、連絡をとる。


「はあ、はあ、いやそこを何とかですね……、いやそれは無理です、しかしですね……」


交渉が難航しているようだ。やはり寿命が少ないんだろうか。いやいや落ち着け俺。死神は出会った時言ったじゃないか、俺の寿命は平均寿命くらいあるって。少ないのはグレーゾーンの分だけだ。


「少々お待ちを。あのですね確認ですが、次期社長を葬りさればいいんですね。その為なら手段は何でもいいんですか」


「目的を履き違えるなよ。俺と家族の安寧の為に、今の地位を守りたいが目的だ。その為に次期社長の妨害というか攻撃を無くしたいだけだ。ようは、次期社長が俺に敵意を持たなければ、それでいいんだ」


それを死神が伝えると、相手は寿命ギリギリでやれると返事があった。

やはりもう無かったか。だが仕方がない、今の安寧を守るためだ、俺はオーケーをした。


「グレーゾーンを使いきるとなると、お別れしたら今度会うのは、あなたが死を迎える時になりますね」


「その時はお前が来てくれるのか」


「もちろんです」

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