第19話
「どういう事なんです、いったい何がどうしたんです」
役員会で紹介された後、オレは義父に詰めよった。
「私にも分からん。いったいどうして……」
会議室から出て、廊下で話しながら歩いていると、背後から声をかけられた。元新社長だった。
「直接話すのは初めてですね。貴方がウチの元社員ですか」
はっきりと敵意がある言い方で、どうやら恨まれているのが判った。黙っていると向こうは構うことなく言葉を続ける。
「私が何故役員として入社したか、知りたがってましたね。簡単ですよ、私は社長の娘の婚約者なんです」
なんだってぇ!、俺は義父と顔を見合わせた。
「誤解の無いように言っておきますが、偶然なんですよ。彼女と、お互いの立場を知らずに出会って、付き合って、結婚の約束をしてから知ったんです」
「社長がよく許したな」
「生まれてくる予定の孫に、嫌われたくないんでしょう」
「お前……」
「それも偶然ですよ。ただここの役員になり貴方に会って、確信しました。どうやら私の運命の相手とやらは貴方だと」
「社長がゴリ押しで役員にした裏は、そういうことか」
「図に乗るな。私には会社を経営していた実績がある。実力で今の地位になるのは当然だ。そしてだ」
元新社長は、俺を敵意剥き出しで睨む。
「私は貴方には負けない、いや勝ってみせる。今度こそな」
それだけ言うと、背を向けて去っていった。
呆然としていたが、ようやく自分の立場が理解できた。どうやら逆恨みされているらしい。
他社のヤツなら遠慮なく戦えるのだが、俺の生きている目的は安寧の生活だ。社内のゴタゴタは望むところじゃない。
このまま昼行灯役員の人生を送る予定だったのに、なんでアイツは関わってくるんだ。
何もしなかったら、アイツは間違いなくやり玉にあげるだろう。
降格処分ならまだしも、アイツの顔を見たら、それだけですまないと実感した。絶対クビに追い込む。そう確信した。
「どうするんだ」
義父の役員室で、互いに頭を抱えた。
「お義父さんはいいですよ、もうすぐ定年ですから。俺はこれからずっと、関わらなくちゃいけないんですよ」
「もうすぐったって、まだ数年ある。君の関係者として真っ先に攻撃される可能性があるんだぞ」
社長の娘は継ぐ気がないから、役員の誰かがなると漠然と考えていた。
しかしここに、会社経営経験者の娘婿が入ってきたのだ。下の連中はほぼ全員、次の社長はあの人だと思うだろう。
いつになるか分からないが、そうなれば間違いなく、俺は冷や飯喰らいの生活を余儀無くされる。
安寧の生活が無くなるのだ、それだけは避けたい。
「とりあえず相手の出方を見ましょう。ひょっとしたら大したことが出来ないかもしれませんから」
希望的観測だったが、それは当然のように裏切られた。
ヤツはあっという間に大半の役員を取り込んで、自分の派閥を作ってしまったのだ。
もちろん、俺も義父も入っていない。まずい立場が明確化されてきた、どうするんだ俺。
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