第18話 今度は前フリ無しかよ

 5年の月日が経った。

その間、未来予想は使わなかったし、死神にも会わなかった。

この未来予想をはじめる時からの戒めとして、頼っても頼りきらないと心に誓っていた。

何故って?それがメールの送り主の目的だと警戒していたからさ。


依存して無思考人間になって、罠に嵌められる。そうならない為にも、指示のあった事はその後、知識と経験を身に付けて自分の物にした。


新商品の開発は、新たな開発部メンバーに任せてノータッチになる。俺が(というかメールの指示だが)アイデアを出した商品等は、当社の看板商品としてロングセラーとなっている。


これがあるかぎり、俺の実績は揺るがない。役員として安泰だ。

あとはのんびりと、定年までミスをおかさない様にするだけだった。


「お互いに人生変わったな。君のお陰だ」


「お義父さんに会わなければ、こうならなかったかも知れませんね」


休日の夜、義父の家で差し向かいで飲んでいた。


義母も妻も、娘と共に買い物に出かけている。今度、高校生になるので、そのお祝いだそうだ。

ついて行こうかと言ったら、財布だけでいいと言われた。まったく父親をなんだと思っているんだ、と憤慨していたら、義父に男親なんてそんなもんだよと、慰められているわけだ。


「最近は大人しくなったな。もう暴れないのかい」


「暴れるなんてそんな。あれは身を守る為に仕方なくです、本来の俺は昼行灯なんです」


「バカ言ってんじゃない、まだまだ若いんだからひと花もふた花も咲かせなよ」


自分はもうすぐ定年で退くくせに、と内心思いながら注いでもらったビールを飲む。


もう懲り懲りだ。本来なら出世することなく、まあ課長くらいまでになれたらいいな、くらいは思っていたが、とにかく目立たずトラブルに巻き込まれず平凡な人生を送る予定だったのに。


それが新社長の大幅リストラでクビになってしまい、途方に暮れていたところで、死神に出会い運命が変わった。

今の会社に再就職して、やれやれと思ったら、前の会社のおかげで倒産の危機となり、未来予想を使い危機を逃れる。

そしたら今度は、前の会社はというか新社長は、搦め手で今の会社を潰そうとした。

俺はまた未来予想を使い、相手を潰して今の安寧を手に入れたのだ。


こう思い返してみると、新社長のせいでトラブルにあってばかりだな。だがまあもう無いだろう。

ヤツの会社はもう無いし、2度と会うことも関わることも無いだろうな。


「あとは娘の財布として生きていくだけですよ」


「私もそうだったよ」


乾杯しながら義父と笑いあった。


しかし、それで終わらなかった。まさかという事態が起きた。件の元新社長が入社してきたのだ、しかも役員として。


社内は大騒ぎになった。


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