第17話

次のメールの指示は、資産運用の部門を作れというものだった。なるほど、ようやく全体図が見えてきた。


お義父さんのチカラを借りて、役員会議で意見書を通してもらい、資産運用課が出来て、俺はそこの責任者となる。


予想どおり、メールの指示は株の売買指示が入ってくる。

儲けが少ない時もあったが、決して損だけはしなかったので、社内での俺の存在感は増した。


「そりゃあ、新商品を開発して売上げを上げて、社内のガンを追い出して、資産運用で儲けさせてますからね。時期役員は間違いないでしょう」


「君が独り身だったら娘と結婚させたのにな、なんて社長に言われたよ」


「ほう、それでなんと返事を」


「私には勿体なさ過ぎますって言っといたよ。そんな事、お義父さんの前で言うんだから困ったよ」


「ははあ、それで奥さんにご機嫌取りをした訳ですか」


寝室で満足そうに寝息をたててる妻は、俺達に気づいてない。これが結界のチカラか。今までもずっと張っていたのかな。


「復讐はもうすぐですか」


「おそらくな。売上げ争いで無理をしたらしく、赤字だったのに、粉飾決算なんかしたもんで株価がどんどん下がっていたからな。もちろんウチが買い続けている。心配なのは、俺がクビにする前に、ヤツラが辞めないかという事かな」


自分でも少しイヤらしいという感じでにやついた。

そしてついに復讐を成し遂げた。


ライバル社を吸収合併したのだ。そしてこの合併劇は、俺の指示のもとでおこなわれた。

このおかげで、俺は最年少で役員になったのだった。


メールの指示をそのままやったのだが、実行したのは俺だから、それなりに手応えはあり満足していた。


そして会社を目の敵にしていた、ライバル社社長に役員のポストを用意したが、彼は蹴って退社した。

さらに俺を裏切った元上司には、直接引導を渡した。


「すまなかった、裏切るつもりはなかったんだ。あの頃は金に困っていて、戻るのならそれなりのポストと仕度金をもらえるというから……」


「ふん、それなら他の研究員を連れていくことはなかったろうが」


「それも条件だったんだよ。なあ、助けてくれよ、私の実力は知っているだろう、役に立つからさ」


お前はもう役に立たない。なぜなら商品力も商売戦略でも負けたから吸収合併となったのだから。


「実力があるというのなら、再就職は容易だろ。依願退職にしてやるから、頑張りな」


絶望した顔の元上司を見て、すっとした。これで復讐は終了だ。


「望みが叶いましたね。おめでとうございます」


「長いことかかったが、寿命を値切ったから仕方無いか」


「ちょうど10年ですね」


「10年か、あっという間だったな。あいつにクビを言い渡したとき、ああ俺はこっち側に来たんだなと感慨深かったよ」


結界の外で、妻と一緒に寝息を立てている娘を見ながら、そう思った。


今後は娘のためにも長生きしなければ。もうこれでメールとはお別れしようと決意した。

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