第15話 手間ひまかけても復讐する

 翌朝からメールが届き、朝、昼、夕と常に3回届くようになった。

 1日30分か。2日で1時間、48日で1日分の寿命が支払われる。いちおうお得なのかな。

 まあお得なんだろう。そう思った訳は、1回のメールに少なくとも3つの指示が記されているからだ。


 数が多くなったが、どれも無理難題ではない。ひとつづつ、こなしていくだけだが、正直まだ効果がでているかどうかがわからない。

残った研究員とのコミュニケーション指示が殆どなのだ、これがどう繋がるのだろうか。


もともと元上司はコミュニケーション能力が無く、外様上司らしく孤立しがちだったのを、俺が研究員との橋渡しをしていたので、俺自身はそれほど評判は悪くなかった。


彼らの愚痴や不満を聞きながら、僕には、私には、こんなアイデアがありますとも聞いていた。


そして待ちに待った、前向きな指示がやってくる。


[研究員AとCに、この化学式を思いついたと伝えよ]


門前の小僧習わぬ化学をかじるではないが、それなりに俺にも化学式が解るようになっている。

しかしそれでも、これは複雑でよく解らなかった。


翌日、指示された2人を呼んで、メールに添付された化学式をプリントして渡した。


「いきおいで書いてしまったので、合ってるかどうか分からないんだけど、これって式として成り立っているかな」


2人は最初やれやれという感じで見ていたが、そのうち食い入るように読み始め、検証してみましょうという流れになった。


「主任、これ合ってますよ。というかすごいアイデアじゃないですか。いつの間にこんな事が出来るようになったんです」


「君らのお陰だよ。俺の手柄じゃない」


本当に自分のチカラじゃないから、謙遜するしかなかった。

その化学式から開発された新商品はタブレットタイプの健康食品だった。


今までドリンクのみでやってきたわが社としては、賛否両論の意見、どちらかというと否定意見があったのだが、会議にて俺が熱弁をふるい、役員にお試しで1週間服用を続けてもらってオーケーが出たのだった。


「人前で説得なんて、生まれてはじめてだよ」


「よくやりましたね」


「メールで指示があったからな。こうやって段々ハードルが上がってきそうな気がする」


旧来の友と話すように、死神と対座している。もっとも向こうは宙に浮いているが。


 既存の商品である健康ドリンクに、新商品のタブレットを試供品として付けて販売。手応えがあったので、量産して別商品として売り出した。


最初は伸び悩んだが、じわじわと伸び始める。そしてそれに合わせて、ライバル社の売上げが少し下がった。俺はにやりとした。


ちょっとだけお返しができたな。以前、ライバル社の商品と合わせて飲むと相乗効果があるドリンクを開発したが、今回タブレットと合わせて飲むと相乗効果があるという自社ドリンクとは、それなのである。

しかもこっちの方が効果が高いし、いちいちドリンクを2つ持たなくてもいい利便性があるからな。


この手柄により、俺は正式に開発課の課長となった。

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