第14話 また前フリが……

会社の危機を救ったのに、昇進して主任程度かよと思うかもしれないが、俺はただ人を紹介しただけである。


現実に解る事をやったのは元研究員であるから、彼は課長として迎えられている。ただまあ、彼は俺より人見知りだったので、折衝役としての人事移動だ。


経理部長とは疎遠になった、と思うだろうが逆により親密になった。


というのも、娘とつき合っていたのが知られたのと、出世したからの効果で、俺を応援する気になったらしい。

俺は俺で、上司としての人心掌握術を教えてほしかったので、部長に相談するからだ。


しばらく平穏な日々が続いたが、またもや問題が起きた。


元勤め先、いやもうライバル社と呼ぶべきか。そこがわが社をターゲットにして、攻勢に出たのだ。


収入が増えたのと彼女が公認になったので、俺はアパートから賃貸マンションに引っ越していた。

場所は変わっても、困った時にやることは変わらない。


スマホの前に座ると、俺は召喚する。


「出よ死神、我が呼びかけに応えよ」


するとスマホの画面から魔方陣が形成され、そこから煙りとともに死神が現れた。


「喚ばれて飛び出て、即参上ーーー!!」


あー、なんかもやもやする口上で出てきやがったーーー。


「ノリが良くなりましたねぇ、こちらも出方に凝った甲斐がありましたよ」


「雑談は不要だ、もう分かっているだろうが、また会社のピンチが来やがった」


俺は忌々しげに言う。思い出すだけでも腹立たしい理由だからだ。

例の元研究員で現上司のアイツが、ライバル社に引き抜かれたのだ。しかも有望株の研究員を連れてである。


 商品の優劣や売上げ勝負ならいざ知らず、こういう搦め手でやってきた事に、腹が立った。


彼女は慰めてくれたが、人心掌握をしていなかった事で、経理部長が自分のせいだと落ち込んでいるのと、社長に怒られたのとで、やりきれない気持ちでいっぱいだ。

どうしてもやり返さないと気が済まない。


「どうします? 望みの未来は描かれていますか」


「どうもこうもない、ライバル社を潰してやりたい。どうしたらいい」


怒り心頭の俺に、死神は珍しく不機嫌な顔になって魔方陣に戻ろうとした。


「おい、どこに行くんだ。話は終わってないぞ」


「変わりましたねぇ、昔のアナタなら慎重に慎重を重ねたのに、そんな自暴自棄になるなんて。それじゃ破滅なんてすぐにやってきますよ」


そう言われてハッとした。そうだ何を焦っているんだ俺は。アイツらが潰れても、俺が生き残ってなきゃ何にもならないじゃないか。


それに気がついた俺を見て、死神はにこりとした。


「少し時間をおきますか」


「いや、そうだな。まずは話し相手になってくれないか、依頼はその後にする」


「それでこそアナタです。ではまずお茶でも淹れましょうか」


ここに来たのは初めての筈なのに、長年住んでいるかのようにキッチンでお茶の用意をし始めた。


「なるほど、そんなことになってましたか」


コイツ、お茶淹れるの巧いな。


「美味しい物を口にすると、落ち着いて考えられるようになるんですよ」


はいはい、感情的になってスイマセンでした。たしかに俺らしくなかったな、あんな風になるなんて。


「それだけ人に関わるようになったんですよ。自分の事でも怒っているんでしょうけど、他の人の為にも怒っているんじゃないですか」


あー、そうかもな。部長の顔と彼女の顔が浮かんだ。


「さて、お前に諭されたのは癪だが、落ち着いたよ。より良い未来のルートを考えようか」


「さしあたっては」


「まずは会社を潰さないこと。それから生活の安全の確保、そしてリベンジだな。そしてそれには時間にとらわれない」


「いいですね。リベンジの方法は?」


「そうだな……、あっちの社長と課長をクビにしてやりたい」


「違う会社ですよ」


「なら同じ会社にしてやればいい」


「面白いですね、乗っ取りでもしますか」


「やれそうか」


「今の条件で交渉してみましょう。寿命の上限はどうします」


「なるだけ値切ってくれ」


それでこそアナタですと言いながら、死神は懐から巻き紙を取り出し、つづいて筆と墨と硯を出し、達筆な感じでミミズがのたくったような字らしきモノを書くと、それをきれいにたたみ、懐にしまう。


指をパチンと鳴らすと、忍者姿に早変わりして、分身すると、片方は魔方陣の中に飛び込んだのであった。


と思ったらすぐ戻ってきて、残っていた本体?に渡すと、煙となって消えていった。


「オーケーです。明日からメールが来るそうです」


手間ひまかけた割りに、返事はあっさりだなオイ。


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