第12話

「お久しぶりですね、忘れられたかと思ってましたよ」


「忘れちゃいない、会いたくなかっただけだよ」


「遠慮無しですねぇ」


心を読まれるんだから、嘘言ったってしょうがないだろうが。それに寿命を削れない立場からすると、俺に手出しできないだろう。


「なるほど、たしかにそうですね」


「話を進めるぞ。知っていると思うが会社が今危ない。俺はもうリストラされたくない。だから会社を持ち直す未来に行きたい」


「それで」


「大分以前にも言ったが、猿の壺に手を突っ込みたくない。極力不確定要素を潰したいから知恵を貸してくれ」


「もちろんですよ。グレーゾーン以外は渡す気無いし、不慮の事故で終わらせたくないですから」


よし、思った通り利害は一致してたな。さて次は俺の目標を定めなくては。


リストラされなくても会社が倒産したらダメだし、

会社が残っても俺がリストラされたら意味が無い。

会社が倒産せずに俺が残っても、赤字ばかりで無給だったりブラック企業化しても困る。


となると、業績悪化する直前の状態を維持できる会社で働き続けられる、これがベストか。


「どう思う」


死神に確認してみると、悪くないと思いますと返事され、その後こう続けた。


「働く内容は指定しなくていいんですか」


その点についてはもちろん考えたが、別に俺は経理しか出来ない訳ではない。

多少の余裕というかゆとりを持たさないと、死神のいうクライアントもやりづらいだろう。

それを盾に寿命を多めに寄越せと言いかねんからな。


「意外と交渉のツボわかってますね。わかりました、その条件で話してみましょう」


死神はそう言うと、スーツの内ポケットから電話ボックスを取り出して、その中に入り電話をかける。


俺は部屋の隅に避難して、床が抜けないだろうかと心配しながらどうなるかと見守った。

やがて受話器を置くと、電話ボックスから出てきて内ポケットにしまい、俺にサムズアップする。


「オーケーです。寿命もかなり値切りましたからお得でしたよ、後は連絡を待ってて下さい」


「それはいいが、スマホかせめて携帯電話に機種変更したらどうだ。場所を取ってしょうがないだろう」


「慣れてきましたねぇ、電話ボックスを出す事に突っ込まれると期待してたんですが」


「それ言ったら、いやあ古い人間なんで……なんて言う気だったろ」


「惜しい、古い死神なんで でした」


掛け合い漫才みたいな会話をしていたら、メールが着信した。


”ご無沙汰しています、この度は当サービスの本利用をありがとうございます。

早速ご依頼の未来に進めるようにアドバイスさせていただきます。“


これだけだった。

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