第10話
「な、なんかお前っ、ごほっ、で、出会い方に懲りすぎてないか」
むせながら死神につっこんでみたが、向こうはしてやったりという顔をしている。なんか悔しい。
「適度な刺激は長生きの秘訣ですよ。ずっと平々凡々なんて刺激がないでしょう」
「ほっとけ、その平々凡々が俺の望みなんだよ」
「適度な刺激があった方が長生きするんですがねぇ」
「過度な刺激だろうが。それで何の用だ。何も無いんならぶん殴るぞ」
「ありますよ、殴らないで下さい。ずっとメールが無いから心配しているんじゃないかと思っているかも知れないからフォローしに来たんです」
たしかにそうだ。こいつ俺の気持ち読めるのか、死神ならそのくらい出来るかもしれない。
「そんなこと出来ませんよ~」
「やってるじゃないか、なんだよ早く言えよ」
「だってそんな事言ったら警戒されるじゃないですか」
「当たり前だ」
いかんな、死神の存在を完全に認めている。だからこいつも心が読めるの告白したな。まったく。
「正直、今の生活に満足しているんだ。だからこちらから問うような事はない。向こうも、この先アクシデントが無いから連絡しないんだろ」
俺の言葉に、死神は大袈裟に驚くような仕草をすると、
「なぁるほどぉ、そぉいうことでしたかぁ」
「バカにしてんのか」
「いえいえ、そういう性格だったのは知っていましたから。ただ驚いたのは、欲を出して積極的に使おうとしないところです。生活水準を上げたくなると思ってましたので」
それがお前たちの思うツボなんだろ、誰が引っ掛かるかよ。
死神は、ちっ、という顔をした、心を読んだな。どうやら心を読めても操れないらしい、それだけは助かったな。
「そりゃヒトの尊厳は大事にしますよ、そんなことしたら生きている意味無いじゃないですか」
「せめて俺が声に出してから反応してくれ、何かムカつくわ」
「これは失礼。ではもう契約を切りますか」
そう言われると惜しい気持ちが出てくるな、まあ慌てることもあるまい、期限いっぱいまでやらせてもらおう。
「そ……」
死神はあわてて口を押さえた。おお意外と律儀だな。
俺はまだ切らないと告げると、死神はわかりましたと言って、また画面の中に戻っていった。
あいつまた変わった出方するんだろうな。
結局その後もメールが届くことなく、判を捺したような生活に満足していた俺も尋ねる事もなかったので、そのまま3ヶ月が過ぎた。
最終日に、お試し期間が終わったとだけ、メールがきた。
俺の生活は満足するものだった。判を捺したような生活、平々凡々な生活、これが安心というものだ。
それから3年が経った。
俺の生活は変わらないと思ったが、同じところに3年も居ると、それなりに人の縁ができて、お付き合いというものが増えた。
なかでも経理部長とは家族ぐるみの、といっても俺が部長家族にお邪魔するだけだが、お付き合いとなった。
部長の家族構成は、部長の両親と奥さんと大学生の娘さんの5人で、娘さんは今年卒業して社会人になるところだった。
「そこ、焼けてますよ」
「ありがと、アルコールはまだ早いかな」
「いただきます」
「こら、まだ早い。あと3日くらい我慢しろ」
「いいじゃん3日くらい、誕生日の前祝いでさ」
「ダメだ、なんかあったら飲ませた方に迷惑かけるだろ」
「お父さん、ほんとにこの人がお気に入りなのね」
「いやあ、」
行き場の無くなった缶ビールを自分で飲み干す。
ここの家族バーベキューに喚ばれるのも当たり前になってきたな。
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