第8話

別にどうしても働きたい訳ではないが、世間から奇異の目で見られるのは避けたい、それと生活費。

やっぱり働かないとダメか。


セットのフライドポテトを合間につまみ、同じくセットに付いてきたホットコーヒーで口の中身を胃袋に流し込んだ。その時、メールの着信音がした。


[コンコースにある無料の求人誌を1冊取ってください。ピンク色のものです]


視線をコンコースに移すと、私鉄の改札前にあった。


食べ終えるとトレーを片付け、店を出て求人誌を取りに行く。ピンクのものはたくさんあったが、これとは指定が無かったからてきとうに棚から取る。すると


「君、昨日の人じゃないかね」


声をかけられた方をみると、昨日の男性が立っていた。


「昨日はありがとう、考え事をしていたから気づかなかったよ。それに無礼な態度をとって申し訳なかった」


「ああ、昨日の。いえ、別にいいですよ」


「ひょっとして求職中かね」


「いえその、……じつは3か月前にリストラされまして、そろそろ失業手当が心細くなったので、その……」


初対面の人にナニ話してんだ俺は。


男性は立ち話もなんだからと、私鉄改札口の隣にあるパスタがうりのカフェに誘ってくれた。しまったな、それならハンバーガー単品にすればよかったな。


あらためて昨日の事を御礼された、こちらとしてはメールのおかげで下心満載での行為だったから面映ゆい。逆に何を考えていたのか訊いてみる。


「いやまあ、ちょっとね。それより君の方はどうなんだい、リストラにあったと言ったね」


先ほど途中まで話してしまったせいか、男性の問いかけにリストラに至るまでを話してしまった。

話している途中で気がついたが、この3ヶ月ろくに人と話していなかったので、どうやら寂しかったらしい。死神とは話したがな。


「なるほど、経営者の世代交代があって経営方針が変わり、その影響で人員整理があった訳か。それで君が解雇された理由はなんだったのかな」


「特に無いです。強いて言えば人の縁が無かったからだと思います。あまり派閥とか興味なかったので」


「ちなみに会社名は」


勤めていた会社名を言うと、男性は驚いた。


「なんとあそこかね。仕事は何をしていたのかね」


俺は経理だと答えた。経理を選んだのは、どの仕事でもかならず必要な仕事だから、就職しやすいと思ったからだ。

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