第3話

「落ち着かれましたか」


俺は無言で頷いた。黒づくめは床に降り立つとその場で正座して、話し始めた。


「驚かせて申し訳ありません。ですが、一番わかりやすいやり方でしたので」


俺は、いつでも逃げ出せる体勢で話しかけた。


「何なんだおまえは」


「そうですね、わかりやすくいうと死神というヤツです」


「死神」


黒づくめをあらためて視ると、クリーニングしたばかりのような清潔感のある黒のスーツにノリのきいた白シャツそれに光沢のある黒ネクタイ。

髪は短く顔は青白く……ないな、色白だが健康的な顔色だ。ネクタイさえ白に代えれば慶事の方が似合う感じがする。

 先程の舞空術的なものを見なければ、絶対信じないのに、少しずつ俺は信じはじめている。


「……その死神がなぜ俺のところに」


「死神の仕事は決まっているでしょう」


「俺の魂が欲しいのか」


「あー、ちょっと違いますね。よくあるんですよ、悪魔と勘違いされるのは」

黒づくめ、もとい、死神はやれやれとため息をつきながら首をふった。


「人は長生きしたい、不幸にあいたくない、そういうものですから、不幸にする悪魔と御迎えにくる死神には、会いたくないのは分かりますがね、混同してほしくはないです、まったく別なものですよ」


その声は何度も言い尽くしたような落胆した言霊がのっていた。


「私の仕事というか使命は、寿命が尽きた方を御迎えして、しかるべきところに連れていくだけです。決して生命いのちを刈り取る訳でも、堕落させる訳でもないですよ」


「俺は死ぬのか」


「いえいえ貴方の寿命はまだまだ充分ありますよ。具体的な数字は言えませんが、まあ平均寿命あたりまでと思ってください」


「じゃあなんで俺のところに……」


「じつは、ちょっとお願いがありましてね」


「お願い?」


「寿命をいただけませんか」

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