5

全身をボディーソープで丁寧に洗い、シャンプーまで済ませると、俺は翔さんを抱きかかえて湯船に浸かった。


「きもちいいね?」


俺の肩口に預けた頭が、小さく動く。


「さっきはごめんね? 痛かったよね? ホント、ごめん…」


濡れた髪を撫でながら、俺は翔さんの細い腰に回した腕に少しだけ力を込めた。


ウトウトしかけた翔さんを抱いて風呂から上がると、ニノがバスタオルを手に翔さんの髪と身体を拭いてくれた。


俺はその間に自分の着替えを済ませ、ニノから翔さんを受け取ると、弛緩しきった翔さんにスウェットを着せ付けた。


「さっぱりして良かったね、翔さん」


ニノの言葉に、翔さんの瞼が僅かに持ち上がり、小さく微む。


でもそれはほんの一瞬のことで、開いたと思った瞼はすぐに閉じてしまう。


「疲れたんだね、翔さん。少し休ませてやったら?」


散々泣き喚いて、暴れて…

疲れて当然だよな…


「そうするよ」


ニノにそう答えると、俺は翔さんを抱き上げ、寝室へと運んだ。


脱力しきってズッシリと重くなった身体をベッドに横たえ、薄手の布団をかけてやると、無意識なんだろうか…


翔さんの手が俺のシャツの裾を握った。


あんな酷いことをしたのに…

翔さんを怖がらせてしまったのに…


申し訳なさとやるせなさが同時に込み上げてきて、複雑な気持ちに胸が締め付けられそうになる。


「おやすみ、翔さん」


俺は裾を握った手をそっと解くと、額に一つだけキスを落とした。


数分と待たずに聞こえてきた寝息が安定するのを確認して、俺はキッチンへと戻った。


まだ後始末が残っているから…。


キッチンに戻ると、俺はビニールの袋を手に、汚れた服やら、ティッシュやらを一纏めにし、二重にした袋の口をキュッと縛った。


「コレ外出してくるわ…」


ニノに言い残し、部屋を出て、アパートのゴミ置き場に向かった。


途中隣の住人と擦れ違ったけど、挨拶を交わすことはなかった。


ちょっと前までは、顔を合わせれば軽く言葉を交わすこともあったのに…


今じゃ、コッチが頭を下げても、怪訝そうな目で一瞥するだけで、すぐに視線を逸らしてしまう。


ずっしりと思い気持ちを抱えたまま部屋に戻ると、充満する匂いに、目眩を起こしそうになる。


この匂いだけは、消臭剤をどれだけ振り撒いても、なかなかな消えることはない。


「おかえり。コーヒー煎れといたから。飲むでしょ?」


“おかえり”なんて言う程の距離でもないのに、そう言って貰えることに、張り詰めていた心が冷静さを取り戻していくから、不思議だ。


「せっかく来て貰ったのに…悪かったね?」


ダイニングの椅子に腰を下ろした俺の前に、コーヒーの入ったマグが置かれた。


「別に構いませんよ? 逆に何もして上げられなくて、ゴメンね?」


ニノが俺に向かって頭を下げる。


どうして?

ニノが謝る必要なんてないのに…


怪我をしたから?

そのせいで翔さんの世話が出来なくなったから?


違うでしょ?

それだって、元を正せば翔さんが暴れたから…


俺がニノに甘えたから…



謝んなきゃいけないの、俺なのに…

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