4
翔真さんは全く恥じらう様子もなく、俺の前に自身を晒す。
最初こそ、俺も凝視するのを躊躇ったが、今ではもうそんなことも言ってられない。
翔真さんの足に紙パンツを通し、腰まで引き上げると、今度はデニムのジーパンを穿かせてやった。
元々は俺のお気に入りだったけど、いつの間にか翔真さんのお気に入りになっているジーパンだ。
「行こうか?」
一通り着替えが済ませ、手を引いてやると、翔真さんが小首を傾げて俺を見上げた。
もう…、忘れてるんだよね…?
「散歩、行こ?」
ほんの数分前に言った言葉を、もう一度繰り返す。
すると、嬉しそうに頬を緩ませて、翔真さんが小さく頷いた。
翔真さんの手を引き玄関へ向かうと、裸足のまま外へ出ようとする翔真さんを上り端に座らせ、靴を履かせてやる。
外に行く時は靴を履く…
当たり前のことが、今の翔真さんには当たり前じゃなくて…
この瞬間がいつも悲しくなる。
「お待たせ。行こうか?」
外で待っていた二人に声をかける。
「そう言えば近くに公園、あったよな?」
「ああ、ありますね」
確かにアパートの裏に、小さな公園がある。
「桜が丁度今見頃ですよ?」
「じゃあ、そこ行くか?」
先を歩き始めた二人の後を、俺は翔真さんの手を引いて着いて行った。
大の大人が…しかも男同士が手を繋いで歩く…
当然だけど、奇異な目で見られることも少なくはない。
最初こそ恥ずかしさもあったけど、それも今となってはもう慣れたもんで…
離せばどこへ行ってしまうか分からない翔真さんの手を、離すことなんて出来やしない。
「寒くない?」
春とは言え、たまに吹き付ける風はまだ少し冷たい。
「疲れてない?」
歩きながら、何も言わずに俺に手を引かれるまま、トボトボと着いて来る翔真さんに声をかける。
その度に翔真さんは、小首を傾げては、ニコッと笑って首を小さく振る。
きっと俺の言ってることの、半分も翔真さんは理解していないのかもしれない。
でも、言葉はなくても、そうして笑ってくれるだけで、救われる気がする。
「あ、そこじゃないですか?」
二木が立ち止まり、少し先を指さした。
「すげぇな…」
同じように足を止めた潤一が、二木の指さす先を見て、感嘆の声を上げた。
「桜、満開だよ」
珍しく声を弾ませた二木が、俺と翔真さんに向かって手招きをするから、俺の足も自然と早くなる。
「翔真さん、行こ? 桜満開だってさ」
「桜…?」
「うん、そう”桜”」
「桜…」
”桜”という言葉に反応したのか、翔真さんの歩く速度が急に早くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます