翔真さんは全く恥じらう様子もなく、俺の前に自身を晒す。


最初こそ、俺も凝視するのを躊躇ったが、今ではもうそんなことも言ってられない。


翔真さんの足に紙パンツを通し、腰まで引き上げると、今度はデニムのジーパンを穿かせてやった。


元々は俺のお気に入りだったけど、いつの間にか翔真さんのお気に入りになっているジーパンだ。


「行こうか?」


一通り着替えが済ませ、手を引いてやると、翔真さんが小首を傾げて俺を見上げた。



もう…、忘れてるんだよね…?



「散歩、行こ?」


ほんの数分前に言った言葉を、もう一度繰り返す。

すると、嬉しそうに頬を緩ませて、翔真さんが小さく頷いた。


翔真さんの手を引き玄関へ向かうと、裸足のまま外へ出ようとする翔真さんを上り端に座らせ、靴を履かせてやる。


外に行く時は靴を履く…


当たり前のことが、今の翔真さんには当たり前じゃなくて…


この瞬間がいつも悲しくなる。


「お待たせ。行こうか?」


外で待っていた二人に声をかける。


「そう言えば近くに公園、あったよな?」

「ああ、ありますね」


確かにアパートの裏に、小さな公園がある。


「桜が丁度今見頃ですよ?」

「じゃあ、そこ行くか?」


先を歩き始めた二人の後を、俺は翔真さんの手を引いて着いて行った。


大の大人が…しかも男同士が手を繋いで歩く…


当然だけど、奇異な目で見られることも少なくはない。


最初こそ恥ずかしさもあったけど、それも今となってはもう慣れたもんで…


離せばどこへ行ってしまうか分からない翔真さんの手を、離すことなんて出来やしない。


「寒くない?」


春とは言え、たまに吹き付ける風はまだ少し冷たい。


「疲れてない?」


歩きながら、何も言わずに俺に手を引かれるまま、トボトボと着いて来る翔真さんに声をかける。


その度に翔真さんは、小首を傾げては、ニコッと笑って首を小さく振る。


きっと俺の言ってることの、半分も翔真さんは理解していないのかもしれない。


でも、言葉はなくても、そうして笑ってくれるだけで、救われる気がする。


「あ、そこじゃないですか?」


二木が立ち止まり、少し先を指さした。


「すげぇな…」


同じように足を止めた潤一が、二木の指さす先を見て、感嘆の声を上げた。


「桜、満開だよ」


珍しく声を弾ませた二木が、俺と翔真さんに向かって手招きをするから、俺の足も自然と早くなる。


「翔真さん、行こ? 桜満開だってさ」

「桜…?」

「うん、そう”桜”」

「桜…」


”桜”という言葉に反応したのか、翔真さんの歩く速度が急に早くなった。

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