二木の言ってることはもっともだと思った。


実際二木が元々弱かった腰を、翔真さんの世話をすることで、悪化させてることも知っていた。


本人は俺に気を使ってなのか、何も言わないけど、二木の様子を見てれば、黙ってたって分かる。


俺にしたって同じことで、正直なことを言えば、バイトと翔さんの世話に追われる毎日に、身体は悲鳴を上げる寸前まで疲れてる。


身体だけじゃない… 心も…


でも、翔真さんと離れたくない、って気持ちもやっぱりあって…



俺のことなんて、記憶の片隅にも残ってないのに…



「まあさ、今すぐどうこうってわけじゃなくてさ、ゆっくり考えてみれば? それに、もし施設に、ってことになったら、翔真さんのご両親にだって相談しなきゃなんないだろ?」

「うん、俺にそんな権利ないからね? あくまで親族の判断に委ねなきゃいけないことだから…」


もしそうなったら、お母さんはいいとして、あのお父さんが何て言うんだろう?


あっさり首を縦に振るとは、到底思えないけど…


「なあ、それよかさ、たまには翔真さん外出してやんない? ずっと部屋ん中引きこもってばっかだと、体力だって落ちるし、何たって“刺激”が足んねぇんじゃないか?」


そう言われてみれば、翔真さんが外出するのは、もっぱら診察のある日だけで、それも病院とアパートの往復だけだ。


俺はそんなことも気づかないでいたのか…


「翔真さん、ちょっと散歩行こうか?」


部屋の隅で膝を抱えたままの翔真さんの髪を撫でてやる。


最近になって気付いた事だけど、こうしてやると、安心するのか、擽ったそうに肩を竦め、はにかんだような笑顔を見せてくれるんだ。


ちっぽけなことだけど、俺はそれがとても嬉しかった。


「散歩…?」

「うん、散歩。ほら、天気も良いしさ、たまには良くない?」


翔真さんが、戸惑ったような顔で俺を見上げる。


“散歩”の意味が分かってないんだろうか?


俺は翔真さんに“ちょっと待ってて”と言うと、少し薄めのジャンパーを箪笥の中から引っ張り出した。


見た目が気に入って買ったものの、サイズが合わず、一度も袖を通すこと無く仕舞ってあった物で、きっと翔真さんなら、サイズも合う筈だ。


「翔真さん、これ着ようか?」


ジャンパーを翔真さんの肩に掛け、腕を通してやる。


思った通り、ジャンパーのサイズは、翔真さんにピッタリで…


「うん、よく似合うよ」


そう言って頭を撫でてやると、翔真さんはやっぱりはにかんだように笑った。


「あと、コレ…、穿こうね?」


最近になって使い始めた、所謂大人用の紙パンツ。


本当は使いたくはなかったけど、尿意の感覚が薄れてきている翔真さんには、どうしても欠かせなくて…

特に外出の際には、必要不可欠になってきている。


俺は翔真さんを立ち上がらせると、ズボンと下着をずり下した。

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