そんなある日、潤一が俺のアパートを訪ねてきた。


翔真さんのことは、二木から話を聞いていたらしく、すっかり変わってしまった翔真さんを見ても、表情一つ変えることはなかった。


でも翔真さんは…


「怖い…、あっちへ行け…」


部屋の隅に膝を抱えて蹲り、そう繰り返すばかりだった。

そうなってしまうと、俺がどれだけ宥めすかしても、どうにも出来なくて…


「ごめんな、せっかく来てくれたのにさ…。多分”被害妄想”とかの症状が出てるんだと思うんだけどさ…。ほんと、ごめん…」


俺はひたすら謝ることしか出来なかった。


「お前が謝る必要はないよ。俺の濃すぎる顔が悪いんだ」


潤一はそう言って笑った。


「そうですよ、潤一の顔が悪いんですよ」


潤一の自虐気味のジョークに、二木も声を上げて笑った。

勿論俺も…


「ありがとね。そう言って貰えると、助かるよ」


皆が皆、潤一みたいに思ってくれるわけじゃない。


中にはそういうもんだ、って分かっていても、気を悪くする人だっているのが現実だ。


「ばぁか、礼なんていらないよ。それよりさ、今日はお前に話があって来たんだ」


そう言いながら、潤一は鞄の中からファイルを取り出し、それをテーブルの上に広げた。


「何…これ…」


俺はテーブルの上に広げられたパンフレットを手に取った。


「介護施設…? これって、まさか…?」


テーブルの上に広げられたのは、認知症患者専門の介護施設と、中には精神病院なんかのパンフレットもあった。


「俺もさ、色々考えたんだ。で、翔真さんのことは勿論心配だけど、俺はやっぱりお前と二木のことが気になってさ…」

「ちょ、ちょっと待って…?」


いきなりのこと過ぎて、俺の思考が追いつかない…


いや、そうじゃない。


実際、井上先生からもそういった類の話は、なかったわけじゃない。


でもそれは、俺がもう翔真さんの世話が出来ない、と判断した時のことだとしか思ってなかった。


だから、こんなにも早くそれが実現してしまうのかと思うと、どうしても戸惑わずにはいられない。


「これって、今すぐに決めなきゃダメ? もっと…」


もっと今よりも、翔真さんの症状が酷くなってからじゃ…


「いや、今すぐじゃなくてもいい、とは思う。でも、なるべく早い方がいいとは…思うけど…」


潤一の言ってることが分からないでもない。

でもまだ翔さんは…


「あ、あのさ…、別にさ、翔真さんの世話すんのがイヤ、って言ってるわけじゃないよ? でもさ、適当に区切りつけないと、それこそ共倒れになっちゃうんじゃないかな、って…」


それまで黙って聞いていた二木が、俺達の間に割って入った。

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