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「それで? 私達にどうしろと? 病気だから何とかしろと? 残念だが、アレは私の顔に泥を塗って逃げた狡い奴だ。そんな奴に、どうして私が? それとも何か、金が目的か? …まったく、君もあの男と一緒だな」
”あの男”
それは大田さんのことなんだろうか…?
そんな疑問が不意に頭を過るが、それを吹き消す勢いで俺の中には怒りにも似た感情が込み上げてきて…
俺は思わずその場に立ち上がった。
怒りからなんだろうか、硬く握った拳がプルプルと震えた。
酷い、あまりにも冷たすぎるんじゃないか…
翔真さんがあんなにも苦しんでいるのに…
意味の分からない恐怖に怯えてるのに…
それを金目的だなんて…
そんな酷いことを、どうして親が言えるんだろう…
ヤバい…、泣きそうだ俺…
鼻の奥がツンと痛くなるのを感じて、俺は慌ててセーターの袖で鼻を擦った。
この人に何を言ったところで、きっと無駄だ。
それならいっそのこと…
「分かりました。翔真さんのことは、俺が何とかします。突然訪ねて来て、こんな話…すいませんでした。翔真さんは連れて帰ります」
俺はその場で二人に向かって深々と頭を下げると、居心地の悪いリビングを出て、翔真さんの自室へと向かった。
まだ眠っているかもしれない…
翔真さんを起こさないように、ノックをすることなくドアを開けた。
「翔真さんは…まだ寝てるか…」
「話は? 済んだの? どうなったの?」
矢継ぎ早にニノが言うけど、俺はそれを無視して、ベッドに横たわる翔真さんを抱き上げた。
「二木、帰るよ?」
「…分かった」
俺の気持を察したのか、二木が荷物を纏めてから、俺の腕の中の翔真さんにコートをかけた。
「ごめんな、二木。お前に迷惑かけちゃうかも…」
階段を降りながら、二木に向かって言う。
勢いとはいえ、”翔真さんのことは俺に任せろ”的なことを言ってしまった以上、二木の協力は絶対に欠かせないわけで…
「構いませんよ? 乗り掛かった舟ですから」
お前のそんな優しさに、また俺は甘えてしまうんだ。
「それよりさ、何か食べて帰りません? 俺、腹減っちゃったよ」
「そうだね。そうしようか」
他愛もない会話を交わしながら階段を降り、誰一人見送ってくれることのない玄関を出た。
「ん…、ここ、は…?」
突然吹き付けた冷たい風に、俺の腕の中で翔真さんが目を覚ました。
その顔には、もうさっきまでの怯えも何もなく、穏やかな笑顔が浮かんでいて…
きっと自分の身に起こったことなど、忘れているんだろうなと思った。
「家、帰りましょうね?」
俺が言うと、翔真さんが小さく頷いて、俺の首に腕を巻き付けてきた。
そのまま俺達は門を抜け、駐車場に停めた車へと向かった。
一刻も早く、この何の温もりも感じられない空間から抜け出したかった。
「お待ちください」
二木がドアを開けてくれて、後部座先に翔真さんを降ろし、乗り込もうとした時、こちらに向かってお手伝いさんがパタパタと速足で駆けてきた。
「ちょっと待ってて?」
翔真さんにシートベルトをかけ、俺はドアを閉めてから、途中で息を切らして立ち止まってしまったお手伝いさんの元へと駆け寄った。
「何か…」
「あ、あのこれを…」
ハアハアと肩で息をしながら、お手伝いさんが俺に向かって封筒を差し出してきた。
お手伝いさんの手から受け取ったそれは、触れた瞬間からけっこうな厚みがあって…
「これは…?」
俺は未だ息の整わないお手伝いさんの返事を待つことなく、封筒の封を開けた。
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